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序章
1、出会い
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俗に魔物と呼ばれる生物が跋扈する世界。ある国に後に最強の魔術師と呼ばれるようになる一人の少女がいた。名をマリアという。これはそんなマリアが人々から崇め奉られるまでの物語である。
~∞~
マリアは初春のまだ肌寒い橙に染まった夕暮れの王都の街をとぼとぼと歩いていた。肩までの僅かに青みを帯びた銀髪と服は所々土埃で薄汚れており、夏の澄みきった青空の様な深い蒼の瞳には力がない。
周囲に人影はまばらで、数少ない通行人たちも年端もいかない幼子が1人で道を歩いているにも拘わらず、気に止めた様子を見せる者はいない。
グゥ
お腹が鳴った。それもかなり大きな音を立てて。
マリアは慌てて周囲を見回し、聞いていた者がいないか確認する。その頬と耳は僅かに赤みを帯びている。
「……大丈夫、か」
周囲に人がいないことを確認し、ホッと息を吐く。
いつもだったら夕飯を食べている時間だ。それなのに1人街を歩いているのは母親と喧嘩をして家を追い出されたからだった。
喧嘩のきっかけは他愛もないことだった。夕飯のおかずを何にするか、それだけの話だったにも関わらずいつの間にかヒートアップしていた。
(お腹が空いたなぁ)
今マリアの頭の中にあるのは食事のことだけだった。今晩寝る場所の心配はまったくしていない。いや、していないのではなく、今差し迫った問題が食事のことだからだ。それ以外のことに考えを巡らす余裕がないともいう。
「お嬢ちゃんどうしたんだ?」
腰に剣を帯び、体をレーザーアーマーで包んだ犬の獣人らしき中年男性が俯きながら歩いているマリアに話し掛けて来た。格好から冒険者であろうことが窺える。
「別にどうもしてないよ」
マリアは努めてぶっきらぼうにそう答えた。
「どうもしてないってこたぁないだろう。そんな辛気臭い顔をして」
短い言葉からも面倒見が良い性格であることがわかる。どうも正直に答えるまで解放して貰えそうにない。
「お母さんと喧嘩して家を追い出されただけ」
「おいおい、それはだけって言って済む問題じゃないだろ。今夜寝る場所もないんじゃないのか?」
男は呆れたように言った。その眼差しは心配そうにマリアに注がれている。
「……はい」
マリアは正直に答えた。嘘をついたところでどうせすぐにバレるであろうことはすでに察していた。
「しょうがないな。……今晩だけなら面倒は見てやれるがどうする?」
「お願いします! あっ、でもお金……」
着の身着のままで追い出されたので硬貨の1枚も持っていなかった。何の見返りもなければ見捨てられるのではないかと、一度は弾んだ気分もすぐに落ち込む。
「そんなもんいらねえよ。嬢ちゃんから金が取れるなんて端から思ってねえ」
男はそう言ってマリアの頭を強い力で撫でた。薄汚れてはいても綺麗に梳かされていた髪が忽ちのうちにぐしゃぐしゃに変わる。
「やめて! 髪の毛がぼさぼさになるじゃない!」
男の手を振り解いたマリアの目には光が戻っていた。
「ははは、悪い悪い。だが子どもはそれぐらい元気じゃないとな」
そう言って悪びれた様子も見せず茶色の瞳を悪戯っぽく瞬かせた。
「もう! ちゃんと謝ってよ!」
そんなマリアの文句は笑って無視された。
男に連れて来られたのは街外れの1軒の安宿だった。木でできた壁には蔦が張っており、何とも言えない不気味さを醸し出している。
「どんなとこでも住めば都だ。こんなぼろっちいところで申し訳ないけどな」
男はそう言って笑った。
マリアは空笑いしか出てこなかった。
「何がぼろっちいだと。ウーノ、もう一度言ってみろ。そのぼろっちい宿に泊まっているのは誰だ。追い出すぞ」
宿の入口にあるカウンターで番をしていた店主らしき男が怒り出した。
「わ、悪かったって。言葉の綾じゃねぇか」
「ふん、わかればいいんだ」
この手のことは日常茶飯事のことのようでウーノが謝ってすぐに終わった。
「……それでその子は誰だ? お前が若いのを連れてくるのはいつものことだが女の子たぁ珍しい」
「そこで拾ったんだよ。母親と喧嘩をして家を追い出されたらしい」
「そうか、お人好しなお前らしいな。……嬢ちゃん、名前は?」
「……マリア」
マリアは少し警戒しながら答えた。
「そうか、マリアか。……いいか、知らないおじさんに付いて行っちゃダメだぞ。ウーノだったからよかったものの悪い奴に奴隷商人に売られることもあるんだからな」
「う、うん」
店主の怖い顔に少し怯えながら、なんとかそれだけ答えた。
「わかったんだったら良いんだ。俺はルアン。そこのウーノとは古い付き合いだ」
そう言って手を差し出しながらルアンは微笑んだ。
だがマリアにはその笑顔がおそろしく、思わずウーノの後ろに隠れてしまった。
「なん…だと……?」
愕然とした表情のルアンが現実復帰を果たすまで暫しの時間を要した。
~∞~
マリアは初春のまだ肌寒い橙に染まった夕暮れの王都の街をとぼとぼと歩いていた。肩までの僅かに青みを帯びた銀髪と服は所々土埃で薄汚れており、夏の澄みきった青空の様な深い蒼の瞳には力がない。
周囲に人影はまばらで、数少ない通行人たちも年端もいかない幼子が1人で道を歩いているにも拘わらず、気に止めた様子を見せる者はいない。
グゥ
お腹が鳴った。それもかなり大きな音を立てて。
マリアは慌てて周囲を見回し、聞いていた者がいないか確認する。その頬と耳は僅かに赤みを帯びている。
「……大丈夫、か」
周囲に人がいないことを確認し、ホッと息を吐く。
いつもだったら夕飯を食べている時間だ。それなのに1人街を歩いているのは母親と喧嘩をして家を追い出されたからだった。
喧嘩のきっかけは他愛もないことだった。夕飯のおかずを何にするか、それだけの話だったにも関わらずいつの間にかヒートアップしていた。
(お腹が空いたなぁ)
今マリアの頭の中にあるのは食事のことだけだった。今晩寝る場所の心配はまったくしていない。いや、していないのではなく、今差し迫った問題が食事のことだからだ。それ以外のことに考えを巡らす余裕がないともいう。
「お嬢ちゃんどうしたんだ?」
腰に剣を帯び、体をレーザーアーマーで包んだ犬の獣人らしき中年男性が俯きながら歩いているマリアに話し掛けて来た。格好から冒険者であろうことが窺える。
「別にどうもしてないよ」
マリアは努めてぶっきらぼうにそう答えた。
「どうもしてないってこたぁないだろう。そんな辛気臭い顔をして」
短い言葉からも面倒見が良い性格であることがわかる。どうも正直に答えるまで解放して貰えそうにない。
「お母さんと喧嘩して家を追い出されただけ」
「おいおい、それはだけって言って済む問題じゃないだろ。今夜寝る場所もないんじゃないのか?」
男は呆れたように言った。その眼差しは心配そうにマリアに注がれている。
「……はい」
マリアは正直に答えた。嘘をついたところでどうせすぐにバレるであろうことはすでに察していた。
「しょうがないな。……今晩だけなら面倒は見てやれるがどうする?」
「お願いします! あっ、でもお金……」
着の身着のままで追い出されたので硬貨の1枚も持っていなかった。何の見返りもなければ見捨てられるのではないかと、一度は弾んだ気分もすぐに落ち込む。
「そんなもんいらねえよ。嬢ちゃんから金が取れるなんて端から思ってねえ」
男はそう言ってマリアの頭を強い力で撫でた。薄汚れてはいても綺麗に梳かされていた髪が忽ちのうちにぐしゃぐしゃに変わる。
「やめて! 髪の毛がぼさぼさになるじゃない!」
男の手を振り解いたマリアの目には光が戻っていた。
「ははは、悪い悪い。だが子どもはそれぐらい元気じゃないとな」
そう言って悪びれた様子も見せず茶色の瞳を悪戯っぽく瞬かせた。
「もう! ちゃんと謝ってよ!」
そんなマリアの文句は笑って無視された。
男に連れて来られたのは街外れの1軒の安宿だった。木でできた壁には蔦が張っており、何とも言えない不気味さを醸し出している。
「どんなとこでも住めば都だ。こんなぼろっちいところで申し訳ないけどな」
男はそう言って笑った。
マリアは空笑いしか出てこなかった。
「何がぼろっちいだと。ウーノ、もう一度言ってみろ。そのぼろっちい宿に泊まっているのは誰だ。追い出すぞ」
宿の入口にあるカウンターで番をしていた店主らしき男が怒り出した。
「わ、悪かったって。言葉の綾じゃねぇか」
「ふん、わかればいいんだ」
この手のことは日常茶飯事のことのようでウーノが謝ってすぐに終わった。
「……それでその子は誰だ? お前が若いのを連れてくるのはいつものことだが女の子たぁ珍しい」
「そこで拾ったんだよ。母親と喧嘩をして家を追い出されたらしい」
「そうか、お人好しなお前らしいな。……嬢ちゃん、名前は?」
「……マリア」
マリアは少し警戒しながら答えた。
「そうか、マリアか。……いいか、知らないおじさんに付いて行っちゃダメだぞ。ウーノだったからよかったものの悪い奴に奴隷商人に売られることもあるんだからな」
「う、うん」
店主の怖い顔に少し怯えながら、なんとかそれだけ答えた。
「わかったんだったら良いんだ。俺はルアン。そこのウーノとは古い付き合いだ」
そう言って手を差し出しながらルアンは微笑んだ。
だがマリアにはその笑顔がおそろしく、思わずウーノの後ろに隠れてしまった。
「なん…だと……?」
愕然とした表情のルアンが現実復帰を果たすまで暫しの時間を要した。
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