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しかし、良いことは、長くは続かなかった。
それは、七月に入って間がない木曜日の事だった。
その日、授業終了後の掃除を終えた後、四人で下校しようとしていた拓海たちのもとに、担任の新垣先生がやって来て、教室に残るように命じた。
拓海は、嫌な予感を覚えた。四人で残るように言われたということと孫代行とのこととが、頭の中で結びついた。
海斗と七海、美咲も、同じように、不安を感じたような表情を浮かべている。
四人は、固まって立ち尽くした。四人以外の生徒たちが、がやがやと教室から出ていく。
四人以外の生徒全員が教室を出ていったことを確認した新垣先生が、目の前の席を指さしながら、四人で並んで座るように指示をした。
拓海たちは、並んで席に着いた。新垣先生が、四人の前にある机と椅子を一八〇度回転させ、四人と向き合うように席に着く。
席に着いた新垣先生が、ポケットから、一枚の紙を取り出した。紙を広げ、表を四人の側に向ける。新しく作り直した孫代行のチラシだった。
「これは、お前たちが作ったチラシだよな?」四人に順番に視線を向けながら、問いただす。
四人は、顔をうつむけた。答えたくても、どのように答えたらよいのかがわからない。
「どうなんだ? 黙っていたら、何もわからないだろう。お前たちが作ったチラシなのか?」
拓海は、恐る恐る顔を上げた。自分以外の三人の様子を盗み見る。
七海は、新垣先生に視線を向けていた。海斗と美咲は、うつむいたままである。
「ここに、お前たちの名前が書いてあるよな。似顔絵も、お前たちにそっくりだ」新垣先生が、不気味に思えるほどのやさしい声で口にした。
拓海は、プレッシャーに耐えられなくなった。それとともに、自分がリーダーなのだという自覚が湧き出てきた。
「ボクが、作りました」拓海は、返事をした。
新垣先生の視線が、拓海に向けられた。拓海も、視線をそらさずに見つめ返した。
「このチラシは、松本が作ったのか」
「はい」
拓海は、強く頷いた。海斗と七海、美咲の視線が自分に向けられているのを感じていた。
「チラシをまいたのも、松本か?」
「はい」
「全部、一人でまいたのか?」
「は……。その……、少しだけ手伝ってもらいました」
「手伝ったのは、橋本と岡田と野崎だな?」
「はい」
七海が、はっきりとした声で返事をした。ワンテンポ遅れて、海斗と美咲も返事をする。
そんな四人に向って、新垣先生が、学校に、桜ヶ丘中学校の生徒がこのようなチラシを配っているという通報があったことを告げた。
「いつから、このようなことをやっていたんだ?」再び、新垣先生からの追及が始まった。
拓海は、正直に答えるべきかどうかを迷った。今回初めてチラシを配ったが、まだ何もしていないのだと返事をしようかとも思った。学校は、チラシが配られたことを知っているだけなのかもしれない。全部正直に話してしまうと、四人で稼いだお金を没収されてしまうかもしれない。
そんな拓海の頭に、藤本さんの顔が浮かんできた。自分が決断したことで他人に迷惑が及んだ場合、迷惑の程度を最小に抑えるように努力しつつ、その後は迷惑をかけないようにするための行動を取れば、迷惑をかけた人たちからも悪くは思われないということを教えてくれた。
今回、チラシに四人全員の名前と似顔絵を載せてしまったから、自分たちがまいたのだということがわかってしまったのだ。フルネームで名前を書いてしまったために、桜ヶ丘中学校の生徒だということもわかってしまったのだろう。
自分の浅はかな考えが原因で、他の三人に迷惑をかけてしまったのだ。
三人からの信頼を失わないためにも、三人に及ぼす迷惑を最小に抑え、その後は迷惑がかからないように行動しなければならない。
ここで嘘を突き通せば、学校側も、より厳しい態度で臨んでくるだろう。そうなれば、自分たちのやったことが、周囲にも知れ渡ることになる。
それだけでは、すまないかもしれない。高校受験をする時の内申書にも響く可能性がある。
自分も含めた四人ともが、公立高校への進学を考えている。公立高校を受験する場合は、内申書の点数も合否に影響することを、拓海は知っていた。
拓海は、嘘を突き通すことが、悪い結果を及ぼすことを悟った。ここは、正直に認めたうえで、自分が中心となってやったことなのだという主張をして、三人への影響を軽くしよう。
拓海は、新垣先生に視線を合わせた。そして、おもむろに口を開いた。
「新学期に入ってから、やり始めました」
「四月から始めたのか?」
「はい」
「ということは、すでに、誰かからお金を受け取っているのか?」
「はい」
「今まで、合計、いくらくらい受け取ったんだ?」
「全部で……、十万円ちょっとです」
「そんなにか。あきれたやつらだな、お前たちは」
十万円という金額に、新垣先生が、驚きの表情を浮かべた。
「どのような経緯で、このようなことを始めることになったんだ?」
新垣先生が、四人の顔を見渡した。
三人への影響を軽くするのだという決意を再確認するように一つ深呼吸した拓海は、答えた。
「お金が欲しかったから……。だから、ボクが三人を誘ったんです」
「そうか……。それで、三人は、何と答えたんだ」
「やらない方がいいって言いましたけど、ボクが強くやろうって誘ったので、協力してくれることになりました」
「今の言葉、本当なんだな? 松本が計画して、橋本と岡田、野崎を巻き込んだんだな?」
新垣先生の声が、大きくなった。
それは、七月に入って間がない木曜日の事だった。
その日、授業終了後の掃除を終えた後、四人で下校しようとしていた拓海たちのもとに、担任の新垣先生がやって来て、教室に残るように命じた。
拓海は、嫌な予感を覚えた。四人で残るように言われたということと孫代行とのこととが、頭の中で結びついた。
海斗と七海、美咲も、同じように、不安を感じたような表情を浮かべている。
四人は、固まって立ち尽くした。四人以外の生徒たちが、がやがやと教室から出ていく。
四人以外の生徒全員が教室を出ていったことを確認した新垣先生が、目の前の席を指さしながら、四人で並んで座るように指示をした。
拓海たちは、並んで席に着いた。新垣先生が、四人の前にある机と椅子を一八〇度回転させ、四人と向き合うように席に着く。
席に着いた新垣先生が、ポケットから、一枚の紙を取り出した。紙を広げ、表を四人の側に向ける。新しく作り直した孫代行のチラシだった。
「これは、お前たちが作ったチラシだよな?」四人に順番に視線を向けながら、問いただす。
四人は、顔をうつむけた。答えたくても、どのように答えたらよいのかがわからない。
「どうなんだ? 黙っていたら、何もわからないだろう。お前たちが作ったチラシなのか?」
拓海は、恐る恐る顔を上げた。自分以外の三人の様子を盗み見る。
七海は、新垣先生に視線を向けていた。海斗と美咲は、うつむいたままである。
「ここに、お前たちの名前が書いてあるよな。似顔絵も、お前たちにそっくりだ」新垣先生が、不気味に思えるほどのやさしい声で口にした。
拓海は、プレッシャーに耐えられなくなった。それとともに、自分がリーダーなのだという自覚が湧き出てきた。
「ボクが、作りました」拓海は、返事をした。
新垣先生の視線が、拓海に向けられた。拓海も、視線をそらさずに見つめ返した。
「このチラシは、松本が作ったのか」
「はい」
拓海は、強く頷いた。海斗と七海、美咲の視線が自分に向けられているのを感じていた。
「チラシをまいたのも、松本か?」
「はい」
「全部、一人でまいたのか?」
「は……。その……、少しだけ手伝ってもらいました」
「手伝ったのは、橋本と岡田と野崎だな?」
「はい」
七海が、はっきりとした声で返事をした。ワンテンポ遅れて、海斗と美咲も返事をする。
そんな四人に向って、新垣先生が、学校に、桜ヶ丘中学校の生徒がこのようなチラシを配っているという通報があったことを告げた。
「いつから、このようなことをやっていたんだ?」再び、新垣先生からの追及が始まった。
拓海は、正直に答えるべきかどうかを迷った。今回初めてチラシを配ったが、まだ何もしていないのだと返事をしようかとも思った。学校は、チラシが配られたことを知っているだけなのかもしれない。全部正直に話してしまうと、四人で稼いだお金を没収されてしまうかもしれない。
そんな拓海の頭に、藤本さんの顔が浮かんできた。自分が決断したことで他人に迷惑が及んだ場合、迷惑の程度を最小に抑えるように努力しつつ、その後は迷惑をかけないようにするための行動を取れば、迷惑をかけた人たちからも悪くは思われないということを教えてくれた。
今回、チラシに四人全員の名前と似顔絵を載せてしまったから、自分たちがまいたのだということがわかってしまったのだ。フルネームで名前を書いてしまったために、桜ヶ丘中学校の生徒だということもわかってしまったのだろう。
自分の浅はかな考えが原因で、他の三人に迷惑をかけてしまったのだ。
三人からの信頼を失わないためにも、三人に及ぼす迷惑を最小に抑え、その後は迷惑がかからないように行動しなければならない。
ここで嘘を突き通せば、学校側も、より厳しい態度で臨んでくるだろう。そうなれば、自分たちのやったことが、周囲にも知れ渡ることになる。
それだけでは、すまないかもしれない。高校受験をする時の内申書にも響く可能性がある。
自分も含めた四人ともが、公立高校への進学を考えている。公立高校を受験する場合は、内申書の点数も合否に影響することを、拓海は知っていた。
拓海は、嘘を突き通すことが、悪い結果を及ぼすことを悟った。ここは、正直に認めたうえで、自分が中心となってやったことなのだという主張をして、三人への影響を軽くしよう。
拓海は、新垣先生に視線を合わせた。そして、おもむろに口を開いた。
「新学期に入ってから、やり始めました」
「四月から始めたのか?」
「はい」
「ということは、すでに、誰かからお金を受け取っているのか?」
「はい」
「今まで、合計、いくらくらい受け取ったんだ?」
「全部で……、十万円ちょっとです」
「そんなにか。あきれたやつらだな、お前たちは」
十万円という金額に、新垣先生が、驚きの表情を浮かべた。
「どのような経緯で、このようなことを始めることになったんだ?」
新垣先生が、四人の顔を見渡した。
三人への影響を軽くするのだという決意を再確認するように一つ深呼吸した拓海は、答えた。
「お金が欲しかったから……。だから、ボクが三人を誘ったんです」
「そうか……。それで、三人は、何と答えたんだ」
「やらない方がいいって言いましたけど、ボクが強くやろうって誘ったので、協力してくれることになりました」
「今の言葉、本当なんだな? 松本が計画して、橋本と岡田、野崎を巻き込んだんだな?」
新垣先生の声が、大きくなった。
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