夜明け前 ~婚約破棄から始まる運命の恋~

冴條玲

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第三章 たとえ、光の神を敵に回しても。

第21話 時の魔法

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 光の神リュミエールがお帰りになると、エトランジュの意識が戻った。

「よもや、光の使徒による光の聖女の奪い合いが禁忌の理由だったなど……」

 光の使徒たちも私と同じ光景を見たらしく、金華様が憤懣やる方ないとばかりに嘆かれた。

「妥当なところだな。光の聖女が火種になって、光の使徒同士で内乱を起こしているようでは愚の骨頂、本末転倒もよいところだ」

 蒼紫様が興味なさげにつぶやいた。

「なぁ、これってつまり、光の使徒と光の聖女の組み合わせでなければいいんじゃ?」
「光の使徒と光の聖女の組み合わせでなければ時が合わぬ」

 彩朱様のご提案を、金華様が言下に却下した。

「そう言うけど金華、とりあえず、オレらがガゼル公子を闇主にしてるエトランジュに仕えるなんていやだって、ガキみたいなこと言い出さない限りは、エトランジュが光の聖女で問題ないってことだろ? 当面の問題は解決したじゃんか。オレらの中にそんなガキみたいなやつがいるなら、解決してねぇけど、いるのかよ」
「――そんな者がいたなら、そもそも、試験を続けることができなかったはずだ」

 ニヤリと不敵に笑う彩朱様のご様子に、金華様が額に手を当てて嘆息された。

「皆様、光の神リュミエールに伺いを立てました。『時の魔法』が解けてしまう覚悟でなら、光の使徒が地上に降りることに支障はないようです」
「『時の魔法?』」

 私が聞くと、エトランジュが教えてくれた。
 光の聖女と光の使徒が住まう天界はそうでなくても、地上より時の流れが緩やかで、天界で一年も過ごすと、地上では三年が過ぎてしまう。
 これに加えて、光の使徒達には肉体の年齢を遅らせる『時の魔法』がかかっていて、一年につき半年分しか、肉体が年を取らない。
 デゼル様が光の使徒と相対した十四年前から、彼らの姿はほとんど変わりがないそうなんだ。地上で十四年が過ぎても、天界での時間は五年足らず、つまり、光の使徒の肉体は二歳とちょっとしか年を取っていないらしい。
 『時の魔法』は地上に降りると失われてしまい、かけなおすことはできるけれど、その都度、光の使徒の寿命を一年分、費やさなければならない。
 気軽にかけなおせる魔法じゃないそうなんだ。

「その魔法は必要でしょうか……?」
「聖サファイアの象徴である光の聖女と光の使徒には、常に、若く美しい姿であって欲しいと望まれるからな」

 光の使徒の任期は天界の時間で三十三年、地上の時間でちょうど百年。
 任期満了の時点で、光の使徒の肉体は三十代前半ということだった。
 寿命を犠牲にしてまで、その望みに応えても、地上に降りないんじゃ、その若く美しい姿をほとんど誰も見ない気がするけど。
 三十代前半の肉体で地上に降りるなら、それからでも結婚できそうな気もするけど、寿命の残りは少ないのかな?

「それらの決まりも、光の神リュミエールが定めたものではないようです。光の使徒の任を解かれ、地上に戻った後に、聖サファイアの民の一人として幸せな家庭を築けるように、若さを維持するのだとか」

 なんだ、任を解かれた後なら結婚できるんだ。
 比較的、若く見える翡翠様と彩朱様が明るく顔を輝かせた。

「へえ、時の魔法をかけることになってるの、そういう意味があったんだ。やだ、あたしこんなに美しいから地上に降りたら余裕でモテちゃうワ☆」

 紅紫様が冗談とも本気ともつかない口ぶりで仰った。

「光の聖女の退位についても伺いを立てました」

 みんながそれぞれに緊張した面持ちで、エトランジュの次の言葉を待った。
 聖サファイアはグレイスを光の聖女として即位させた後、エトランジュには帰国してもらうつもりでいたのに、グレイスが試験を放棄してしまったから。

「百年を待たず、新たな光の聖女の候補者を聖別してもよいとのことです。オプスキュリテ公国の方はまだ、お母様が闇巫女としてお護り下さっていますので、私が急いで帰国する必要はありません。次代の光の聖女が育つまでの間、私が光の聖女として聖サファイアを統べるということで、いかがでしょうか」

 ずっと、渋面だった金華様が安堵したように表情を緩めた。
 笑顔を見せると、金華様は光の使徒の中でも抜きん出てお美しい方かもしれない。

「そう願えるとありがたい。ガゼル陛下、よろしいか?」

 ガゼル陛下って、私じゃなくて父上のこと。
 私は父上の御名をそのまま受け継いだ、ガゼル二世なんだ。
 なぜ、兄上ではなく私に御名を継がせたのかと思っていたら、ガゼルの名を継がせた公子と闇巫女を結ばせることが、父上の悲願だったらしくて。
 エトランジュが光の使徒の誰でもなく、私を選んだことにいたくご満悦の父上が、ご機嫌麗しく仰った。

「ガゼルのこともまた、エトランジュの闇主として貴国の聖地に受け入れてもらえるのであれば構いませんよ」
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