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第二章 白馬の王子様

第55話 町人Sは幸福に輝いた三年間を振り返る

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 それからの二年半、小学校に通っていた頃のデゼルは、どんな曇りも瑕疵かしもなく、誰よりも輝いて見えた。
 デゼルにとっては、みんなに愛されて、守られて、その生涯で最良の、幸せに過ごせた時代だったと思う。

 ネプチューン皇子からは、三年後、本当に皇太子ウラノスから公国を滅ぼすよう外征を命じられたら、デゼルの話を信じて決起するというお返事を頂けた。
 ユリア様も口添えしてくれたみたい。

 デゼルとジャイロと、時にはガゼル様と三人で進めた闇の十二使徒の破滅を阻止する計画も順調で、ジャイロのお父さんとデゼル、ユリシーズを除いた、九人すべてを助けてあげられたんだ。
 水神の奥義はまだ二回分残ってるから、ユリシーズもきっと、助けてあげられると思う。
 ジャイロもガゼル様もすごく頼りになって、僕、デゼルの闇主として後れをとりたくなかったから、一生懸命、頑張ったんだよ。
 そのかいあって、デゼルはもちろん、ジャイロにもガゼル様にも、僕のことも対等な仲間と認めてもらえたことが、僕にはすごく、嬉しかったんだ。

 その時のことも、いつか、話せたらいいな。

 凄惨な悲劇の後だって、デゼルは決して、ただ不幸に過ごしたわけではなかったと思う。いつだって、絶やさずにいてくれたデゼルの優しい笑顔が、すべて、つくりものだったとは思えないから。
 だけど、守ってあげられなかったデゼルはすごく儚くなってしまって、デゼルがどれほどの痛みと悲しみを抱きながら、笑顔でいてくれたのか――
 考えると僕は、どうしようもなく悲しくなって、胸が苦しくなるんだ。
 だって、デゼルに負わせてしまった癒えない傷は、僕が負うはずだったもの。
 まるで、デゼルを僕の運命の身代わりにしてしまったようで。

 僕たちが初めて会った秋の日に、デゼルが僕を助けていなければ。
 もう会えないと思った春の日に、僕がデゼルにプロポーズしていなければ。
 デゼルがここまで、つらい思いや悲しいを思いを強いられることはなかったんじゃないかって――

 だけど、ガゼル様と約束したんだ。
 デゼルの前では何があっても強くいて、デゼルを悲しませないこと。

 僕よりずっと、つらい目に遭ったデゼルが笑っていてくれるのに、僕の方が悲嘆に暮れていられない。
 ガゼル様との約束を守ろう、何があっても強くいて、デゼルを悲しませたりするもんかって、僕、心に誓ってた。

 僕は――
 僕の生涯には、いいことしかなかった。
 デゼルと出会った後には、嬉しいこと、楽しいこと、素敵なことが降り続けて、たくさんあった悲しい夜すら、僕にとっては嬉しいことをもっと嬉しく、素敵なことをもっと素敵に感じるための、聖夜でしかなかった。

 ねぇ、デゼルは僕の傍で幸せでいてくれた?

 僕の大切な人達を、僕のすべてを、最後のその時まで、デゼルは守り続けてくれたんだ。
 いつだって、僕を愛してくれた。見詰めてくれた。僕の話を聞いてくれた。

 僕の生涯は幸せだったよ。

 明日の見えなかった僕に。
 大人になんてなれないはずだった僕に。

 優しい人達と神様が、すべてを与えてくれたんだ。

 願わくは、デゼルの生涯も幸せなものであったことを――
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