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閑話

思い出話(3)

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 私が近づくと怯えたように後退ろうとした。まぁ足を怪我しているから無理だったけどね。

「怪我を診るから動かないでね」

 できるだけ優しそうに声をかけた。それが良かったのか、周りのユニコーンたちが警戒していなかったからなのかわからないけど、若干緊張が和らいだのがわかった。

「『《診察メディカルイグザミネーション》』」

 傷口に手をかざして唱えれば、怪我の詳しい状態が頭に入ってきた。
 骨にひび、傷が化膿。思ったより状態は悪かった。

「エリザ!手伝って!」

 正直に私の腕じゃかなり時間がかかる。エリザに治療を手伝ってもらうしかなかった。

「私は骨を先に治すから、エリザは傷の消毒をお願い」
「わかったわ」

 私は傷を癒すのに比べ、消毒系統が大の苦手だった。普通は逆みたいだけどね。エリザもこれには不思議がっていた。

「消毒するわ。少し痛いかもしれないけど我慢してね」

 エリザが声をかけるのを聞きながらも、私は自分の仕事を進める。

「『光よ、彼の者の傷を癒やせ、《ヒール》』」

 この時気をつけなければいけないのは、治すのは骨だけにすること。間違って傷口まで塞いでしまっても意味がない。やり直しだ。

 5分ほどでひびは治った。

「エリザ、どう?」
「もう終わるわ。……これで雑菌は全て殺せたはずよ」
「わかった。ありがとう。『光よ、彼の者の傷を癒せ、《ヒール》』」

 骨を治すことに比べればとても楽だ。みるみるうちに傷は塞がった。

「一応念のため、『《診察メディカルイグザミネーション》』……うん、大丈夫だね」

 一応確認したけど問題はなかった。
 立つように促すと、ユニコーンは恐る恐る立ち上がった。

「ブルル!ブル《痛くない!ありがとう、お姉ちゃんたち》」
「ウフフ、どういたしまして」

 体の大きさから予想はしていたけれど、実際に話してみると想像以上に幼い子どもだったみたい。

「ブルル、ブル、ブルルル《我が一族の者を治療してくださったこと、深く感謝する。例と言ってはなんだが、お主たちを我らの友と認め召喚契約を結ぼう。いつでも好きな時に呼び出すが良い》」

◇◆◇

「その後はユニコーンたちと契約して今に至るってところかな?まぁこの話には続きがあるんだけどね……」
「えっ!?どんな!?」

 リオナは目を輝かせた。

「……ちょっとその子どものユニコーンに想像以上に懐かれて名前をつけることになっただけだよ」
「……ちょっとで済ます話じゃないよ。……それでどんな名前?」

 リオナは少し遠い目をしたが、それでも好奇心は抑えきれなかった。

「真っ白な体と、足がとても速いから《雪風》って名前をつけたんだ」

 そう言ってマリアは微笑んだ。
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