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第四章 叶わない願いはないと信じてる
第89話 悪役令嬢はヒロインの激怒を買う
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「京奈、私よ! ユリシーズじゃない、私がそうなの」
僕を目標にしたクロノスで戻ってきたデゼルが、ケイナ様に必死な様子で訴えたけど、何のことなのか、僕にはわからなかった。
「お願い、話は私もしたい。でも、先に、サイファを解放して欲しいの」
「京奈、デゼルは蠱惑の魔女だ。下手に話せば洗脳されるやもしれぬ」
僕に短剣を突きつけたままの光の使徒が言った。
悔しい。
僕達、そんなことしないのに。真実がこんなにも無力だなんて。
「でも、闇主たちは確かに僕達に危害を加えようとしないし、信じてあげてもいいんじゃ」
光の使徒の一人らしい、優しい胡桃色の髪の少年が、助け舟を出してくれた。
優しい人もいるんだね。
当たり前か。
僕達を信じてくれない光の使徒だって、悪い人なわけじゃない。
陛下と僕達の評判が悪すぎるんだ。
「翡翠、人質を解放してもそうだとは限らない」
「それは、……そうかもしれないけど」
翡翠と呼ばれた少年が、申し訳なさそうにデゼルを見た。
たった一人でも、僕達に優しい光の使徒がいてくれて、僕は少しだけほっとした。
光の使徒の誰一人として、僕達の話なんて聞く耳持たないわけじゃないことに。
「……いいわ、デゼル。落ち着ける場所で話しましょう。山賊達は、あなたの闇主達が片づけてくれるようだし。蒼紫、油断しないで。その人はまだ解放できない」
「わかった」
デゼルはケイナ様と一緒に、木立の中に消えてしまった。
「いいカッコだな」
唐突に、かけられた陛下の声に、僕は息を呑んで目を上げた。
長身の美青年、旅の剣士に扮したネプチューン様が、冷たく僕を見下ろしていた。
デゼルの足手まといになってる姿を陛下に見下ろされるのは、ひどく、屈辱的だった。
陛下はそれ以上、僕には構わず、二人を追うように木立の中に消えてしまった。
デゼルのこと、陛下が助けて下さるのかな。
七年前のあの時と同じなんだ、悔しいな。
しばらくして、あわてた様子で戻ってきたケイナ様が、僕達に聞いた。
「ネルを見なかった!?」
「京奈、ネルのことなら私が――」
デゼルが何か言いかけたけど、光の使徒がネルは戻ってきていないと答えるのを聞くと、ケイナ様の顔から見る間に血の気が失せた。
「デゼル、あなたの魅了スキルと私の聖女の力、どちらが強いかしらね?」
怒りに震える声で、ケイナ様が囁いた。
「蒼紫、翡翠、話し合いに応じてはもらえなかった。ネプチューンとユリシーズに停戦の意志がない以上、ネプチューンの副官であるデゼルも見逃すわけにはいかない。ここで討ちましょう」
「京奈!?」
「京奈、待って! それは可哀相だよ、デゼルは抵抗しないみたいだし、捕虜にしたんじゃ駄目なの?」
「翡翠、ネプチューンがしたことを忘れたのか。デゼルもまた、無辜の民を魔物に変えたネプチューンに与する者だ、少女の姿に惑わされるな」
翡翠様が泣きそうな顔をして、僕とデゼルを交互に見た。
デゼルが話し合いに応じないなんて、そんなこと、絶対にない。
いったい、陛下は何をなさったんだろう。
「京奈、聞いて! ネルのことなら私が――!」
「黙って、蠱惑の魔女であるあなたに、それ以上の口をきかせるわけにはいかない」
デゼルはずっと、ケイナ様に話しかけようとしているのに。
聞く耳を持っていないのはケイナ様なんだ。――どうしたら!?
「待って下さい、デゼルは、皇帝の悪事に与しては――!」
ケイナ様に訴えても無駄なら、光の使徒に訴えてみようと思った僕に、ケイナ様がぜんまいを組み合わせたような、奇妙な形状の杖を突きつけた。
「安心していいのよ、サイファ、だったわね? 私達、無抵抗のデゼルを討ったりしない。蒼紫も翡翠も聞いて、デゼルの裁きは闇主に任せましょう。デゼルの魔力に心を奪われ、奴隷とされてきた者にこそ、彼女を裁く権利があると思うの」
なんだ、びっくりしちゃった。
僕、ケイナ様はデゼルを殺すつもりなんだと早とちりしてしまって。
僕に裁かせる形で、光の使徒たちにデゼルの潔白を訴えて下さるんだ。
そういうことなら――
デゼルの足手まといになってしまって、僕は、冷静じゃなかったみたいだ。
カッコ悪いな。悔しいな。
僕を目標にしたクロノスで戻ってきたデゼルが、ケイナ様に必死な様子で訴えたけど、何のことなのか、僕にはわからなかった。
「お願い、話は私もしたい。でも、先に、サイファを解放して欲しいの」
「京奈、デゼルは蠱惑の魔女だ。下手に話せば洗脳されるやもしれぬ」
僕に短剣を突きつけたままの光の使徒が言った。
悔しい。
僕達、そんなことしないのに。真実がこんなにも無力だなんて。
「でも、闇主たちは確かに僕達に危害を加えようとしないし、信じてあげてもいいんじゃ」
光の使徒の一人らしい、優しい胡桃色の髪の少年が、助け舟を出してくれた。
優しい人もいるんだね。
当たり前か。
僕達を信じてくれない光の使徒だって、悪い人なわけじゃない。
陛下と僕達の評判が悪すぎるんだ。
「翡翠、人質を解放してもそうだとは限らない」
「それは、……そうかもしれないけど」
翡翠と呼ばれた少年が、申し訳なさそうにデゼルを見た。
たった一人でも、僕達に優しい光の使徒がいてくれて、僕は少しだけほっとした。
光の使徒の誰一人として、僕達の話なんて聞く耳持たないわけじゃないことに。
「……いいわ、デゼル。落ち着ける場所で話しましょう。山賊達は、あなたの闇主達が片づけてくれるようだし。蒼紫、油断しないで。その人はまだ解放できない」
「わかった」
デゼルはケイナ様と一緒に、木立の中に消えてしまった。
「いいカッコだな」
唐突に、かけられた陛下の声に、僕は息を呑んで目を上げた。
長身の美青年、旅の剣士に扮したネプチューン様が、冷たく僕を見下ろしていた。
デゼルの足手まといになってる姿を陛下に見下ろされるのは、ひどく、屈辱的だった。
陛下はそれ以上、僕には構わず、二人を追うように木立の中に消えてしまった。
デゼルのこと、陛下が助けて下さるのかな。
七年前のあの時と同じなんだ、悔しいな。
しばらくして、あわてた様子で戻ってきたケイナ様が、僕達に聞いた。
「ネルを見なかった!?」
「京奈、ネルのことなら私が――」
デゼルが何か言いかけたけど、光の使徒がネルは戻ってきていないと答えるのを聞くと、ケイナ様の顔から見る間に血の気が失せた。
「デゼル、あなたの魅了スキルと私の聖女の力、どちらが強いかしらね?」
怒りに震える声で、ケイナ様が囁いた。
「蒼紫、翡翠、話し合いに応じてはもらえなかった。ネプチューンとユリシーズに停戦の意志がない以上、ネプチューンの副官であるデゼルも見逃すわけにはいかない。ここで討ちましょう」
「京奈!?」
「京奈、待って! それは可哀相だよ、デゼルは抵抗しないみたいだし、捕虜にしたんじゃ駄目なの?」
「翡翠、ネプチューンがしたことを忘れたのか。デゼルもまた、無辜の民を魔物に変えたネプチューンに与する者だ、少女の姿に惑わされるな」
翡翠様が泣きそうな顔をして、僕とデゼルを交互に見た。
デゼルが話し合いに応じないなんて、そんなこと、絶対にない。
いったい、陛下は何をなさったんだろう。
「京奈、聞いて! ネルのことなら私が――!」
「黙って、蠱惑の魔女であるあなたに、それ以上の口をきかせるわけにはいかない」
デゼルはずっと、ケイナ様に話しかけようとしているのに。
聞く耳を持っていないのはケイナ様なんだ。――どうしたら!?
「待って下さい、デゼルは、皇帝の悪事に与しては――!」
ケイナ様に訴えても無駄なら、光の使徒に訴えてみようと思った僕に、ケイナ様がぜんまいを組み合わせたような、奇妙な形状の杖を突きつけた。
「安心していいのよ、サイファ、だったわね? 私達、無抵抗のデゼルを討ったりしない。蒼紫も翡翠も聞いて、デゼルの裁きは闇主に任せましょう。デゼルの魔力に心を奪われ、奴隷とされてきた者にこそ、彼女を裁く権利があると思うの」
なんだ、びっくりしちゃった。
僕、ケイナ様はデゼルを殺すつもりなんだと早とちりしてしまって。
僕に裁かせる形で、光の使徒たちにデゼルの潔白を訴えて下さるんだ。
そういうことなら――
デゼルの足手まといになってしまって、僕は、冷静じゃなかったみたいだ。
カッコ悪いな。悔しいな。
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