ボクたち、孫代行をやってみました

makotochan

文字の大きさ
11 / 29

11.

しおりを挟む
 翌日の日曜日、朝食を済ませた拓海は、両親に遊びに行ってくると言い、家を出た。
 自転車を飛ばし、電話をくれた相手の家に向かう。グーグルマップから近隣の地図をプリントアウトしてきていた。
 それらしき場所に到着した。表札で、相手の名字を探す。
 (藤本、藤本……。あった、これだ)目指す家の表札が、拓海の目に飛び込んできた。住宅街の中の古びた一軒家だった。
 拓海は、スマホで時間を確認した。デジタル表示は、午前八時五十一分を表示していた。
 (ちょっと早いけど、いいかな)門の前で自転車を止めた拓海は、インターフォンを鳴らした。出てきた相手に、名前を告げる。
 「どうも。いらっしゃい」玄関のドアが開き、連絡をくれた藤本絹江さんが顔を覗かせた。
 「初めまして」拓海は、お辞儀をし、挨拶をした。
 「自転車で来られたの?」
 「はい」
 「それじゃぁ、中に入れてください」
 藤本さんの家の玄関の脇に、ガレージがあった。端の方に、ママチャリが一台停めてある。もともとは、車を停めるために作られていたのだろう。
 拓海は、乗ってきた自転車を、藤本さんのママチャリの隣に停めた。
 「さ、入って」藤本さんが、家の中に入るように促す。
 「お邪魔します」拓海は、玄関を入った。田舎のおじいちゃん、おばあちゃんの家と同じようなにおいがした。
 家の中に入った拓海は、居間に通された。
 居間は、中央に低いテーブルがあり、向き合うように座椅子が二つ置かれていた。藤本さんが、片方の座椅子を指示し、座るように言う。
 「すみません。手洗いとうがいをしてもいいですか?」その言葉が、拓海の口から条件反射的に飛び出した。外から戻った時に、真っ先に手洗いとうがいをしないと気持ちが落ち着かなくなっていた。
 「偉いわねぇ。そういうことをちゃんとするの」
 「小さいときから親がうるさくて、習慣になってしまいました」
 「いいことだわ。どうぞ、洗ってらっしゃい。うがいは、このコップを使ってください」
 藤本さんが、台所の食器棚からグラスを一つ取り出し、洗面所の場所を教えてくれた。

 手洗いとうがいを済ませた拓海は、再び居間の座椅子に座った。
 「のどが乾いたでしょう」藤本さんが、台所に立った。しばらくして、お盆を手にしながら戻ってきた。お盆に乗せた急須と茶碗、最中をテーブルの上に置いた。急須のお茶を茶碗に注ぎ、最中とともに拓海に勧めてくる。
 「本当は、若い人が好きな洋菓子でも買っておこうと思ったのですけど、買いに行く暇がなくてねぇ」
 「ボク、最中も好きです」
 拓海は、いただきますと言い、最中を一つ手に取り、口にした。上品なあんこの味が、口の中に広がる。
 「どこの中学に通っているの?」お茶を一口すすった藤本さんが、聞いてきた。
 「桜ヶ丘中学校です」
 「ああ。駅の向こう側の学校ね」
 拓海の家と藤本さんの家は、地下鉄の駅をはさんで、それぞれ反対側のエリアにあった。
 「藤本さんは、昔からずっとこの家に住んでいるのですか?」
 「ううん。この家はね、私が結婚した後に、亡くなったおじいちゃんが建てた家なの」
 藤本さんの出身は静岡県であり、高校を卒業後に東京に出てきて結婚し、結婚後しばらくして旦那さんがこの家を建てたということだった。その旦那さんも五年前に亡くなり、二人の娘も結婚してそれぞれ違う家に住み、今は一人でこの家で暮らしているということである。
 「静岡だったら、家から富士山が見えていたんですか?」
 「天気がいい日は、たいてい富士山がくっきりと見えていたわね。私が小さい頃は、今みたいな大きな建物も少なかったし……」
 藤本さんが、昔を懐かしむような表情を浮かべた。
 拓海は、少女時代の藤本さんはどのような生活をしていたのだろうかということを想像してみた。
 田舎のおじいちゃん、おばあちゃんの少年、少女時代は、戦後の復興期で、今のように物が豊かではなかったということを聞かされていた。藤本さんも、そのような時代に育ったのだろう。
 拓海は、藤本さんの年齢を聞いてみたくなった。
 「いくつに見える?」歳を尋ねてきた拓海に向って、藤本さんが、いたずらっぽく笑った。
 「いくつだろう……。七十歳くらいですか?」
 「来月の誕生日で、七十五」
 「そうなんですか」
 藤本さんは、実際の年齢よりも若く見えた。
 「あなたのおじいちゃんやおばあちゃんは、おいくつなの?」
 「お父さん方が七十三歳と七十二歳で、お母さん方が七十二歳と六十九歳です」
 「そうなの。まだ、お若いのね。みなさん、お元気なの?」
 「はい。みんな、元気にしています」
 四人ともみな、病気もせずに、元気に暮らしていた。
 「藤本さんの娘さんは、どこに住んでいるのですか?」
 「一人は福岡で、もう一人は広島なの」
 二人とも、離れたところに住んでいた。
 「孫は、何人いるんですか?」
 「それがね、孫はいないのよ」
 「えっ?」
 「娘たちが、子供を産んでいないのよ。最近、子供のいない家庭が増えているみたいでね。このままだと、日本の将来は、どうなっちゃうんでしょうね……」
 藤本さんが、寂しそうに笑った。
 今の日本がそうだということは、拓海も、ニュースなどで耳にしていた。そのために、政府が少子化対策を打ち出しているのだが、的外れな政策ばかりならしい。酒に酔った時の父親が、よく口にする言葉であった。
 「娘たちが子供を産んでいたら、今のあなたくらいか、あるいは、もう少し大きな孫が何人かいたんだろうなぁって思うことが、よくあるの。だから、あなたたちがポストに入れてくれた孫代行っていうサービスにものすごく興味が湧いてきて、電話をさせてもらったのよ」
 藤本さんの気持ちは、拓海にも理解できた。
 「連絡をしてきた人、けっこういたでしょう?」
 「今のところ、藤本さんだけです」
 「えっ? そうなの。世の中に、私みたいな寂しいお年寄りがたくさんいるから、たくさんの方から連絡があったのかと思っていました」
 「チラシを配り終えたのがおとといなので、これから来ればいいなと思っています」
 「たぶん、来るわよ。私も、友達に教えてあげるわ」
 「ぜひ、お願いします」
 拓海は、藤本さんが話を広めてくれることを期待した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

黒に染まった華を摘む

馬場 蓮実
青春
夏の終わりに転校してきたのは、忘れられない初恋の相手だった——。 高須明希は、人生で“二番目”に好きになった相手——河西栞に密かに想いを寄せている。 「夏休み明けの初日。この席替えで、彼女との距離を縮めたい。話すきっかけがほしい——」 そんな願いを胸に登校したその朝、クラスに一人の転校生がやってくる。 彼女の名は、立石麻美。 昔の面影を残しながらも、まるで別人のような気配をまとう彼女は——明希にとって、忘れられない“初恋の人”だった。 この再会が、静かだった日常に波紋を広げていく。 その日の放課後。 明希は、"性の衝動"に溺れる自身の姿を、麻美に見られてしまう——。 塞がっていた何かが、ゆっくりと崩れはじめる。 そして鬱屈した青春は、想像もしていなかった熱と痛みを帯びて動き出す。 すべてに触れたとき、 明希は何を守り、何を選ぶのか。 光と影が交錯する、“遅れてきた”ひと夏の物語。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

処理中です...