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第八章 ベルジュラック公爵家
幼き日の記憶
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その書類を拾い上げた時、目に入ってきたのは1つの名前だった。
『元Aランク冒険者『神速』のアラン』
私にとってその名前は大きな意味を持つ。だってアランとは──
私のお父さんの名前だから。
──マリア
耳に甦るのは自分の名を呼ぶ優しい声。それと頭に残る大きな温かい手の感触。
──なんで?どうしてよ!?
お母さんが泣き叫びながら崩れ落ちる姿と無表情な兵士のおじさんの顔。
──ねえ聞いた?あの人の話
──ええ、まだ小さい子どももいるのに
ひそひそと言葉を交わしながらかわいそうなものを見る目で私を見る近所のおばさんたち。
それが私がアランという名前で思い出せるすべて。あの日、お父さんが亡くなったという知らせを聞いた日を境に私はお父さんに関する記憶の大部分を失った。だからそれしか思い出せない。
人は本当に悲しいことがあった時、そのことに関することを忘れてしまうっていうけど、それは本当のことだと思う。それに忘れることで癒える心の傷も確かにあると思うから別に忘れることが悪いとも思わない。
でも私はいつかはちゃんとお父さんのことを思い出したい。そうずっと願っている。だって楽しかった思い出もちゃんとあるはずだもの。
別に思い出せないことが悲しいと思っているわけではない。だって記憶にはなくっても心は、体はちゃんと覚えているって、そう信じているから。
でも皆がお父さんについて話している時少し寂しかったのは本当。『マリアちゃんのお父さんは?』って言われた時、何も答えられなかったのが辛かったのも本当。だけど本当に辛い時、悩んでいる時、唯一記憶に残っているあの呼び声と同じ声で励まされている、そう感じる瞬間がある。……私の気のせいかもしれないけどね。それに思い出せないのはお父さんに失礼だと、そう思うから。
別にお父さんが戦死したことは何とも思っていなかった。薄情だと、そう思われるかもしれないけど、簡単に人が死ぬ場所。戦場とはそういうものだと理解しているから。でもね、あの公爵に関する証拠書類の中にお父さんの名前があるとは思わなかったんだ。だってここに名前が載っているってことは本当はお父さんは死ななくっても良かったのかもしれないってことだもの。
だからこそ思う。なんで?どうして?って。あの時のお母さんの今ならなんとなくだけどわかる気がする。
今思えば私がお父さんについて訊こうとするといつも悲しそうな顔をしていたっけ。あれはこのことを薄々知っていたのかな?
もしこれがあの公爵の故意によるものなら私は一生……ううん、当分の間許すことはできない。そんな気がする。
『元Aランク冒険者『神速』のアラン』
私にとってその名前は大きな意味を持つ。だってアランとは──
私のお父さんの名前だから。
──マリア
耳に甦るのは自分の名を呼ぶ優しい声。それと頭に残る大きな温かい手の感触。
──なんで?どうしてよ!?
お母さんが泣き叫びながら崩れ落ちる姿と無表情な兵士のおじさんの顔。
──ねえ聞いた?あの人の話
──ええ、まだ小さい子どももいるのに
ひそひそと言葉を交わしながらかわいそうなものを見る目で私を見る近所のおばさんたち。
それが私がアランという名前で思い出せるすべて。あの日、お父さんが亡くなったという知らせを聞いた日を境に私はお父さんに関する記憶の大部分を失った。だからそれしか思い出せない。
人は本当に悲しいことがあった時、そのことに関することを忘れてしまうっていうけど、それは本当のことだと思う。それに忘れることで癒える心の傷も確かにあると思うから別に忘れることが悪いとも思わない。
でも私はいつかはちゃんとお父さんのことを思い出したい。そうずっと願っている。だって楽しかった思い出もちゃんとあるはずだもの。
別に思い出せないことが悲しいと思っているわけではない。だって記憶にはなくっても心は、体はちゃんと覚えているって、そう信じているから。
でも皆がお父さんについて話している時少し寂しかったのは本当。『マリアちゃんのお父さんは?』って言われた時、何も答えられなかったのが辛かったのも本当。だけど本当に辛い時、悩んでいる時、唯一記憶に残っているあの呼び声と同じ声で励まされている、そう感じる瞬間がある。……私の気のせいかもしれないけどね。それに思い出せないのはお父さんに失礼だと、そう思うから。
別にお父さんが戦死したことは何とも思っていなかった。薄情だと、そう思われるかもしれないけど、簡単に人が死ぬ場所。戦場とはそういうものだと理解しているから。でもね、あの公爵に関する証拠書類の中にお父さんの名前があるとは思わなかったんだ。だってここに名前が載っているってことは本当はお父さんは死ななくっても良かったのかもしれないってことだもの。
だからこそ思う。なんで?どうして?って。あの時のお母さんの今ならなんとなくだけどわかる気がする。
今思えば私がお父さんについて訊こうとするといつも悲しそうな顔をしていたっけ。あれはこのことを薄々知っていたのかな?
もしこれがあの公爵の故意によるものなら私は一生……ううん、当分の間許すことはできない。そんな気がする。
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