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第六章 王都への帰路

ヨルの森(5)

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「でも練習って何をするの?それに私はアルさんよりもマリアちゃんの方がいい」
「……やってもらうことは変わらない。マリアではなく僕なのは魔眼っていう魔力が見える目を持っているからだ。普段は見えても鬱陶しいだけだから発動はさせていないがな。……それにしてもハッキリと言うな」

 リオナは頭の中で言われたことを整理した。

「……わかった」

 その結果利点の方が大きいと考え、渋々ながら頷いた。

「その顔だと理解はできたが納得はできていないようだな」
「う~ん、というよりはアルさんとはあまり話したことがないから、ちょっととまどっているだけ」

 リオナはそれだけ言うと練習を始めた。アルフォードも何も言わずにそれを眺めた。

「ストップだ。できてはいるが、指先が多くて腕は少ない。均等になるイメージでやってみろ」
「う、うん」

 アルフォードから見たら、どこが悪いのかは一目瞭然だった。魔力放出量は十分。ただそれが偏っているだけだ。

「指先からしか魔力を放出していないようだが、別に指先からしか出ないわけじゃないぞ。全身から放出しようと思えばできる」
「わ、わかった」

 アルフォードは的確にアドバイスしていく。
 リオナが全身に魔力を纏えるようになったのはそれから30分後だった。

「で、できた!」

 リオナは歓声を上げた。

「ああ、できてるな。最後に仕上げだ。体と同じように声にも魔力を纏わせるイメージで『強化』と言ってみろ」
「うん、わかった。『《強化》』」

 リオナはそう言った瞬間体が軽くなるのを感じた。

「今の状態が《身体強化》を使っている状態だな。さっきのは魔術を使う準備段階だ。あれが一瞬でできるのが理想だな」
「……そうなんだ……」

 散々苦労したことを一瞬でできるようになれと言われ、リオナは肩を落とした。

「今のは《身体強化》だったから体全体だったが、武器などを強化する場合は武器に纏わせて使用する。マリアやエリザベートは武器と自分自身、セットで強化をしている筈だ」
「へぇ~」
「魔術を使う時は使う場所に魔力を出す、それが普通だな。まぁ距離が遠くなるほど操作が難しくなるから、遠距離攻撃系の魔術は使ってから飛ばすのが常識だけどな」
「……なんか奥が深いね」
「そうでもないぞ。覚えれば簡単だ。それ以外にも属性魔術は詠唱が必要だとか、それをなしに発動させるのが詠唱省略だとか、はたまたそれすら使わない無詠唱だとか、高等技術は沢山あるが、一つ一つ覚えていけば良い」
「……うん。わかった」

 リオナの視界の端では、テントを張り終わったマリアが夕食の準備をしている様子が目に入った。

「……あれは応用技だな。別に覚えなくて良い。それにあれだけの属性を使えるのはマリアぐらいだ」

 マリアは今日も料理に魔術をフル活用していた。
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