4 / 29
危険な香り
4
しおりを挟むまだ話したい。彼といたい。
その欲求を抑え込み、私は笑顔を作った。
「美東さん、でしたよね」
「はい」
「このたびはありがとうございました。
お金はお借りします。
お返ししたいので住所を教えていただけませんか?」
勇気を振り絞った。
これだけで彼との縁を切りたくはない。
だけど美東さんは眉尻を下げ、
「律儀なのは素晴らしいことですが、そのお金は私が貴女にあげたものです。
そうですね、勇気を出して友人を救った貴女への報酬、それで良いでしょう?」
「ですが」
「私と貴女はここで終わりです。
もうお会いすることも無いでしょう。
どうか幸せに。
もう二度と危ない場所に来てはいけませんよ」
彼はそういうと、私をせっつくように道路へと追いやった。
「手を上げて」
路地から彼の声がする。
私が仕方なく手を上げるとすぐにタクシーが停まりドアが開いた。
「さようなら」
車に乗り込みその言葉で外を見ると、すでに路地に彼の姿は見えずドアが閉まった。
「お客さん、どちらに?」
運転手に尋ねられ、私は住所を伝える。
車が動き出し再度窓から路地を見ても、やはり美東さんはいなかった。
帰りながらスマホで藤代組を調べる。
しかし何故か情報が出てこない。
指定暴力団に認定されていない暴力団も多くあるとあって、もしかして美東さんのいる組はそういう組なのかもしれない。
ドラマで任侠ものとか、ニュースで指定暴力団の抗争などを見たことはあったけれど、本物のヤクザに会うなんて。
あんなに物腰が柔らかで優しい人がヤクザとは信じられない。
そうは言いつつ気づいている。
彼には危険な香りがしたことを。
だけど、その香りを嗅ぎたい。
また彼の視線を自分に向けたい。
(そんなのだめに決まってるでしょ)
両手で顔を覆う。
突然恋に落ちた相手は、あまりにも危険な人だった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
20
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる