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第二章 白馬の王子様
第54話 公子様との帝国探検
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襲撃はあったけど、ネプチューン皇子とユリア様との初めての会談は、まずまず、うまくいったみたいだった。
「アスタール邸?」
その日の夜、僕とデゼルはガゼル様のVIPルームに泊めてもらって、フカフカの寝台に寝転んで、三人でたくさんお話したんだ。
いつもは綺麗に結い上げられた、ガゼル様のきらめくプラチナ・ブロンド、もうすぐおやすみになるからって、下ろしてもすごく綺麗だった。
ガゼル様が窓辺に座ったりしたら、月明かりにきらきら、幻想的な美しさで。
それって、デゼルも同じなんだけど。
僕、ガゼル様とデゼルが世界で一番、綺麗だと思うんだ。
他の人達は、今日会ったネプチューン皇子やユリア様の方が綺麗だって言ってたけど、僕はあんまり、帝国の人達を綺麗だとは思わなくて。
ネプチューン皇子をじっと見詰めてたユリシーズ、一目惚れしたんだって、ジャイロが困ってた。
「何度か、私とサイファとジャイロで訪ねようとして、失敗していて」
「えぇ! デゼル、まさか、サイファとジャイロと三人で帝国に?」
「はい。クロノスの魔法でいざという時に帰還できるのが三人までなので」
ガゼル様が幾分、血の気を引かせた顔で口元を覆った。
「参ったな、三人ならいいっていうつもりで、二人で出国しないようにと言ったわけじゃなかったんだけど」
『えぇえ!』
僕とデゼルの声が重なった。
「だけど、そうか、クロノスの魔法――いざという時、すぐに帰還できるっていうのは捨てがたいね」
僕とデゼルがこくこくうなずいたら、苦笑して僕達を眺めたガゼル様が仰った。
「アスタール邸には、明日にでも私と行こうか」
**――*――**
「サイファ、デゼルをガード!」
「はい!」
ガゼル様の剣閃が、陽の光を弾いて美しくきらめいた。
昨日、襲撃された時にも思ったけど、ガゼル様って、闘っても優雅なんだ。
しかも、ジャイロより強い。
無駄な動きのない、速くて正確な剣さばき。
ガゼル様のスマートで優美な身体のどこにこれだけの力があるのかと思うくらい、鋭い斬撃。
昨日、僕にも剣術を指導してもらえないかと思って聞いてみたんだけど、殺す覚悟ができないうちは教えられないって。
土壇場でためらうくらいなら、最初から殺さない闘い方を覚えるようにって。
ガゼル様ご自身は殺すこともある方だけど、ジャイロに比べれば、殺さずに戦闘不能に持ち込む技術が高いんだ。
なるべくなら、殺したくないからこそ、そういう技術を修められたんだよね。
誰よりも厳しくて、誰よりも優しい方なんだ。
今日は僕とデゼル、ガゼル様の他に、ガゼル様の近衛が三人。
平時に自力で帰還できない近衛隊士なんていないから、いざという時には、僕とデゼルとガゼル様の三人で帰還すればいいんだって。
襲撃されて間もなく、少し遅れて僕達を追ってくれていた近衛隊士の人達が追いついてきて、後は、片づけてくれた。
あまり、ぞろぞろ歩いても目立つから、自然な距離をあけてもらっていたんだ。
「こんなに、ラクな戦い方でいいのかな……」
ジャイロと組んで戦う時には、もっと、ひやっとすることがたくさんあったから。
僕の途惑いがちなつぶやきを、ガゼル様は聞き逃さなかった。
「サイファ、闇主なら、確実にデゼルを守れる戦いしか、したら駄目だよ。危険な戦いからは、デゼルを連れて逃げるんだ。闇主の務めは戦うことじゃない、デゼルを守ることだと忘れないで」
「あ……の、はい!」
僕、戦うのが務めのジャイロと組み過ぎて、いつの間にか、僕は死鬼じゃなくて闇主なんだってこと、忘れかけてたのかもしれない。
ガゼル様の仰る通りだ。
僕が目標にするべき強さ、闇主としての優先順位、死鬼のジャイロとは違って当たり前だったのに。
取り返しのつかない事態を招く前に、目が覚めてよかった。
「この者たちはいかが致しましょう」
「官憲に――アスタールじゃなく、首都の官憲に引き渡してくれるかな」
それで近衛が二人、別行動になった後。
「どうして、アスタールじゃなく、首都の官憲に?」
「デゼルの話だと、アスタールは領政に問題があるようだから。白昼堂々、当たり前に賊が出るとなると、官憲と賊がつながっていないとも限らない。念のため、かな」
僕、すごく感心しちゃった。
ガゼル様ってやっぱりすごい。
僕はもちろん、デゼルだって、そこまでは考えつかなかったのに。
その後は、残り一人になった近衛隊士に一緒に歩いてもらったら、もう、賊は出なかった。
やっぱり、大人が一緒だと違うのかな。
デゼルを無事にアスタール邸の時の精霊と契約させて、ガゼル様との初めての冒険は終わったけど。
時の精霊との契約だけじゃなく、アスタール領の悲劇の阻止は、丸ごと、ガゼル様と進めることになったんだ。
この領地は政治的な問題が多かったし、必要に応じてデゼルが無敵の水神になれるとしても、子供だけで進めるにはリスクが高すぎるとガゼル様が判断されて。
選り抜きの近衛隊士にも手伝ってもらっての長期戦、それでも大変だったんだ。
ガゼル様の判断は、すごく正しかった。
「アスタール邸?」
その日の夜、僕とデゼルはガゼル様のVIPルームに泊めてもらって、フカフカの寝台に寝転んで、三人でたくさんお話したんだ。
いつもは綺麗に結い上げられた、ガゼル様のきらめくプラチナ・ブロンド、もうすぐおやすみになるからって、下ろしてもすごく綺麗だった。
ガゼル様が窓辺に座ったりしたら、月明かりにきらきら、幻想的な美しさで。
それって、デゼルも同じなんだけど。
僕、ガゼル様とデゼルが世界で一番、綺麗だと思うんだ。
他の人達は、今日会ったネプチューン皇子やユリア様の方が綺麗だって言ってたけど、僕はあんまり、帝国の人達を綺麗だとは思わなくて。
ネプチューン皇子をじっと見詰めてたユリシーズ、一目惚れしたんだって、ジャイロが困ってた。
「何度か、私とサイファとジャイロで訪ねようとして、失敗していて」
「えぇ! デゼル、まさか、サイファとジャイロと三人で帝国に?」
「はい。クロノスの魔法でいざという時に帰還できるのが三人までなので」
ガゼル様が幾分、血の気を引かせた顔で口元を覆った。
「参ったな、三人ならいいっていうつもりで、二人で出国しないようにと言ったわけじゃなかったんだけど」
『えぇえ!』
僕とデゼルの声が重なった。
「だけど、そうか、クロノスの魔法――いざという時、すぐに帰還できるっていうのは捨てがたいね」
僕とデゼルがこくこくうなずいたら、苦笑して僕達を眺めたガゼル様が仰った。
「アスタール邸には、明日にでも私と行こうか」
**――*――**
「サイファ、デゼルをガード!」
「はい!」
ガゼル様の剣閃が、陽の光を弾いて美しくきらめいた。
昨日、襲撃された時にも思ったけど、ガゼル様って、闘っても優雅なんだ。
しかも、ジャイロより強い。
無駄な動きのない、速くて正確な剣さばき。
ガゼル様のスマートで優美な身体のどこにこれだけの力があるのかと思うくらい、鋭い斬撃。
昨日、僕にも剣術を指導してもらえないかと思って聞いてみたんだけど、殺す覚悟ができないうちは教えられないって。
土壇場でためらうくらいなら、最初から殺さない闘い方を覚えるようにって。
ガゼル様ご自身は殺すこともある方だけど、ジャイロに比べれば、殺さずに戦闘不能に持ち込む技術が高いんだ。
なるべくなら、殺したくないからこそ、そういう技術を修められたんだよね。
誰よりも厳しくて、誰よりも優しい方なんだ。
今日は僕とデゼル、ガゼル様の他に、ガゼル様の近衛が三人。
平時に自力で帰還できない近衛隊士なんていないから、いざという時には、僕とデゼルとガゼル様の三人で帰還すればいいんだって。
襲撃されて間もなく、少し遅れて僕達を追ってくれていた近衛隊士の人達が追いついてきて、後は、片づけてくれた。
あまり、ぞろぞろ歩いても目立つから、自然な距離をあけてもらっていたんだ。
「こんなに、ラクな戦い方でいいのかな……」
ジャイロと組んで戦う時には、もっと、ひやっとすることがたくさんあったから。
僕の途惑いがちなつぶやきを、ガゼル様は聞き逃さなかった。
「サイファ、闇主なら、確実にデゼルを守れる戦いしか、したら駄目だよ。危険な戦いからは、デゼルを連れて逃げるんだ。闇主の務めは戦うことじゃない、デゼルを守ることだと忘れないで」
「あ……の、はい!」
僕、戦うのが務めのジャイロと組み過ぎて、いつの間にか、僕は死鬼じゃなくて闇主なんだってこと、忘れかけてたのかもしれない。
ガゼル様の仰る通りだ。
僕が目標にするべき強さ、闇主としての優先順位、死鬼のジャイロとは違って当たり前だったのに。
取り返しのつかない事態を招く前に、目が覚めてよかった。
「この者たちはいかが致しましょう」
「官憲に――アスタールじゃなく、首都の官憲に引き渡してくれるかな」
それで近衛が二人、別行動になった後。
「どうして、アスタールじゃなく、首都の官憲に?」
「デゼルの話だと、アスタールは領政に問題があるようだから。白昼堂々、当たり前に賊が出るとなると、官憲と賊がつながっていないとも限らない。念のため、かな」
僕、すごく感心しちゃった。
ガゼル様ってやっぱりすごい。
僕はもちろん、デゼルだって、そこまでは考えつかなかったのに。
その後は、残り一人になった近衛隊士に一緒に歩いてもらったら、もう、賊は出なかった。
やっぱり、大人が一緒だと違うのかな。
デゼルを無事にアスタール邸の時の精霊と契約させて、ガゼル様との初めての冒険は終わったけど。
時の精霊との契約だけじゃなく、アスタール領の悲劇の阻止は、丸ごと、ガゼル様と進めることになったんだ。
この領地は政治的な問題が多かったし、必要に応じてデゼルが無敵の水神になれるとしても、子供だけで進めるにはリスクが高すぎるとガゼル様が判断されて。
選り抜きの近衛隊士にも手伝ってもらっての長期戦、それでも大変だったんだ。
ガゼル様の判断は、すごく正しかった。
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