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第四章 叶わない願いはないと信じてる
第103話 神言
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「デゼルあなた、やっぱり、サイファの目の前で闇主たちにマワしてもらいなさい。その後、サイファの手で殺してもらうのよ? それで許してあげる。そうしたら、あなたの大事なサイファだけは見逃してあげる。汚らわしいものを美味しそうに丁寧になめて、甘い声で気持ちよさそうに鳴くのよ? そうしなかったら、サイファの両手両足、一本ずつ、切り落としてあげるからね? あなた、マワされるのが大好きだもの、初めてじゃないからできるわね」
「やめて、京奈!」
ケイナ様に感謝、かな。
僕、デゼルのために何ができるのかわかった。
「デゼル、立って」
びくっと肩を震わせたデゼルが、涙ぐみながら僕を振り向いた。
「ケイナ、デゼルは這いつくばって、あなたに真剣に命乞いをしている。あなたには見えないの」
「チガアウッ!」
「ケイナ、あなたはデゼルにそんなことを望まない。思い出して」
「――! オマエに何がわかる! 私はデゼルに『そんなこと』を望むのよ! デゼルがぐちゃぐちゃに犯されて、私より惨めな汚物らしく、私に命乞いするのを見たいのッ! 愛し合ってるつもりだったオトコに捨てられて、無惨に殺される瞬間の、デゼルの絶望に彩られた目の色を見タイのヨッ!」
僕は一度、目を伏せて、僕の考えと状況に違和感がないのを確かめた。
それからデゼルを見た。
「その人はケイナじゃない、エリス様だ。いつかも言ったね、その人に跪かないで、デゼル」
にたっと、ケイナ様が場違いに嗤った。
「あら、あなたにはわかるの? 私をエリス様だなんて光栄だわ。だけど、ちょっと、違うんじゃなァい? あなたも私に跪きなさいよ。デゼルはどうなってもいいから、僕の命だけは助けて下さいって、お願いしなさい。デゼルもそれを望んでいるワ?」
「『デゼル』」
デゼルは僕を失ってまで生きることを望まない。
それは僕も同じ。
デゼルを僕の目の前で七年前と同じ目に遭わせるくらいなら、僕もデゼルも、そこまでして生きることなんて望まないんだ。
エトランジュは大丈夫だよ。
僕が知る中で、一番、確かな方に預けたから。
ガゼル様なら、必ず、エトランジュを幸せにして下さるから。
「『僕はどうなってもいい、デゼルもどうなってもいい、ケイナをエリスから解き放て! 僕に従え、デゼル』」
「――はい」
憂いは。
エトランジュに手出しをするかもしれないのは、エリス様だ。
デゼル、僕と二人で解放しよう。
きっと、僕とデゼルのすべてを懸けてもできないことなんて、何ひとつないんだ。
デゼルの瞳の中に揺れていた迷いも恐怖も混乱も、すべて、僕に預けて。
今はただ、僕に従って。
ケイナ様をひたと見据えたデゼルが、ケイナ様に向かって真っ直ぐに疾駆した。
「彩朱、サイファの腕を切り落として!」
「『デゼル、僕の声だけを聞け! ケイナをエリスから解き放て!』」
不思議だね、痛みは感じなかった。
斬り落とされた僕の腕が転がるのが、ただの悪夢のようだった。
デゼルは泣いていたけど、怯まなかった。
大丈夫、僕の声が聞こえてる。
僕の声が、ちゃんと、デゼルの魂に届いてる。
ケイナ様の肩をつかんだデゼルが、上位魔法の宣言を開始した。
僕は今さら、デゼルが魔法を封印されているのを思い出したけど、杞憂だった。
『すべての腐敗を焼き尽くす灼熱の浄化の炎』
「金華、サイファの目をえぐって!」
上位魔法というだけあって、この魔法、強いんだ。
言霊が封印の影響を受けず、きちんと紡がれてゆくのがわかる。
三十秒――
僕の意識と命をもたせないと。
僕が崩れたら、デゼルは頑張れない。
今、デゼルとエトランジュに僕が必要なんだ。絶対に、デゼル一人を頑張らせて、先に逝ったりしない。
三十秒、死んでも生きてみせるから。
『大罪さえも憎悪すらも、すべてを深遠の淵に呑み込み無に帰す黄泉の水』
「――イレイズ! 闇主ども、おまえたちを奴隷にしたデゼルを襲え!」
「『デゼル、それでいい、ケイナをエリスから解き放て!』」
ああ、いやだな。
彼らを許したくなっちゃうよ。
この七年の間に、闇主たちの中に育まれてきたのは、デゼルへの憎悪や怨念じゃなかったみたいだ。
魅了を解かれた闇主たちの表情には、途惑いの色が濃い。
『偉大なる軍神マルスと、慈悲深き忘却の神レーテーの名において』
「もういい、誰かデゼルを殺して!」
光の使徒たちにも、闇主たちにも、デゼルを殺そうなんて自由意思はない。
言霊を紡いでの命令でない限り、誰も動かないよ、ケイナ様。
『今ここに災禍を封印する。【昇華】――ターゲット・京奈!』
「いやぁあああ! やめて、行かないで、エリス様!!」
よかった。
よく頑張ったね、デゼルって、抱き締めてあげなくちゃ――
だけど、駄目かもしれない。
光の聖女の解放に成功したら、急に痛みが戻って、さむくて、苦しくて。
血が――
血を止めなきゃ、死んじゃうってわかったけど、もう、ヒールのための言霊さえ紡げない。
声が出ないんだ。
もう、僕はなかば死んでるのかもしれない。
不可逆の死が始まってる?
もう少しだけ、待って。
デゼルに伝えたい。
愛してるって、伝えてあげなきゃ――
「やめて、京奈!」
ケイナ様に感謝、かな。
僕、デゼルのために何ができるのかわかった。
「デゼル、立って」
びくっと肩を震わせたデゼルが、涙ぐみながら僕を振り向いた。
「ケイナ、デゼルは這いつくばって、あなたに真剣に命乞いをしている。あなたには見えないの」
「チガアウッ!」
「ケイナ、あなたはデゼルにそんなことを望まない。思い出して」
「――! オマエに何がわかる! 私はデゼルに『そんなこと』を望むのよ! デゼルがぐちゃぐちゃに犯されて、私より惨めな汚物らしく、私に命乞いするのを見たいのッ! 愛し合ってるつもりだったオトコに捨てられて、無惨に殺される瞬間の、デゼルの絶望に彩られた目の色を見タイのヨッ!」
僕は一度、目を伏せて、僕の考えと状況に違和感がないのを確かめた。
それからデゼルを見た。
「その人はケイナじゃない、エリス様だ。いつかも言ったね、その人に跪かないで、デゼル」
にたっと、ケイナ様が場違いに嗤った。
「あら、あなたにはわかるの? 私をエリス様だなんて光栄だわ。だけど、ちょっと、違うんじゃなァい? あなたも私に跪きなさいよ。デゼルはどうなってもいいから、僕の命だけは助けて下さいって、お願いしなさい。デゼルもそれを望んでいるワ?」
「『デゼル』」
デゼルは僕を失ってまで生きることを望まない。
それは僕も同じ。
デゼルを僕の目の前で七年前と同じ目に遭わせるくらいなら、僕もデゼルも、そこまでして生きることなんて望まないんだ。
エトランジュは大丈夫だよ。
僕が知る中で、一番、確かな方に預けたから。
ガゼル様なら、必ず、エトランジュを幸せにして下さるから。
「『僕はどうなってもいい、デゼルもどうなってもいい、ケイナをエリスから解き放て! 僕に従え、デゼル』」
「――はい」
憂いは。
エトランジュに手出しをするかもしれないのは、エリス様だ。
デゼル、僕と二人で解放しよう。
きっと、僕とデゼルのすべてを懸けてもできないことなんて、何ひとつないんだ。
デゼルの瞳の中に揺れていた迷いも恐怖も混乱も、すべて、僕に預けて。
今はただ、僕に従って。
ケイナ様をひたと見据えたデゼルが、ケイナ様に向かって真っ直ぐに疾駆した。
「彩朱、サイファの腕を切り落として!」
「『デゼル、僕の声だけを聞け! ケイナをエリスから解き放て!』」
不思議だね、痛みは感じなかった。
斬り落とされた僕の腕が転がるのが、ただの悪夢のようだった。
デゼルは泣いていたけど、怯まなかった。
大丈夫、僕の声が聞こえてる。
僕の声が、ちゃんと、デゼルの魂に届いてる。
ケイナ様の肩をつかんだデゼルが、上位魔法の宣言を開始した。
僕は今さら、デゼルが魔法を封印されているのを思い出したけど、杞憂だった。
『すべての腐敗を焼き尽くす灼熱の浄化の炎』
「金華、サイファの目をえぐって!」
上位魔法というだけあって、この魔法、強いんだ。
言霊が封印の影響を受けず、きちんと紡がれてゆくのがわかる。
三十秒――
僕の意識と命をもたせないと。
僕が崩れたら、デゼルは頑張れない。
今、デゼルとエトランジュに僕が必要なんだ。絶対に、デゼル一人を頑張らせて、先に逝ったりしない。
三十秒、死んでも生きてみせるから。
『大罪さえも憎悪すらも、すべてを深遠の淵に呑み込み無に帰す黄泉の水』
「――イレイズ! 闇主ども、おまえたちを奴隷にしたデゼルを襲え!」
「『デゼル、それでいい、ケイナをエリスから解き放て!』」
ああ、いやだな。
彼らを許したくなっちゃうよ。
この七年の間に、闇主たちの中に育まれてきたのは、デゼルへの憎悪や怨念じゃなかったみたいだ。
魅了を解かれた闇主たちの表情には、途惑いの色が濃い。
『偉大なる軍神マルスと、慈悲深き忘却の神レーテーの名において』
「もういい、誰かデゼルを殺して!」
光の使徒たちにも、闇主たちにも、デゼルを殺そうなんて自由意思はない。
言霊を紡いでの命令でない限り、誰も動かないよ、ケイナ様。
『今ここに災禍を封印する。【昇華】――ターゲット・京奈!』
「いやぁあああ! やめて、行かないで、エリス様!!」
よかった。
よく頑張ったね、デゼルって、抱き締めてあげなくちゃ――
だけど、駄目かもしれない。
光の聖女の解放に成功したら、急に痛みが戻って、さむくて、苦しくて。
血が――
血を止めなきゃ、死んじゃうってわかったけど、もう、ヒールのための言霊さえ紡げない。
声が出ないんだ。
もう、僕はなかば死んでるのかもしれない。
不可逆の死が始まってる?
もう少しだけ、待って。
デゼルに伝えたい。
愛してるって、伝えてあげなきゃ――
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