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部屋を出ていく姉の後ろ姿を目で追った拓海は、スマホの画面に視線を移した。
画面には、十桁の電話番号だけが表示されていた。すなわち、スマホの電話帳に登録されていない相手からの電話である。
拓海は、期待を胸に、電話に出た。
「もしもし、マツモトタクウミさんですか?」
電話の相手は女性だった。フルネームで名前を呼んでくるということは、チラシを見て電話してきたのに違いない。
(名前にフリガナを振っておけばよかったかな)チラシにフリガナを振っていなかったことを思い返しながら、拓海は、そうですが、と返事をした。
「あのぉ。ポストに入っていたチラシを見て電話をしたのですけど」
やはり、客からの電話だった。
拓海の胸に、うれしさが込み上げてきた。
「あ、ありがとうございます」興奮気味に、お礼の言葉を口にする。
「これって、そちらさんの方からこちらに来てもらえるのですよね?」電話の相手が、出張サービスであることを確認してきた。
「そうです。時間を決めたうえで、ボクたちの方から行かせてもらいます」
「できることは何でもやります、みたいに書かれていますけど、どのようなことをしてもらえるのかしら?」
「自分たちにできることだったら何でも、という意味で書いたのですけど……。どのようなことが希望なのでしょうか?」
拓海の胸に、相手がとんでもないことを要求してくるのではないかという不安がよぎった。
「話し相手になっていただくのもうれしいのですけど、買い物や食事にも付き合ってもらえるのかと思いましてね」
「そういうのも大丈夫ですよ」
「そう。それは良かったわ」
電話の相手から、ほっとしたような雰囲気が伝わってきた。
それと同時に、拓海の胸に、違う不安がよぎった。門限の事だった。
「でも、ボクたち、家の門限があるので、遅い時間の食事には付き合えないと思うんですけど」
「たしか、午後六時までだったわよね」
「はい」
「お昼ごはんなら、いいのかしら?」
「それは、問題ないと思います」
「そう。それで、いつ来ていただけるのかしら?」
「ご希望をおっしゃってもらえたら、合わせますけど」
ゴールデンウィークまでは、四人の中で用事がある者はいない。
「明日は、どうなのかしら?」
「大丈夫です。何時に行かせてもらえばよいのですか?」
「そうね……。午前九時でもいいかしら?」
「わかりました。あの、相手に対する希望とかはありますか? 性別だとかタイプだとか」
「希望? あなた方は、現役の中学生なのでしたよね?」
「はい。全員、中学二年です」
「そうなの……。とくに希望などありませんわ。楽しくお相手をしてもらえるのでしたら」
「わかりました。それじゃぁ、ボクが行かせてもらいます」
拓海は、相手の名前と住所を聞き、明日の日曜日の午前九時に訪問することを約束した。
電話を終えた拓海は、海斗と七海、美咲に対して、LINEで、客からの連絡があったことと明日の午前九時に自分自身が行くことを報告した。
間がなく、三人から返信メッセージが送られてきた。客からの連絡を喜ぶ言葉と拓海に対する励ましの言葉であった。
七海から送られてきたかわいらしいガッツポーズの絵が描かれたスタンプを目にした拓海に、元気が湧いてきた。
晩御飯を済ませ、両親と姉にお休みなさいを言い、自分の部屋に戻った拓海は、学習机の上に置きっぱなしにしておいたスマホの画面を覗き込んだ。
新たに客から連絡が来た形跡はなかった。
拓海は、海斗と七海、美咲から送られてきたLINEのメッセージを読み返した。三人とも、客から連絡が来たことを喜んでいた。
拓海も、うれしかった。自分から言い出したことだったからだ。
拓海は、明日のことをイメージした。
相手の年齢は聞いていないが、声から判断して、おばあちゃんくらいの年齢であろう。話し相手以外にも、買い物や食事にも付き合ってほしいと言っていた。
話し相手になる自信はあった。田舎のおじいちゃん、おばあちゃんの家に遊びに行ったときも、姉よりも自分の方が上手に話し相手になっていたからだ。
買い物に付き合うとは、具体的にどのようなことをすることになるのだろうか。重たい物を買いたいから荷物持ちをしてほしいということなのだろうか。あるいは、食料品や日用品の買い物に付き合ってほしいということなのだろうか。
拓海は、電話をかけてきた相手の住所の近くにショッピングモールがあったことを思い出した。拓海たちも、たまに行くことのあるショッピングモールである。同級生の何人かは、頻繁に行っているようだった。
ショッピングモール内で相手と一緒にいるところを同級生の誰かに見られたらどうしようかという不安が、頭をよぎった。
それに関しては、考えた末に、家に遊びに来ていたおばあちゃんと一緒に買い物に来たという理由で切り抜けることにした。
(どんな人なのかな……)相手のことを想像する。
声やしゃべり方は、やさしそうだった。明日自分が行くことを心から楽しみにしているような様子もうかがえた。
拓海の胸に、相手に喜んでもらえるように頑張りたいという気持ちが湧いてきた。
画面には、十桁の電話番号だけが表示されていた。すなわち、スマホの電話帳に登録されていない相手からの電話である。
拓海は、期待を胸に、電話に出た。
「もしもし、マツモトタクウミさんですか?」
電話の相手は女性だった。フルネームで名前を呼んでくるということは、チラシを見て電話してきたのに違いない。
(名前にフリガナを振っておけばよかったかな)チラシにフリガナを振っていなかったことを思い返しながら、拓海は、そうですが、と返事をした。
「あのぉ。ポストに入っていたチラシを見て電話をしたのですけど」
やはり、客からの電話だった。
拓海の胸に、うれしさが込み上げてきた。
「あ、ありがとうございます」興奮気味に、お礼の言葉を口にする。
「これって、そちらさんの方からこちらに来てもらえるのですよね?」電話の相手が、出張サービスであることを確認してきた。
「そうです。時間を決めたうえで、ボクたちの方から行かせてもらいます」
「できることは何でもやります、みたいに書かれていますけど、どのようなことをしてもらえるのかしら?」
「自分たちにできることだったら何でも、という意味で書いたのですけど……。どのようなことが希望なのでしょうか?」
拓海の胸に、相手がとんでもないことを要求してくるのではないかという不安がよぎった。
「話し相手になっていただくのもうれしいのですけど、買い物や食事にも付き合ってもらえるのかと思いましてね」
「そういうのも大丈夫ですよ」
「そう。それは良かったわ」
電話の相手から、ほっとしたような雰囲気が伝わってきた。
それと同時に、拓海の胸に、違う不安がよぎった。門限の事だった。
「でも、ボクたち、家の門限があるので、遅い時間の食事には付き合えないと思うんですけど」
「たしか、午後六時までだったわよね」
「はい」
「お昼ごはんなら、いいのかしら?」
「それは、問題ないと思います」
「そう。それで、いつ来ていただけるのかしら?」
「ご希望をおっしゃってもらえたら、合わせますけど」
ゴールデンウィークまでは、四人の中で用事がある者はいない。
「明日は、どうなのかしら?」
「大丈夫です。何時に行かせてもらえばよいのですか?」
「そうね……。午前九時でもいいかしら?」
「わかりました。あの、相手に対する希望とかはありますか? 性別だとかタイプだとか」
「希望? あなた方は、現役の中学生なのでしたよね?」
「はい。全員、中学二年です」
「そうなの……。とくに希望などありませんわ。楽しくお相手をしてもらえるのでしたら」
「わかりました。それじゃぁ、ボクが行かせてもらいます」
拓海は、相手の名前と住所を聞き、明日の日曜日の午前九時に訪問することを約束した。
電話を終えた拓海は、海斗と七海、美咲に対して、LINEで、客からの連絡があったことと明日の午前九時に自分自身が行くことを報告した。
間がなく、三人から返信メッセージが送られてきた。客からの連絡を喜ぶ言葉と拓海に対する励ましの言葉であった。
七海から送られてきたかわいらしいガッツポーズの絵が描かれたスタンプを目にした拓海に、元気が湧いてきた。
晩御飯を済ませ、両親と姉にお休みなさいを言い、自分の部屋に戻った拓海は、学習机の上に置きっぱなしにしておいたスマホの画面を覗き込んだ。
新たに客から連絡が来た形跡はなかった。
拓海は、海斗と七海、美咲から送られてきたLINEのメッセージを読み返した。三人とも、客から連絡が来たことを喜んでいた。
拓海も、うれしかった。自分から言い出したことだったからだ。
拓海は、明日のことをイメージした。
相手の年齢は聞いていないが、声から判断して、おばあちゃんくらいの年齢であろう。話し相手以外にも、買い物や食事にも付き合ってほしいと言っていた。
話し相手になる自信はあった。田舎のおじいちゃん、おばあちゃんの家に遊びに行ったときも、姉よりも自分の方が上手に話し相手になっていたからだ。
買い物に付き合うとは、具体的にどのようなことをすることになるのだろうか。重たい物を買いたいから荷物持ちをしてほしいということなのだろうか。あるいは、食料品や日用品の買い物に付き合ってほしいということなのだろうか。
拓海は、電話をかけてきた相手の住所の近くにショッピングモールがあったことを思い出した。拓海たちも、たまに行くことのあるショッピングモールである。同級生の何人かは、頻繁に行っているようだった。
ショッピングモール内で相手と一緒にいるところを同級生の誰かに見られたらどうしようかという不安が、頭をよぎった。
それに関しては、考えた末に、家に遊びに来ていたおばあちゃんと一緒に買い物に来たという理由で切り抜けることにした。
(どんな人なのかな……)相手のことを想像する。
声やしゃべり方は、やさしそうだった。明日自分が行くことを心から楽しみにしているような様子もうかがえた。
拓海の胸に、相手に喜んでもらえるように頑張りたいという気持ちが湧いてきた。
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