ボクたち、孫代行をやってみました

makotochan

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 束の間、教室内を静寂が支配した。誰かがつばを飲み込む音が、拓海の耳に聞こえた。
 やがて、七海が口を開いた。
 「先生。松本君一人のせいじゃありません。みんなで話し合って決めたんです。チラシをまくことも、お金をもらうことも、みんなで決めたんです」
 「その通りです」
 海斗も、言葉を発した。
 美咲も、目にうっすらと涙を浮かべながら頷いた。
 「四人で協力してチラシを作って、お金を稼いでいたことを認めるんだな?」新垣先生が、四人に確認した。
 四人は、同時に頷いた。
 「よし、わかった」新垣先生が、何度か頷く。
 「お前たちがやったことは、校則違反だということは、わかっているな?」
 校則違反を指摘された拓海は、一瞬、言い返しそうになった。校則に書かれているのはアルバイトをしてはならないという内容であり、アルバイトとは他人に雇われてお金を稼ぐ行為である。自分たちは誰にも雇われていないし、自分たちのペースで働いているのだから勉強にも影響は出ない。
 少し前に四人で議論をしてそのような見解に至っていたのだが、拓海は、言葉を飲み込んだ。
 ここで口応えをすれば、学校側の態度を硬化させてしまうかもしれない。そうなれば、正直に認めたことが、意味をなさなくなる。
 拓海は、他の三人とともに、「はい」と返事をした。
 「ゴールデンウィーク期間中に、ほかのクラスの生徒がアルバイトをしていたことが発覚して、全体朝礼で校長先生からの訓示があったはずだ。その後の授業でも、なぜアルバイトを禁止しているのかについての説明をしたはずだろう。それなのに、なぜ止めなかったんだ?」
 「すみません。何人かの人に、喜んでもらっていたので」
 新垣先生の指摘に、拓海が代表して答えた。四人に対する質問に対しては拓海が代表して答えるという雰囲気が出来上がっていた。
 「喜んでもらっていたとは、お金をもらった相手からか?」
 「はい」
 「だからと言って、校則を破ってもよいということにはならないよな?」
 「はい」
 拓海は、頭を下げた。海斗と七海、美咲も、頭を下げる。
 「生徒が商売をするなんていうのは、わが校始まって以降初めてのことで、校長先生も、相当ショックを受けている。お前ら、本当に反省しろよ!」
 新垣先生が、語尾を強めた。
 四人は、弱弱しく返事をした。
 「まぁ、すんでしまったことをとやかく言っても仕方がない。ともかく、もう二度とするな」
 「はい」
 「ただ、ことがことだからな。お前たちの親を呼んで、説明をする必要があると思う。なんせ、お金が絡んでいることだからな……」
 親を呼ぶという言葉を耳にした拓海の胸に、痛みが走った。内緒でやっていたことに対して、親は、何と言うだろうか。
 拓海の親は、正直に話せば、強くは怒らないタイプだった。反面、ウソがばれたときは、強く叱られる。
 拓海は、憂鬱な気分になった。

 事情をすべて話し終えた四人は、学校を後にした。
 家に帰る足取りは重たかった。四人は、足を引きずるようにして歩いた。
 「ばれちゃったなぁ……」海斗が、ぽつりと呟いた。
 「ばれちゃったね」七海が、言葉を返す。しかし、顔の表情はすっきりとしているように、拓海の目には映った。
 「これから、どうなるのかなぁ」拓海も、胸の内を言葉にした。不安でいっぱいだった。
 「学校から親に連絡が行くんだよね?」美咲の顔も、不安で塗り固められている。
 「うちの親、なんて言うのかなぁ」
 「帰ったら、親に全部話すの?」
 「話さなきゃいけないんだろうな」海斗が、泣きそうな表情を浮かべた。
 「みんな、本当にごめんね」拓海は、三人に謝りたい気持ちでいっぱいだった。プロフィール付きのチラシにしようと言い出したのは、自分だったからだ。
 三人に意見をする前に、このようなことが起こるかもしれないということを考えておくべきだった。今さら後悔しても遅かったが、みんなに迷惑をかけてしまったことを心の底から謝りたいという気持ちになっていた。
 「拓ちゃんが謝る必要はないよ。みんなで決めたことなんだから」すかさず、七海がフォローの言葉を口にする。
 「そうよ。プロフィールを載せたほうが反応が良くなるんじゃないかという理由で、みんなで決めたんじゃない」
 「自分一人で責任を背負おうみたいなのは、やめろよな」
 美咲と海斗も、みんなの責任なんだという言葉を口にした。
 拓海は、四人の間での友情を感じ取った。それとともに、三人が自分のことを悪く思っていないこともわかり、ほっとした。
 「先生の言葉じゃないけど、すんでしまったことをとやかく言っても仕方がないから、親にも正直に話して、今後のことは親や先生の言うことに従おうよ」
 七海が、諭すように、はっきりとした口調で意見を口にした。
 「そうだね。もうばれちゃったんだし、がたがた言っても仕方がないかもね」美咲も、すっきりとした表情を浮かべる。
 海斗の顔にも、笑顔が戻った。
 拓海も、胸の内がすっきりとしてくるのを感じた。このようになってしまった以上は、正直に話すしかない。そもそも、新垣先生から追及された時に、みんなに迷惑をかけないためには正直に話すしかないのだと決めたのだから。
 拓海は、三人と話をしながら、家に帰った後に親にどのように話を切り出せばよいのかを、頭の中で考えた。

 家に帰った拓海を、母親が、不安そうな顔で出迎えた。
 すでに、学校からの連絡は来ていた。二日後の土曜日の放課後に、どちらかの親が学校に来てほしいと言われたということだった。
 何があったのかと問われた拓海は、事情を説明した。
 相手をした高齢者からお金を受け取っていたことを知った母親の表情が曇った。小遣いが欲しかったのなら、相談してくれたらよかったのにという言葉も口にする。
 土曜日のことは、父親と相談してから決めるということだった。

 自分の部屋に入った拓海は、すでに学校から家に連絡が来ていることや母親に事情を打ち明けたことを知らせようと、LINEのグループページを開いた。
 そこには、すでに先着メッセージがあった。美咲からだった。
 メッセージの内容は、拓海が伝えようとしたことと全く同じであった。四人の中で一番学校に近いところに住んでいるのは美咲であり、自分と同様、帰ってくるなり、親から何があったのかと聞かれたのだという。おそらく、海斗にも七海にも、同じような状況が起こっているはずだ。
 拓海は、LINEに自分のメッセージを打ち込んだ。
 間がなく、海斗と七海からもメッセージが送られてきた。二人とも、正直に事情を話したということだった。
 拓海は、土曜日はどのような感じになるのだろうかということを想像した。
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