ボクたち、孫代行をやってみました

makotochan

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 給食を食べ終え教室の掃除を済ませた生徒たちに向って、新垣先生が、「来週は期末テストがあるんだから、明日も、ちゃんと家で勉強をやれよ」と声をかけた。
 生徒たちが「は~い」と間延びした返事をする。
 生徒たちの顔には、緊張感が見られなかった。
 夏休みが近づいてきている。中学二年なので、受験勉強に追われているという意識もない。塾通いをしている生徒たちにとっても、週末は、つかの間の休息時間であった。
 生徒たちが、がやがやと教室を出ていった。帰るそぶりを見せない拓海たちに、帰らないのかと声をかけてくる生徒もいた。
 声をかけられるたびに、拓海たちは、曖昧な返事でごまかした。

 一旦教室を出て職員室へ向かった新垣先生が、再び教室に戻ってきた。
 拓海たちに、席に着いているように指示をする。
 座る場所も決められていた。最前列に先生たちが机の向きを逆にして座り、その向かい側に親たちが座り、拓海たちは親たちの後ろに座るというレイアウトが組まれていた。
 拓海たちは、無言で席に着いた。四人ともが、不安でいっぱいだった。先生と親とが一緒になって、かさにかかって自分たちのことを責め立ててくるのではないだろうかという不安にかられていた。
 拓海も、うつむいたまま両手の指を組み、親指だけくるくると回しながら、気を紛らわせていた。

 予定されていた時刻が迫り、親たちも顔をそろえた。
 拓海の家からは、父親が出席した。七海の家は両親ともが出席し、海斗と美咲の家からは、母親が出席した。学校側からの出席者は、校長先生と新垣先生の二人である。
 「本日は、お足元が悪い中、わざわざおいでいただきまして恐縮です」全員がそろったことを確認した新垣先生が、親たちに向って挨拶をした。梅雨は明けておらず、外は、しっかりとした雨が降っていた。雨が窓を叩く音が、拓海の耳に、やけに大きく響いていた。
 「お電話でもお伝えしておりますが、お子さんたちに重大な校則違反があり、ご父兄の方々とも直接お話しをさせていく必要があると考え、このような場を設けさせていただきました」
 新垣先生の顔も、緊張していた。普段の威勢の良い感じとは違い、かしこまっている風である。
 新垣先生の後を継ぐように、校長先生があいさつに立った。新垣先生のときとは違い、堂々とした話口調だった。
 (やっぱ、人の上に立つ人間は違うな……)拓海は、自分の置かれた状況を一時忘れ、変なところに感心していた。
 校長先生があいさつを終え、親たちに資料が配られた。
 拓海は、親たちが資料を手に取り広げているところを盗み見た。配られた資料は、拓海たちが作ったチラシのコピーと校則が書かれたページのコピーのようであった。
 再び、新垣先生がしゃべり出す。
 「今お配りした資料の一枚目が、お子さんたちが作ったチラシです。お子さんたちに確認したところ、このチラシを千枚作って、近隣の一般住宅のポストにまいていったということです。このチラシをまく前にも、違うチラシを千枚作り、同じく一般住宅のポストにまいたことも確認しております」
 親たちは、チラシに見入っていた。誰も、一言も言葉を発さない。
 「このチラシを見て、お子さんたちに連絡してきた方が八人いたということでした。連絡を受けたお子さんたちが、主に日曜日や祝日にその方々の家まで出向いて、食事や買い物のお付き合い、話し相手などをしていたということです……」
 新垣先生が、事情をかいつまんで説明した。
 親たちの中から、ため息が漏れた。
 拓海は、父親の背中に視線を向けた。父親が、どのような顔をしているのかが気になった。
 今日まで何も言われなかった分、家に帰った後に大目玉を食らうのではないかという気がしていた。
 発言が、校長先生に代わった。
 「私共が重要視しておりますのは、チラシにも書かれております通り、お金のやり取りが発生しているという部分です。お子さんたちからの申告では、四月から六月までの三ヵ月間で、十万円を超す稼ぎがあったということです。このことは、重大な校則違反であると、私共は認識しております。お手元にお配りした資料の二枚目、三枚目は、わが校の校則が書かれたページをコピーしたものですが、その中で、はっきりとアルバイトを禁止すると書かれてあります。さらに、個人間でのお金の貸し借り、その他金銭の授受も、はっきりと校則で禁止しております。義務教育期間中の子供を預かるうえで、当然の内容であると、私共は考えております」
 校長先生の声が、大きくなっていった。新垣先生も、いつもの強気な表情に戻っている。
 「本日はですね、事情を正確にご父兄の皆様方にお伝えした上で、重大な校則違反があったのだということをみなで認識し、今後のことを考えていただきたいのです。お子さんたちに、自分たちがどれほどとんでもないことをしたのかということを理解してもらい、もう二度とこのような行為はしないということを誓ってもらわなければならないわけですが、それには、ご父兄の皆様方のご協力も必要です。おそらく、お子さんたちは、まだ事の重大さを認識していないと思います。我々が毅然とした態度で叱るべきなのはもちろんのことですが、ご父兄の皆様方からもはっきりと言っていただくことで、お子さんたちは、事の重大さを認識すると思うのです」
 今や、校長先生は、選挙期間中に演説する立候補者のようであった。親たちも、校長先生の言葉に圧倒されているかのように、拓海の目には映った。
 親や拓海たちの表情を見回した校長先生が、さらに発言を続けようと、顔を前に向ける。
 その時だった。
 教室の入り口のドアがノックされ、扉が開いた。
 「あの、今回の件の関係者だという方々がお見えになっていて、どうしても発言したいことがあるということなのですが……」顔を覗かせた別のクラスの担任の女性教師が、困ったような表情を校長先生に向けた。
 女性教師の後ろには、三人の人間がいた。失礼しますと言葉を発し、三人は、教室に入ってきた。
 三人の顔を見た拓海は、驚いた。藤本さんと藤本さんの紹介で客になってくれた斎藤さん、将棋好きの古川さんの三人だったからだ。
 拓海たち四人は、互いに顔を見合わせた。
 「何なのですか? あなた方は?」新垣先生が、突然現れた三人を問い詰める。
 「私たちはですね、この子たちに来てもらっていた人間です。この子たちが学校からお叱りを受けるということをお聞きしまして、どうしても言いたいことがありましたもので、ご迷惑をおかけすることは承知の上で、押しかけてまいりました」三人を代表して、藤本さんが、突然やってきた理由を口にした。
 「困りますね。いきなり、こういうことをされたら」新垣先生が、語気を強める。
 「まぁ、まぁ」片手で新垣先生の言葉を遮った校長先生が、親たちに、この場に藤本さんたちが加わってもよいかどうかを確認した。
 親たちからの答えは、構わないであった。
 校長先生から促された藤本さんたちは、親たちの隣の席に着いた。
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