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序章
2、それから
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ルアンが現実復帰するまでの間にウーノが教えてくれたことによるとウーノはよくこの宿に泊っており、ルアンとはもう10年以上の付き合いになるらしい。古い付き合いとはそういうことかとマリアは納得する。
「マリアの今後のことを考えないとなぁ。お母さんは明日には許してくれそうか?」
「わかんない」
ウーノの問いかけにマリアは首を横に振りながら答えた。
だがそうは答えたもののおそらく母親が快くマリアを家に迎え入れてくれることは二度とないだろうという予感がマリアにはあった。それは予感というよりは確信と言った方が正しいのかもしれない。
「そうか……。どこか行くあてはあるのか?」
マリアは黙って首を横に振った。そもそも行くあてがあれば街を彷徨ってなどいない。
「お母さんが許してくれることを祈るしかないな」
「……うん」
ウーノは曇った顔で心配そうにマリアを見た。
真摯な態度で接してくるウーノにおそらく無理だとは口にできなかった。
「部屋はどうするんだ? 二人部屋で良いのか?」
ルアンが重い空気を吹き飛ばすように明るい声で訊いた。
「ああ、それで頼む」
案内された部屋は2階の端、ベッドが二つあるだけの狭い部屋だった。
「夕食はどうする?」
「すぐに用意ができるか?」
「ああ」
「じゃあ頼む。マリアが限界みたいだ」
「わかった。気づかなくて悪かったな」
ルアンは下の食堂まで来るように言うと足早に部屋から出ていった。
「行くぞ」
「うん」
マリアは返事をすると一歩踏み出した。
「きゃっ!」
「おっと!」
マリアはバランスを崩して地面に倒れかかった。
ウーノが慌てて支える。
「フラフラじゃねぇか! 運んでやるからじっとしていろ」
ウーノはマリアを抱き上げると1階の食堂まで運んだ。
食堂に着くとすぐに30代後半ぐらいの女性が料理を運んで来た。
「熱いから気をつけて食べてね~」
女性は料理に目を輝かせたマリアに苦笑しながらそう言った。
お腹が空っぽのマリアにはただの黒パンと温かな野菜たっぷりのシチューがこの上ない御馳走に思えた。無意識のうちに頬を涙が伝う。
瞬く間に料理が皿から消えていくのを、どこに入るんだとウーノが唖然とした顔で見ていたことにマリアは最後まで気づかなかった。
夕食後マリアはルアンに話があると言われ、ルアンのところにウーノと共に行った。
「ウーノ、ローザという婆さんを知っているか?」
開口一番に言われたのはそんな質問。
「あの魔術師の?」
「ああ。魔術を教えている学園があることは知っているよな?」
「知っているがそれがローザとどう関係するんだ?」
魔術を教えている学園、王立魔術学園は子どもでも知っているぐらい有名だ。学園は全寮制で授業料が高いことでも知られている。そして生徒のほとんどが貴族の子息子女であることも。
「まぁ落ち着けって。学園の推薦枠って知っているか?」
「馬鹿みたいに高い授業料が無料になるってあれだろ? ただ確かあれはかなり優秀な魔術師の推薦が必要だった筈だが……。っ!? まさか!」
「たぶんそのまさかだ。ローザが推薦権を持っているらしい。ダメもとでお願いしてみないか?行くあてがないならそこに通うのも1つの手だと思ってな。魔術師なら卒業した後に職には困らないだろうしな」
「それはいいが、お前はどう思っているんだ、マリア」
大切なのは本人の意思だと、最終決定権をマリアに委ねる。
マリアは暫し悩んだ末に答えた。
「私の損になることがないんならそれでいい」
「そうか。……実はな、そう言うと思ってもうアポは取ってあるんだ。これから行くぞ」
ルアンの行動の速さにマリアとウーノは驚愕を通り越して呆れしか出てこなかった。
ともあれマリアはルアンたちとローザという魔術師に会いに行くこととなった。ローザについて何の情報も持たぬまま。
「マリアの今後のことを考えないとなぁ。お母さんは明日には許してくれそうか?」
「わかんない」
ウーノの問いかけにマリアは首を横に振りながら答えた。
だがそうは答えたもののおそらく母親が快くマリアを家に迎え入れてくれることは二度とないだろうという予感がマリアにはあった。それは予感というよりは確信と言った方が正しいのかもしれない。
「そうか……。どこか行くあてはあるのか?」
マリアは黙って首を横に振った。そもそも行くあてがあれば街を彷徨ってなどいない。
「お母さんが許してくれることを祈るしかないな」
「……うん」
ウーノは曇った顔で心配そうにマリアを見た。
真摯な態度で接してくるウーノにおそらく無理だとは口にできなかった。
「部屋はどうするんだ? 二人部屋で良いのか?」
ルアンが重い空気を吹き飛ばすように明るい声で訊いた。
「ああ、それで頼む」
案内された部屋は2階の端、ベッドが二つあるだけの狭い部屋だった。
「夕食はどうする?」
「すぐに用意ができるか?」
「ああ」
「じゃあ頼む。マリアが限界みたいだ」
「わかった。気づかなくて悪かったな」
ルアンは下の食堂まで来るように言うと足早に部屋から出ていった。
「行くぞ」
「うん」
マリアは返事をすると一歩踏み出した。
「きゃっ!」
「おっと!」
マリアはバランスを崩して地面に倒れかかった。
ウーノが慌てて支える。
「フラフラじゃねぇか! 運んでやるからじっとしていろ」
ウーノはマリアを抱き上げると1階の食堂まで運んだ。
食堂に着くとすぐに30代後半ぐらいの女性が料理を運んで来た。
「熱いから気をつけて食べてね~」
女性は料理に目を輝かせたマリアに苦笑しながらそう言った。
お腹が空っぽのマリアにはただの黒パンと温かな野菜たっぷりのシチューがこの上ない御馳走に思えた。無意識のうちに頬を涙が伝う。
瞬く間に料理が皿から消えていくのを、どこに入るんだとウーノが唖然とした顔で見ていたことにマリアは最後まで気づかなかった。
夕食後マリアはルアンに話があると言われ、ルアンのところにウーノと共に行った。
「ウーノ、ローザという婆さんを知っているか?」
開口一番に言われたのはそんな質問。
「あの魔術師の?」
「ああ。魔術を教えている学園があることは知っているよな?」
「知っているがそれがローザとどう関係するんだ?」
魔術を教えている学園、王立魔術学園は子どもでも知っているぐらい有名だ。学園は全寮制で授業料が高いことでも知られている。そして生徒のほとんどが貴族の子息子女であることも。
「まぁ落ち着けって。学園の推薦枠って知っているか?」
「馬鹿みたいに高い授業料が無料になるってあれだろ? ただ確かあれはかなり優秀な魔術師の推薦が必要だった筈だが……。っ!? まさか!」
「たぶんそのまさかだ。ローザが推薦権を持っているらしい。ダメもとでお願いしてみないか?行くあてがないならそこに通うのも1つの手だと思ってな。魔術師なら卒業した後に職には困らないだろうしな」
「それはいいが、お前はどう思っているんだ、マリア」
大切なのは本人の意思だと、最終決定権をマリアに委ねる。
マリアは暫し悩んだ末に答えた。
「私の損になることがないんならそれでいい」
「そうか。……実はな、そう言うと思ってもうアポは取ってあるんだ。これから行くぞ」
ルアンの行動の速さにマリアとウーノは驚愕を通り越して呆れしか出てこなかった。
ともあれマリアはルアンたちとローザという魔術師に会いに行くこととなった。ローザについて何の情報も持たぬまま。
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