ボクたち、孫代行をやってみました

makotochan

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 LINEのやり取りを終えた拓海に、電話が入った。スマホの液晶画面には、電話帳に登録したばかりの藤本さんの名前があった。
 拓海は、複雑な思いで電話に出た。
 「藤本ですけど……」電話の向こうからは、明るい声が聞こえてきた。
 藤本さんの声を耳にした拓海に、切なさとむなしさが混ざったような思いが広がった。もしかしたら、再び会うことはないのかもしれない。
 藤本さんと一緒に過ごした時間は、拓海にとってもいごこちの良い時間だった。いろいろとためになることを教えてもらい、自分の話も聞いてもらえた。
 拓海も、藤本さんに会える日を楽しみに思うようになっていた。
 そんな藤本さんの電話の要件は、次に拓海に来てもらう日にちを決めることだった。
 都合を聞かれた拓海は、返す言葉に詰まった。
 会う約束など、できるわけがない。
 お金の話は抜きにして個人的に会うという選択肢もあるのだが、今の拓海には、そのような選択肢を思い浮かべる気持ちの余裕などなかった。
 拓海の反応に、藤本さんが、何かあったのかと聞いてきた。
 拓海は、自分たちがやっていることが学校にばれてしまったことを打ち明けた。
 学校から家に連絡が行き、土曜日の放課後に、親を交えて学校と話をすることになったことも伝える。
 突然の出来事に、藤本さんも言葉をなくした。
 やがて、慰めるように、あなたたちのしたことは決して間違ったことではないのだからと語りかけてきた。自分で力になれることがあれば何でもやるので、何かしてほしいことがあるのなら言ってほしいという言葉も口にする。
 拓海は、藤本さんのやさしい心遣いに、ありがとうございますと感謝の気持ちを伝えた。
 親と学校との話し合いが終わったら、どのような結果になったのかを連絡することを約束し、藤本さんとの電話を終えた。

 (どうなんだろう……)学習机の上で頬杖をつきながら、拓海は、ゆらゆらと考えた。
 「あなたたちのしたことは決して間違ったことではないのだから……」と語りかけてきた藤本さんの言葉が、頭の中で駆け巡っていた。
 自分たちのしたことは、本当に間違ったことではなかったのだろうか。
 自分は、間違ったことをしたつもりはない。高齢化社会になって、それなのに寂しい思いをしている高齢者の数が増えていて、片や子供の数も減ってきていて、孫と接する機会に恵まれないおじいちゃんやおばあちゃんたちが、この世の中にたくさんいる。
 そのような人たちの心を温めるために、自分たちの方から出向いて交流を図り、孫の代わりを務める。
 このことは、絶対に間違ったことではないはずだ。
 現に、孫代行を利用した人たちは、みんな満足してくれていた。誰もが、また来てほしいと言ってくれている。すなわち、世の中から望まれていることを自分たちはやっているのだ。道徳の授業の中でも出てきた『社会のために生きる』を実行しているのだ。
 拓海は、自分の考えは決して間違ってはいないと思っていた。
 しかし、現実は、学校の先生から叱られ、親も呼び出され、もうしてはいけないとまで言われてしまった。
 このギャップは、何なのだろうか。
 やり方がまずかったのだろうとは思っている。
 あらかじめ親や先生に話をして了解を得ていれば、こんな騒ぎにはならなかったはずだ。
 利用者からお金をもらったことも、親や先生の了解を得ていれば、問題はなかったのであろう。おじいちゃんやおばあちゃんたちはみな、納得してお金を払ってくれていたからだ。正規の料金よりも多く払ってくれた人だっていたくらいだ。
 やり方がまずかったのだとは思うが、もうしてはいけないと言われた事に関しては、正直、納得がいかなかった。世の中の人たちが望んでいたことを、自分たちはやっていたのだから。
 勉強だって、ちゃんとやっている。テストの点だって、悪くなったわけではない。
 校則違反という言葉にも、納得がいかなかった。
 拓海は、孫代行を始めたころ、やたらと周囲の目を気にしていたことを思い浮かべた。初めて藤本さんの家に行き、一緒に買い物をした時も、周囲をキョロキョロと見回していたことを覚えている。
 しかし、今なら、胸を張ってやれると思う。
 海斗も、七海も、美咲も、みんな同じ思いでいるはずだ。
 (まだ、続けたいな……)学校にばれてしまった以上、孫代行を続けることは無理なことなのかもしれないが、何とかならないのかと拓海は思った。

 今回の事は母親に事情を話してあり、父親にも伝わっているはずであったが、両親は、拓海のことを責め立てるようなことはしてこなかった。
 そのことに、拓海は、不気味さを感じていた。
 今回のことは親に黙ってやったことであり、叱られることを覚悟していたのだが、予想に反して、両親とも何も言ってこない。
 学校からの話を聞いたうえで、親として、何か言うつもりなのだろうか。
 拓海は、過去に、親に黙ってしたことに対して叱られた時のことを思い返した。
 小学五年の時、上手に英語をしゃべれるようになれることをうたい文句にした通信教育を黙って契約し、親にばれて怒られたことがあった。初めて自分専用の携帯電話を買ってもらった時も、アプリをたくさんダウンロードして叱られた。
 両方とも、毎月の小遣いやお年玉で何とかやれる範囲であったのだが、親の了解を得てからやるべきことだと叱られ、その後、親に契約を取り消された。
 そのほかにも、思い浮かぶことは、いろいろとあった。
 (今回は、どのように叱られるのかな?)何も言ってこない親の態度に、拓海の不安は積もった。

 親の態度に不気味さと不安を感じていたのは、海斗、七海、美咲の三人も同じであった。
 いずれの親も、突然の学校からの呼び出しに戸惑い、何があったのかと追及してきたことに関しては同じであったが、頭ごなしに叱ってくる親は一人もいなかった。
 三人とも、拓海と同じように、親は、学校からの話を聞いたうえで何か言ってくるのだろうと思っていた。
 四人は、あえて、土曜日に親とともに呼び出されていることには触れずに時間を過ごした。
 そして、土曜日の放課後の時間を迎えた。
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