ボクたち、孫代行をやってみました

makotochan

文字の大きさ
10 / 29

10.

しおりを挟む
 部屋を出ていく姉の後ろ姿を目で追った拓海は、スマホの画面に視線を移した。
 画面には、十桁の電話番号だけが表示されていた。すなわち、スマホの電話帳に登録されていない相手からの電話である。
 拓海は、期待を胸に、電話に出た。
 「もしもし、マツモトタクウミさんですか?」
 電話の相手は女性だった。フルネームで名前を呼んでくるということは、チラシを見て電話してきたのに違いない。
 (名前にフリガナを振っておけばよかったかな)チラシにフリガナを振っていなかったことを思い返しながら、拓海は、そうですが、と返事をした。
 「あのぉ。ポストに入っていたチラシを見て電話をしたのですけど」
 やはり、客からの電話だった。
 拓海の胸に、うれしさが込み上げてきた。
 「あ、ありがとうございます」興奮気味に、お礼の言葉を口にする。
 「これって、そちらさんの方からこちらに来てもらえるのですよね?」電話の相手が、出張サービスであることを確認してきた。
 「そうです。時間を決めたうえで、ボクたちの方から行かせてもらいます」
 「できることは何でもやります、みたいに書かれていますけど、どのようなことをしてもらえるのかしら?」
 「自分たちにできることだったら何でも、という意味で書いたのですけど……。どのようなことが希望なのでしょうか?」
 拓海の胸に、相手がとんでもないことを要求してくるのではないかという不安がよぎった。
 「話し相手になっていただくのもうれしいのですけど、買い物や食事にも付き合ってもらえるのかと思いましてね」
 「そういうのも大丈夫ですよ」
 「そう。それは良かったわ」
 電話の相手から、ほっとしたような雰囲気が伝わってきた。
 それと同時に、拓海の胸に、違う不安がよぎった。門限の事だった。
 「でも、ボクたち、家の門限があるので、遅い時間の食事には付き合えないと思うんですけど」
 「たしか、午後六時までだったわよね」
 「はい」
 「お昼ごはんなら、いいのかしら?」
 「それは、問題ないと思います」
 「そう。それで、いつ来ていただけるのかしら?」
 「ご希望をおっしゃってもらえたら、合わせますけど」
 ゴールデンウィークまでは、四人の中で用事がある者はいない。
 「明日は、どうなのかしら?」
 「大丈夫です。何時に行かせてもらえばよいのですか?」
 「そうね……。午前九時でもいいかしら?」
 「わかりました。あの、相手に対する希望とかはありますか? 性別だとかタイプだとか」
 「希望? あなた方は、現役の中学生なのでしたよね?」
 「はい。全員、中学二年です」
 「そうなの……。とくに希望などありませんわ。楽しくお相手をしてもらえるのでしたら」
 「わかりました。それじゃぁ、ボクが行かせてもらいます」
 拓海は、相手の名前と住所を聞き、明日の日曜日の午前九時に訪問することを約束した。

 電話を終えた拓海は、海斗と七海、美咲に対して、LINEで、客からの連絡があったことと明日の午前九時に自分自身が行くことを報告した。
 間がなく、三人から返信メッセージが送られてきた。客からの連絡を喜ぶ言葉と拓海に対する励ましの言葉であった。
 七海から送られてきたかわいらしいガッツポーズの絵が描かれたスタンプを目にした拓海に、元気が湧いてきた。

 晩御飯を済ませ、両親と姉にお休みなさいを言い、自分の部屋に戻った拓海は、学習机の上に置きっぱなしにしておいたスマホの画面を覗き込んだ。
 新たに客から連絡が来た形跡はなかった。
 拓海は、海斗と七海、美咲から送られてきたLINEのメッセージを読み返した。三人とも、客から連絡が来たことを喜んでいた。
 拓海も、うれしかった。自分から言い出したことだったからだ。
 拓海は、明日のことをイメージした。
 相手の年齢は聞いていないが、声から判断して、おばあちゃんくらいの年齢であろう。話し相手以外にも、買い物や食事にも付き合ってほしいと言っていた。
 話し相手になる自信はあった。田舎のおじいちゃん、おばあちゃんの家に遊びに行ったときも、姉よりも自分の方が上手に話し相手になっていたからだ。
 買い物に付き合うとは、具体的にどのようなことをすることになるのだろうか。重たい物を買いたいから荷物持ちをしてほしいということなのだろうか。あるいは、食料品や日用品の買い物に付き合ってほしいということなのだろうか。
 拓海は、電話をかけてきた相手の住所の近くにショッピングモールがあったことを思い出した。拓海たちも、たまに行くことのあるショッピングモールである。同級生の何人かは、頻繁に行っているようだった。
 ショッピングモール内で相手と一緒にいるところを同級生の誰かに見られたらどうしようかという不安が、頭をよぎった。
 それに関しては、考えた末に、家に遊びに来ていたおばあちゃんと一緒に買い物に来たという理由で切り抜けることにした。
 (どんな人なのかな……)相手のことを想像する。
 声やしゃべり方は、やさしそうだった。明日自分が行くことを心から楽しみにしているような様子もうかがえた。
 拓海の胸に、相手に喜んでもらえるように頑張りたいという気持ちが湧いてきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

黒に染まった華を摘む

馬場 蓮実
青春
夏の終わりに転校してきたのは、忘れられない初恋の相手だった——。 高須明希は、人生で“二番目”に好きになった相手——河西栞に密かに想いを寄せている。 「夏休み明けの初日。この席替えで、彼女との距離を縮めたい。話すきっかけがほしい——」 そんな願いを胸に登校したその朝、クラスに一人の転校生がやってくる。 彼女の名は、立石麻美。 昔の面影を残しながらも、まるで別人のような気配をまとう彼女は——明希にとって、忘れられない“初恋の人”だった。 この再会が、静かだった日常に波紋を広げていく。 その日の放課後。 明希は、"性の衝動"に溺れる自身の姿を、麻美に見られてしまう——。 塞がっていた何かが、ゆっくりと崩れはじめる。 そして鬱屈した青春は、想像もしていなかった熱と痛みを帯びて動き出す。 すべてに触れたとき、 明希は何を守り、何を選ぶのか。 光と影が交錯する、“遅れてきた”ひと夏の物語。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

処理中です...