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第四章 護衛依頼

十二日目(2) 作戦決行(2)

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「代官にエリザベート・スノーウェルが来たと取り次いで頂戴。あら?その子はどうしたの?」

 エリザベートは貴族然とした態度で門衛に取り次ぐように告げ、さも今気づいたようにマリアについて尋ねた。

「えっ?男爵家のお嬢様?いや、しかし何の連絡も。それに徒歩で」

 門衛は混乱している様だった。

「聞こえなかったのかしら?私は取り次いでと言ったのよ」

 そんなやり取りをしている間にマリアを担いだ門衛がこそこそと屋敷内に入ろうとした。

「わかったらさっさと取り次ぎなさい。それでその子はどうしたの?」

 エリザベートがそれを見逃すはずもなく詰問した。

「わ、わかりました。この少女は屋敷の目の前で倒れたので、中で手当をしてあげようかと」
「倒れた理由もわからないのに?」

 門衛が暴力を振るったのは全て服の下で見えない場所ばかりだった。

「私は回復系の魔術が使えるから待っている間見てあげるわ。あなたは代官に取り次ぎに行きなさい」

 エリザベートがマリアを下ろすように命じたが、門衛は従う気配がない。

「どうしたの?私が本物かどうかなんて、代官なら見ればわかるはずだわ」
「し、しかし、このような薄汚い少女をお嬢様にお見せするわけには……」
「そんなこと気にしないわ。良いから見せなさい」

 エリザベートが語気を強めると門衛は渋々とマリアを下ろした。もう一方の門衛もノロノロと入口に向かって動き出した。

「失礼するわね」

 エリザベートは跪くと、まず手を取った。その様子を門衛は青ざめながら黙って見ている。

「!脈がない?」

 エリザベートは慌てた素振りを見せた。

「『《診察メディカルイグザミネーション》』」

 エリザベートの魔術によってマリアの全身が淡く輝いた。

「こ、これは」
「どうした?無理そうか?」

 アルフォードが心配そうに訊いた。

「ううん、大丈夫。仮死状態になってるだけ。……ただ、原因なんだけど全身を痛めつけられている。やられてからそんなに時間が経っていないわ。ねぇあなた?この子は目の前で倒れたって言ったわよね?」
「あ、ああ」
「おかしいのよ。この子の傷じゃ動けたはずがないのに」

 エリザベートは不思議そうな顔をして見せた。

「そ、それは我々を疑っていると?」
「ええ、だってそうでしょう?他に人がいないもの」
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