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第四章 叶わない願いはないと信じてる
第104話 聖女の杖をヒロインに【前編】
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「容姿端麗を【Lv10】に上げます! 誘惑!」
デゼルが立て続けに魔法を使う。
僕は意識が朦朧としてしまって、何が起きているのか、よく、わからなかった。
「動かないで! そこで待って! ――サイファ様!」
僕に駆け寄ってきたデゼルが、斬り落とされた僕の腕を拾ってつけようとするんだ。
デゼルのすることがあんまり可愛くて、笑っちゃった。
それ、つかないと思うよ?
笑い声は、立てられなかったけど。
こんな、楽しい気持ち、優しい情景が最後なら、悪くないかも。
「生命の水【Lv7】――水神の名を借りて命ずる、サイファを癒したまえ」
冷え切って、もう、二度とぬくもりが戻ることはないと思った僕の身体に、生命が急激に戻ってきて、朦朧としていた意識がみるみる覚醒して、なんだか、すごく驚いた。
「死なないで、死なないで、サイファ様!」
水神の癒術で腕がついて、傷がふさがって、僕の震えは、死の予感が嘘だったみたいにおさまったんだ。
でも、右腕は上がらなかった。
指先もぴくりとも動かせない。
「あー……右腕、動かなくなっちゃった……」
うつむきがちに微笑んだ僕を、デゼルが泣きながら抱き締めてくれて、心地好かった。
「よく頑張ったね、デゼル」
しゃくり上げるデゼルの頭を左手でなでてあげながら、顔を上げて、優しく声をかけてみた。
「まだ、頑張れる?」
デゼルは泣きながらうなずいた。
僕がにっこり微笑んで励ますと、デゼルはまず闇主たちに、命令を与え直した。
「デゼルの闇主に命ずる、我が命に従い、困難にある人々に救いの手を差し伸べることを喜びとせよ。傷つけることなく、魔物たちをデゼルの前に狩り出せ」
デゼルはそれから、ヒドい、ヒドいと、壊れたように泣き続けるケイナ様の傍にかがんだ。
「京奈、泣いていては駄目。あなたは聖サファイアの聖女よ」
「もう駄目よ! エリス様がいなくなって、災禍が解けた光の使徒達が私を見たあの目……! 蔑んでた! 悪魔を見る目をしてた! どうして……!? 聖女に生まれてさえ、私は醜悪な魔女なの!? どうして!!」
「違う。ユリアだった時、京奈は綺麗だった。ちゃんと、ネプチューンに愛されてた」
「私……ユリアにも転生したの……?」
「そうだよ。私にも、優しくしてくれた」
なんだろう、『ユリアにも転生』って、まるで、二人はユリア様が生まれる前から知り合いだったみたいな会話だよね?
「京奈が持つべき聖女の杖だよ。京奈、聖女としてのあなたの力は失われていない。災いが去っただけ。ほら、私の闇主たちが魔物を狩り出した。人に戻してあげて」
すっかり、自信をなくしてしまった様子でも。
ケイナ様がおずおずと聖女の杖をふると、まばゆい光が溢れて、魔物はちゃんと人の姿に戻ったんだ。
邪神を降ろして、ケイナ様の魂は壊れてしまったんじゃないかと思ったけど、無事だったみたいだ。
それに、もしかしたら――
「その人を安全に町まで送ってあげて」
闇主の一人に命じたデゼルが、ポンポンとケイナ様の背中を叩いた。
「あなた、闇主たちにあんなことを命じていたの……」
「うん。……へんかな?」
「へんっていうか、……なんでもない」
エリス様の影響がなくなったケイナ様なら、デゼルを助けてくれるかもしれない。
二人の様子を見ていて、そんな期待が、僕の胸に芽生えたんだ。
ケイナ様は聖女の杖をしばらく見詰めていた後、首を横にふった。
デゼルが立て続けに魔法を使う。
僕は意識が朦朧としてしまって、何が起きているのか、よく、わからなかった。
「動かないで! そこで待って! ――サイファ様!」
僕に駆け寄ってきたデゼルが、斬り落とされた僕の腕を拾ってつけようとするんだ。
デゼルのすることがあんまり可愛くて、笑っちゃった。
それ、つかないと思うよ?
笑い声は、立てられなかったけど。
こんな、楽しい気持ち、優しい情景が最後なら、悪くないかも。
「生命の水【Lv7】――水神の名を借りて命ずる、サイファを癒したまえ」
冷え切って、もう、二度とぬくもりが戻ることはないと思った僕の身体に、生命が急激に戻ってきて、朦朧としていた意識がみるみる覚醒して、なんだか、すごく驚いた。
「死なないで、死なないで、サイファ様!」
水神の癒術で腕がついて、傷がふさがって、僕の震えは、死の予感が嘘だったみたいにおさまったんだ。
でも、右腕は上がらなかった。
指先もぴくりとも動かせない。
「あー……右腕、動かなくなっちゃった……」
うつむきがちに微笑んだ僕を、デゼルが泣きながら抱き締めてくれて、心地好かった。
「よく頑張ったね、デゼル」
しゃくり上げるデゼルの頭を左手でなでてあげながら、顔を上げて、優しく声をかけてみた。
「まだ、頑張れる?」
デゼルは泣きながらうなずいた。
僕がにっこり微笑んで励ますと、デゼルはまず闇主たちに、命令を与え直した。
「デゼルの闇主に命ずる、我が命に従い、困難にある人々に救いの手を差し伸べることを喜びとせよ。傷つけることなく、魔物たちをデゼルの前に狩り出せ」
デゼルはそれから、ヒドい、ヒドいと、壊れたように泣き続けるケイナ様の傍にかがんだ。
「京奈、泣いていては駄目。あなたは聖サファイアの聖女よ」
「もう駄目よ! エリス様がいなくなって、災禍が解けた光の使徒達が私を見たあの目……! 蔑んでた! 悪魔を見る目をしてた! どうして……!? 聖女に生まれてさえ、私は醜悪な魔女なの!? どうして!!」
「違う。ユリアだった時、京奈は綺麗だった。ちゃんと、ネプチューンに愛されてた」
「私……ユリアにも転生したの……?」
「そうだよ。私にも、優しくしてくれた」
なんだろう、『ユリアにも転生』って、まるで、二人はユリア様が生まれる前から知り合いだったみたいな会話だよね?
「京奈が持つべき聖女の杖だよ。京奈、聖女としてのあなたの力は失われていない。災いが去っただけ。ほら、私の闇主たちが魔物を狩り出した。人に戻してあげて」
すっかり、自信をなくしてしまった様子でも。
ケイナ様がおずおずと聖女の杖をふると、まばゆい光が溢れて、魔物はちゃんと人の姿に戻ったんだ。
邪神を降ろして、ケイナ様の魂は壊れてしまったんじゃないかと思ったけど、無事だったみたいだ。
それに、もしかしたら――
「その人を安全に町まで送ってあげて」
闇主の一人に命じたデゼルが、ポンポンとケイナ様の背中を叩いた。
「あなた、闇主たちにあんなことを命じていたの……」
「うん。……へんかな?」
「へんっていうか、……なんでもない」
エリス様の影響がなくなったケイナ様なら、デゼルを助けてくれるかもしれない。
二人の様子を見ていて、そんな期待が、僕の胸に芽生えたんだ。
ケイナ様は聖女の杖をしばらく見詰めていた後、首を横にふった。
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