紳士な若頭の危険な狂愛

桜居かのん

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危険な香り

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まだ話したい。彼といたい。

その欲求を抑え込み、私は笑顔を作った。

「美東さん、でしたよね」

「はい」

「このたびはありがとうございました。
お金はお借りします。
お返ししたいので住所を教えていただけませんか?」

勇気を振り絞った。
これだけで彼との縁を切りたくはない。
だけど美東さんは眉尻を下げ、

「律儀なのは素晴らしいことですが、そのお金は私が貴女にあげたものです。
そうですね、勇気を出して友人を救った貴女への報酬、それで良いでしょう?」

「ですが」

「私と貴女はここで終わりです。
もうお会いすることも無いでしょう。
どうか幸せに。
もう二度と危ない場所に来てはいけませんよ」

彼はそういうと、私をせっつくように道路へと追いやった。

「手を上げて」

路地から彼の声がする。
私が仕方なく手を上げるとすぐにタクシーが停まりドアが開いた。

「さようなら」

車に乗り込みその言葉で外を見ると、すでに路地に彼の姿は見えずドアが閉まった。

「お客さん、どちらに?」

運転手に尋ねられ、私は住所を伝える。
車が動き出し再度窓から路地を見ても、やはり美東さんはいなかった。


帰りながらスマホで藤代組を調べる。
しかし何故か情報が出てこない。
指定暴力団に認定されていない暴力団も多くあるとあって、もしかして美東さんのいる組はそういう組なのかもしれない。
ドラマで任侠ものとか、ニュースで指定暴力団の抗争などを見たことはあったけれど、本物のヤクザに会うなんて。

あんなに物腰が柔らかで優しい人がヤクザとは信じられない。
そうは言いつつ気づいている。
彼には危険な香りがしたことを。
だけど、その香りを嗅ぎたい。
また彼の視線を自分に向けたい。

(そんなのだめに決まってるでしょ)

両手で顔を覆う。
突然恋に落ちた相手は、あまりにも危険な人だった。


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