こうして少女は最強となった

松本鈴歌

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閑話

懐かしき者とマリアとベルと……(3)

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 マリアは部屋に戻るとさっそく買ってきた布を広げ始めた。

「まさかおばさんに会うとは思わなかったな。家まで遠いいわけじゃないし、別に不思議でもなんでもないけどさ」
「マリアハ、あいたくなかったノ?」
「別にそういうわけじゃないけど、気持ちの整理がついてなかったというかなんというか……。ベラおばさんは、昔の私にとって身近な存在だったから、顔を見たら悪い思い出も思い出しちゃって……」

 大丈夫だとでも言うようにそっとベルを撫でる。

「良い思い出も勿論たくさんあるんだけどね。料理も裁縫も、なんだかんだで教えてくれたのは全部おばさんだったし、それ自体は楽しかったしね」

 ベルはマリアが作業に戻るのを何も言えずに見ていた。そしてしばらく無言のまま考え込んだ。

「……ちょっと、でかけてクル。おひるハいらない」
「わかった。暗くなる前には帰ってくるんだよ」
「うん……」

 短く返事をすると、ベルは窓から外へと出ていった。その後ろ姿をマリアが不思議そうに見ていた。

「アル~、ちょっとそうだんしたイこと、あるけどイイ?」

 城の一室に忍び込んだベルは部屋の主の前の机に降り立つと、開口一番にそう言い放った。

「……いったいどこから入り込んだんだ?」

 アルフォードは頭を押さえながら深々と溜息を吐いた。

「後で侵入ルートを教えてくれれば、少しなら良いぞ」
「それハもちろん」
「それで、わざわざどうしたんだ?」
「……マリアガ、ひとニあってからくらいかおしてるノ。どうすれバ、いいトおもう?」
「人って誰だ?」

 アルフォードはマリアがそのような表情をする人物に心当たりがなく首を捻った。

「マリアハ、ベラおばさんっテよんでた。むかしノしりあいだっテ。むかしノこと、おもいだしたっテいってタ」
「そうか……心配する気持ちもわかるけどな、過去のことには触れたくないようだったし、そっとしておいてやるのが一番だと思うぞ」
「うん……」
「あるいは他のことで気を紛らわせてやるのも良いかもしれないが、そう都合よくあるわけでもない、し……」
「アル?」

 不自然に言葉を切ったアルフォードに、ベルは首を傾げた。

「そういえばもうそろそろだと連絡が来ていたような……」

 ベルの様子には気も留めず、引き出しの中をあさり始める。

「あった。ベル、エーアリアスって覚えてるか?」
「なつニあったこデショ? いんしょうてきだったシ、これデわすれてたらただノばか」

 一言余計な言葉に、アルフォードは頬を引きつかせた。

「……そうだな。それで近々エルドラントに来るという手紙が来ていてな。それがこれだ」

 机に置かれた白い封筒にベルは目を輝かせた。

「あれ? でもなんデこれ、アルガもってるノ?」
「正確には僕宛ではなく国宛。父上に無理矢理歓待役を押し付けられたんだ。エーデルでアルフォードとして顔を合わせてしまっているし、どう誤魔化すか今から考えるのが面倒だよ」

 重い溜息を吐くアルフォードの腹に、話を逸らすなとでも言うようにベルが飛び蹴りを喰らわせる。

「あ~、悪い悪い。名目上はリーゼロッタ姫が散々城や王都で方方に迷惑をかけた謝罪らしいぞ。真意はまた別にありそうだがな。滞在予定日数がただの謝罪にしてはやけに長いし……」

 今から気が重いと、再度溜息を吐いた。

「それにあそこの王族は裏表が激しいというか、強かというか、二重人格っぽいところが苦手なんだよな。リーゼロッタ姫はそれに面倒っていうのも加わるし、できれば顔も合わせたくないけどな」
「そうナノ?」
「お前もたぶんそのうちわかるよ。えっと予定上は……3日後に到着予定だな。って!? 早ければもういつ来てもおかしくないじゃないか!?」

 まだ日数的に余裕があると思っていたと、頭を抱えて焦りだしたアルフォードを、ベルはひどく冷めた目で見ていた。

「アル、あきらめモだいじ」
「いや、そういう問題じゃないからな。今の僕の状態自体が色々おかしいって気づいてるか?」
「でもそれ、いまニはじまったことジャないカラ」

 正論で返され落ち込むアルフォードを放置して、ベルは床に降りると、少しだけ開いていた扉を体重をかけるようにして開いた。

「御昼食をお持ちいたしましたよ。あら? どうされたんです? 殿下」

 ベルの存在には気づかず、ワゴンを押して横を素通りした侍女が首を傾げた。

「いや、なんでもない。それよりも僕は勝手に開いたドアになんの疑問も持っていなさそうな君の方が疑問だよ」
「へ? 殿下が開けて下さったんじゃないんですか? あれ? でも殿下は椅子にずっと座られていたような? それにまだノックもしていなかったのによくおわかりになられましたね」

 アルフォードは苦笑いを浮かべた。

「そういう素直なところは君の魅力の1つだと思うけどね、せめてもう少し観察力を身に付けた方が良いと思うよ」
「やだ。そんな……悪い気はしませんけど、私は一使用人に過ぎませんから。口説かれても困っちゃいますぅ」

 頬を染める侍女にアルフォードは顔を引きつかせた。

「あ~、うん、もうわかったから。それだけ置いて出ていってもらえるかな?」
「はい~」

 音を立ててドアが閉まると、アルフォードは今日何度目かわからない溜息を吐いた。

「なんでそうなるんだ……」
「アル、おんなノてき……」

 いつの間にか近くまで戻ってきたベルが机の淵に腰かけながらぽつりと呟いた。

「だからなんでそうなるんだ!? 別に俺は何もしていないだろうが!?」
「むじかく……それガいちばんたちガわるイ」

 そう言って肩をすくめて見せる。

「だからなんでだ!?」

 アルフォードの悲鳴混じりの怒鳴り声とベルの楽しそうな笑い声は、ワゴンの中のスープが冷めるまで続いていた。
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