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閑話
懐かしき者とマリアとベルと……(4)
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その頃マリアはというと、再度街へとくり出していた。
「おっ、マリアちゃんじゃねぇか。こんなところで見かけるなんて珍しいな」
「ギルガルドさん、お久しぶりです。本当はさっきも来たんですけど、縫い糸を買い忘れたことに気づいて。ついでにお昼も食べようかなって。ギルガルドさんもお昼ですか? 1人なんて珍しいですね」
見慣れた顔にマリアは顔を綻ばせた。
「ああ、今日は休みにしようって皆で決めてな、剣も手入れに出しちまってやることもないから適当にその辺をぶらついてたんだ。マリアちゃんこそあのちっちゃいのもアルの奴も連れてないなんて珍しいんじゃないか?」
「あ~、そうかも。アルはいたりいなかったりだけど、ベルはだいたいいるから。アルはちょっとわからないけど、ベルはちょっと出かけてくるって言ってどっか行っちゃって。一応暗くなる前には帰ってこいとは言っておいたけど」
その言葉にギルガルドは少し顔をしかめた。
「留守番させているわけじゃなくて1人で出かけてるのか……」
「うん。それが何かあるんですか?」
「あ~、あくまで人伝に聞いた話だし、どこまで本当かはわからないんだが……」
ギルガルドは声を潜めるとマリアの耳元に口を寄せた。
「どうも貴族ん中にベルちゃんを欲しがっている奴がいるらしんだわ」
「……それってどこ情報ですか?」
「何人かが言ってたんだけどな、貴族の使いを名乗る奴に声をかけられたらしい。ベルちゃんを連れてくれば大金を払うってな。勿論話してくれた奴らは皆断ったらしいけどな」
そこそこマリアたちと仲が良いから、それとなく注意をするように頼まれたのだと、ギルガルドは言葉を続けた。
「それ、全然それとなくになってないんだけど」
「すまん。普段そんな話をする機会なんてないからな」
じっとりした目を向けられ、ギルガルドは目を逸した。
「まあ良いけど。私も、親しい者に何かあったら使える伝手は全部使うつもりですし、何の問題もないし」
「伝手全部って、まさかあの方も巻き込むのか?」
「それは勿論。伝手は使ってこその伝手だもの。それに本当に貴族が関わっているのなら、それぐらいしないと揉み消されかねないしね。国家権力だろうがなんだろうが頼るよ」
微笑みを浮かべるマリアはどこか楽しそうだった。
「せっかくだし、情報を教えてくれたお礼も兼ねて何か奢るけど、何か食べたい物あります?」
「……それは勘弁してくれ。俺の分までマリアちゃんに金を出させたら皆に袋叩きにされちまう。むしろ俺に払わせろ」
袋叩きにされる未来を想像したのかギルガルドは肩を震わせる。
「それじゃあ意味がないよ」
マリアはくすりと笑った。
「……そうだな。どうだ? 今回は俺のおすすめのとこに行くってことで手を打たねぇか?」
「良いよ。私、普段王都ではお店に入ること少なくて、あまり詳しくないから新鮮だし」
「あまり入らないって、宿暮らしなら外食が基本だろ? 違うのか?」
不思議そうに尋ねた。
「あ~、私は生まれも育ちもずっと王都だから。冒険者になる前は禄に王都の外に出たこともなかったし……そう言うギルガルドさんこそどうなんですか?」
「俺はちっこい農村の生まれだな。まあ領主様は珍しく優しい方だったが、何分貧乏な村だったからな。ある程度の年齢になったら半分以上は何かしらの仕事に就いて、村を出ていくのが当たり前なところだった」
「……冒険者って、そういう人たちが多いよね」
「身一つでできるからな。それに高ランクになれば一攫千金も夢じゃない。それに憧れる奴も多い」
「……まあそれで低ランクの時から高ランクの魔物に無謀に挑んで返り討ちに合うっていう話も同じくらい聞くけどね。私たちも始めたての頃は受付の人に散々言われたし」
過去を思い出してマリアは苦笑した。
「まあ当然の反応だと思うぞ。今でこそ皆実力がわかってるから何も言わないんだろうが、わかってなければ無謀にしか見えないしな。俺も1人で討伐依頼を受けようとしているマリアちゃんを見た時は肝が冷えたぞ」
「……その節はご心配をおかけしました」
「取り越し苦労だったってことはすぐにわかったけどな」
「まあ見た目で判断されるのは仕方がないことだとは思うけどね」
それで絡まれることも珍しくないしと、溜息を吐く。
「俺もこんななりじゃなかったらチビどもに泣かれることもなかったのかと考えると悲しくなる……」
「ギルガルドさんは今のままでも良いと思うよ。なんていうか、その……かっこいいし……」
「ありがとな。お世辞でもそう言ってくれるのはお前ぐらいだ」
ギルガルドはマリアを軽々と抱き上げると、頬擦りをした。
「……苦しいんだけど。あと鬱陶しい」
「あ~、悪い悪い」
「絶対に悪いと思ってないでしょ」
「この通り反省してるって」
マリアの機嫌は店に着くまで直ることはなかった。
そしてこの時の2人のやり取りを目撃した者たちに、ギルガルドが揶揄われるのはそれから数日後のこと。
「おっ、マリアちゃんじゃねぇか。こんなところで見かけるなんて珍しいな」
「ギルガルドさん、お久しぶりです。本当はさっきも来たんですけど、縫い糸を買い忘れたことに気づいて。ついでにお昼も食べようかなって。ギルガルドさんもお昼ですか? 1人なんて珍しいですね」
見慣れた顔にマリアは顔を綻ばせた。
「ああ、今日は休みにしようって皆で決めてな、剣も手入れに出しちまってやることもないから適当にその辺をぶらついてたんだ。マリアちゃんこそあのちっちゃいのもアルの奴も連れてないなんて珍しいんじゃないか?」
「あ~、そうかも。アルはいたりいなかったりだけど、ベルはだいたいいるから。アルはちょっとわからないけど、ベルはちょっと出かけてくるって言ってどっか行っちゃって。一応暗くなる前には帰ってこいとは言っておいたけど」
その言葉にギルガルドは少し顔をしかめた。
「留守番させているわけじゃなくて1人で出かけてるのか……」
「うん。それが何かあるんですか?」
「あ~、あくまで人伝に聞いた話だし、どこまで本当かはわからないんだが……」
ギルガルドは声を潜めるとマリアの耳元に口を寄せた。
「どうも貴族ん中にベルちゃんを欲しがっている奴がいるらしんだわ」
「……それってどこ情報ですか?」
「何人かが言ってたんだけどな、貴族の使いを名乗る奴に声をかけられたらしい。ベルちゃんを連れてくれば大金を払うってな。勿論話してくれた奴らは皆断ったらしいけどな」
そこそこマリアたちと仲が良いから、それとなく注意をするように頼まれたのだと、ギルガルドは言葉を続けた。
「それ、全然それとなくになってないんだけど」
「すまん。普段そんな話をする機会なんてないからな」
じっとりした目を向けられ、ギルガルドは目を逸した。
「まあ良いけど。私も、親しい者に何かあったら使える伝手は全部使うつもりですし、何の問題もないし」
「伝手全部って、まさかあの方も巻き込むのか?」
「それは勿論。伝手は使ってこその伝手だもの。それに本当に貴族が関わっているのなら、それぐらいしないと揉み消されかねないしね。国家権力だろうがなんだろうが頼るよ」
微笑みを浮かべるマリアはどこか楽しそうだった。
「せっかくだし、情報を教えてくれたお礼も兼ねて何か奢るけど、何か食べたい物あります?」
「……それは勘弁してくれ。俺の分までマリアちゃんに金を出させたら皆に袋叩きにされちまう。むしろ俺に払わせろ」
袋叩きにされる未来を想像したのかギルガルドは肩を震わせる。
「それじゃあ意味がないよ」
マリアはくすりと笑った。
「……そうだな。どうだ? 今回は俺のおすすめのとこに行くってことで手を打たねぇか?」
「良いよ。私、普段王都ではお店に入ること少なくて、あまり詳しくないから新鮮だし」
「あまり入らないって、宿暮らしなら外食が基本だろ? 違うのか?」
不思議そうに尋ねた。
「あ~、私は生まれも育ちもずっと王都だから。冒険者になる前は禄に王都の外に出たこともなかったし……そう言うギルガルドさんこそどうなんですか?」
「俺はちっこい農村の生まれだな。まあ領主様は珍しく優しい方だったが、何分貧乏な村だったからな。ある程度の年齢になったら半分以上は何かしらの仕事に就いて、村を出ていくのが当たり前なところだった」
「……冒険者って、そういう人たちが多いよね」
「身一つでできるからな。それに高ランクになれば一攫千金も夢じゃない。それに憧れる奴も多い」
「……まあそれで低ランクの時から高ランクの魔物に無謀に挑んで返り討ちに合うっていう話も同じくらい聞くけどね。私たちも始めたての頃は受付の人に散々言われたし」
過去を思い出してマリアは苦笑した。
「まあ当然の反応だと思うぞ。今でこそ皆実力がわかってるから何も言わないんだろうが、わかってなければ無謀にしか見えないしな。俺も1人で討伐依頼を受けようとしているマリアちゃんを見た時は肝が冷えたぞ」
「……その節はご心配をおかけしました」
「取り越し苦労だったってことはすぐにわかったけどな」
「まあ見た目で判断されるのは仕方がないことだとは思うけどね」
それで絡まれることも珍しくないしと、溜息を吐く。
「俺もこんななりじゃなかったらチビどもに泣かれることもなかったのかと考えると悲しくなる……」
「ギルガルドさんは今のままでも良いと思うよ。なんていうか、その……かっこいいし……」
「ありがとな。お世辞でもそう言ってくれるのはお前ぐらいだ」
ギルガルドはマリアを軽々と抱き上げると、頬擦りをした。
「……苦しいんだけど。あと鬱陶しい」
「あ~、悪い悪い」
「絶対に悪いと思ってないでしょ」
「この通り反省してるって」
マリアの機嫌は店に着くまで直ることはなかった。
そしてこの時の2人のやり取りを目撃した者たちに、ギルガルドが揶揄われるのはそれから数日後のこと。
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