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第三章 闇を彷徨う心を癒したい
第66話 終わりは怖くない
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「サイファ、グノースというのは地名だろうか、人名だろうか、魔法やスキルの名だろうか。あるいは、皇子が向かったという天界と関係のあるものだろうか」
スノウフェザーにデゼルの手掛かりはなく、ついに、七日が過ぎてしまった。
いまだ、僕達にはデゼルが公国にいるのか、帝国にいるのか、そのどちらでもない他国にいるのかさえ、わからないままだった。
最悪は、天界とか魔界とかのような場所にいることだって考えられるんだ。
だって、デゼルを連れ去ったのは邪神なんだから。
「わかりません。ですが、手がかりがまったくない以上、ネプチューン皇子が知っていることに賭けて、皇子の帰還を待つのはいかがでしょうか」
デゼルの話では、ユリア様が亡くなるのは公国が侵攻されている最中のはずだったんだ。だとしたら――
「今、デゼルだけでなく公国の命運も正念場です。デゼルにもしものことがあった場合に、皇子がどうするか、最悪は公国に侵攻する方向にいってしまうかもしれません。それだけは、何としても止めないと。僕達は、公国を守ろうとすればデゼルが酷い目に遭うかもしれないと承知で、公国を守るために動いてきたんです。この上、公国を滅ぼされてしまったら、デゼルがあんまり――」
ガゼル様は僕だけじゃなく、公国の大公陛下や、帝国に随伴した近衛の人達にも相談しながら、デゼルを探してきたんだ。
そこまでしても、手がかりさえ見つからない。
ガゼル様は、夜明けの守護がデゼルを守っている七日の間に、どうしてもデゼルを探し出したかったはずなんだ。
今、どんなお気持ちでいらっしゃるだろう。
そんなことを考えていたら、僕の方が、ガゼル様に聞かれちゃった。
「サイファは、随分と落ち着いて見えるね。デゼルの命がなくなれば、サイファの命もないと知っていて、そうなの?」
どうなんだろう。
僕はあんまり、自分がどんな状態なのか、自分では、よくわからないみたい。
「闇主にかかる呪いのことは知っています」
「あせったり、恐れたり、まるで、していないように見えるのだけど」
「? ガゼル様もそう見えます」
僕、ふつうだよね?
「うーん、私はだって、物心ついた頃から闇主になるものだと思って、覚悟もしていたし。サイファの覚悟を甘くみていたのかな。サイファは、明日にも命がなくなるかもしれないのに、怖くないの?」
どうしてだろう、僕、ふふって笑ってた。
「はい。ずっと――父さんが帰ってこなくなってからは、明日にも命がなくなるかもしれないのは、あたりまえだったから。僕、気がついたんです。鳥だって、魚だって、そうなんだって。明日にも命がなくなるかもしれなくても、みんな、一生懸命に生きてて。でも、僕に獲られて、食べられて、命が終わって。僕の命もいつか終わるけど、たとえそれが明日でも、怖がっていたら生きていけない。それよりも、生きているからこそできることを、せっかく、まだ命があるんだからしようって」
どうしてなのか、ガゼル様が何かを恥じるようにほんのり頬を染めて、せっかくの綺麗な顔をうつむかせてしまった。
「それは、たとえば?」
「今は、デゼルを助けてあげたい。闇主じゃなかったら、もっと、今の状況が怖かったかもしれないけど」
「? 闇主じゃなかったら、怖いの?」
ガゼル様は、不思議そうだった。
「はい。デゼルが死んでしまったら、僕は耐えられないくらい、寂しくて悲しい思いをするかもしれないから。だけど、つらくなれるのは僕が生きていればこそです。僕は闇主だから、デゼルが死んでしまう時には生きていないでしょう?」
「サイファって――」
すごく、珍しい生き物を見るように僕を見たガゼル様が、くすっと笑った。
「翠の瞳が綺麗だね。サイファにはいつかの誓いの通り、デゼルと一緒にいつまでも私に仕えて欲しかったな」
スノウフェザーにデゼルの手掛かりはなく、ついに、七日が過ぎてしまった。
いまだ、僕達にはデゼルが公国にいるのか、帝国にいるのか、そのどちらでもない他国にいるのかさえ、わからないままだった。
最悪は、天界とか魔界とかのような場所にいることだって考えられるんだ。
だって、デゼルを連れ去ったのは邪神なんだから。
「わかりません。ですが、手がかりがまったくない以上、ネプチューン皇子が知っていることに賭けて、皇子の帰還を待つのはいかがでしょうか」
デゼルの話では、ユリア様が亡くなるのは公国が侵攻されている最中のはずだったんだ。だとしたら――
「今、デゼルだけでなく公国の命運も正念場です。デゼルにもしものことがあった場合に、皇子がどうするか、最悪は公国に侵攻する方向にいってしまうかもしれません。それだけは、何としても止めないと。僕達は、公国を守ろうとすればデゼルが酷い目に遭うかもしれないと承知で、公国を守るために動いてきたんです。この上、公国を滅ぼされてしまったら、デゼルがあんまり――」
ガゼル様は僕だけじゃなく、公国の大公陛下や、帝国に随伴した近衛の人達にも相談しながら、デゼルを探してきたんだ。
そこまでしても、手がかりさえ見つからない。
ガゼル様は、夜明けの守護がデゼルを守っている七日の間に、どうしてもデゼルを探し出したかったはずなんだ。
今、どんなお気持ちでいらっしゃるだろう。
そんなことを考えていたら、僕の方が、ガゼル様に聞かれちゃった。
「サイファは、随分と落ち着いて見えるね。デゼルの命がなくなれば、サイファの命もないと知っていて、そうなの?」
どうなんだろう。
僕はあんまり、自分がどんな状態なのか、自分では、よくわからないみたい。
「闇主にかかる呪いのことは知っています」
「あせったり、恐れたり、まるで、していないように見えるのだけど」
「? ガゼル様もそう見えます」
僕、ふつうだよね?
「うーん、私はだって、物心ついた頃から闇主になるものだと思って、覚悟もしていたし。サイファの覚悟を甘くみていたのかな。サイファは、明日にも命がなくなるかもしれないのに、怖くないの?」
どうしてだろう、僕、ふふって笑ってた。
「はい。ずっと――父さんが帰ってこなくなってからは、明日にも命がなくなるかもしれないのは、あたりまえだったから。僕、気がついたんです。鳥だって、魚だって、そうなんだって。明日にも命がなくなるかもしれなくても、みんな、一生懸命に生きてて。でも、僕に獲られて、食べられて、命が終わって。僕の命もいつか終わるけど、たとえそれが明日でも、怖がっていたら生きていけない。それよりも、生きているからこそできることを、せっかく、まだ命があるんだからしようって」
どうしてなのか、ガゼル様が何かを恥じるようにほんのり頬を染めて、せっかくの綺麗な顔をうつむかせてしまった。
「それは、たとえば?」
「今は、デゼルを助けてあげたい。闇主じゃなかったら、もっと、今の状況が怖かったかもしれないけど」
「? 闇主じゃなかったら、怖いの?」
ガゼル様は、不思議そうだった。
「はい。デゼルが死んでしまったら、僕は耐えられないくらい、寂しくて悲しい思いをするかもしれないから。だけど、つらくなれるのは僕が生きていればこそです。僕は闇主だから、デゼルが死んでしまう時には生きていないでしょう?」
「サイファって――」
すごく、珍しい生き物を見るように僕を見たガゼル様が、くすっと笑った。
「翠の瞳が綺麗だね。サイファにはいつかの誓いの通り、デゼルと一緒にいつまでも私に仕えて欲しかったな」
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