こうして少女は最強となった

松本鈴歌

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第八章 ベルジュラック公爵家

断罪(3)

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「……」

 黙ったまま動かないマクシミリアンを尻目に、国王は宰相に目で合図を出した。宰相も何も言わずに同じく彫像のように固まっていた元使用人たちのもとに歩み寄ると、優しい声でマクシミリアンに首元を見せてやるように言った。

「……マクシミリアン・ベルジュラック、これでもまだ事実を認めぬか?」

 マクシミリアンは彼女たちの首で輝く首輪を憎々し気に睨み付け、そして口を開いた。

「何をしている!?早く私を助けぬか!?」

 その言葉にその場にいた者全員が固まった。次いで訪れたのは奇妙な緊張感に満ちた空気と、呆れに満ちたマクシミリアンに注がれる憐憫の視線だった。

「……はっ?」

 そんな声を漏らしたのは誰だかはわからない。だがそれは簡潔に皆の思いを表していた。

「な、何をしている!?」

 誰もマクシミリアンを助けに動く者はいなかった。

「……この私が何の対策もせずに彼女たちをこの場に連れてこさせたと思っているのか?」

 元使用人たちの内の何人かは必死に何かに抗うかのように歯を喰いしばって体を震わせていた。そしてさり気なくその他の者たちがいざとなれば取り押さえられるように傍によっていた。それはよく見なければわからない程の細やかな違いだった。だがそのようなことにまでマクシミリアンは気づけなかった。

「……マクシミリアン、それでは事実と認めるのだな?」

 確認の形は取ってはいるが、その口調はもはや断定する時のものだった。

「……くそっ!?」

 次の瞬間マクシミリアンは弾かれたように身を翻し走り出した。あまりに急で予想外なことだったためか騎士たちも咄嗟には動けなかった。

「逃げる気かっ!《拘束バインド》!」
「逃がすかっ!?《空気槌エア・ハンマー》!」

 だが少し離れていた貴族たちは別で、マクシミリアンに向かっていくつもの魔術が殺到した。

「ぬおっ!?」

 マクシミリアンはその太った体でよくそんな俊敏な動きができると、周囲が思わず感心しそうになるほどの敏捷さを見せ、必死にそれらを躱し、醜く転びながらも一点に向かって走る。。だがすぐに騎士に取り押さえられるだろうと、皆高をくくっていた。しかし騎士たちの手がマクシミリアンに届く直前、その場から姿が消え──。

「がはっ」
「アルっ!?」
「……動くな。動けばこの小娘の首をへし折るぞ!」

 後ろから抱き締めるようにマリアの体を左腕で拘束し、右手で首に手をかけていた。ご丁寧に隣にいたアルフォードは蹴り飛ばすおまけつきだ。アルフォードは腹を押さえ、立ち上がることもできない。

「……なっ!?」

 まさか幼さの抜けきらない少女に万が一にでも当てるわけにもいかず、魔術を放つ手が止まる。かと言ってある程度距離が空いてしまったこの状況では物理的に捕らえるよりもマリアに危害が加わることの方が早い。

(((((((((……どうすれば)))))))))

 全員の思考が見事に一致した。

(皆が動けないの、私の所為だよね。どうにかして逃げないとまたあの時みたいに……あの時?前にもこんなことあったっけ?……ダメだ。頭が働かない)

 マリアは必死に頭を働かせたが、断続的に頭痛が襲ってきて思考に集中できなかった。

(……《身体強化》して腕を外すのは……首を絞められる方が早いか。他の魔術は……上手く集中できないから止めておいた方が良いし……ああ、もう!汗臭いんだけど!)


 いくら考えてもこの状況を打破できる手段が思い浮かばなかった。

「……お前の所為だ。お前があのようなことを言うからだ!」

 そう叫びながら後ろに後ずさり、ドアに近づきつつマクシミリアンはマリアの首を絞めあげていた。

(あう、苦しい……)

 まったく息ができないというほどではないが、だんだんと力が強くなることにマリアは恐怖を覚えた。無我夢中で拘束を外そうとするがそう簡単にはいかなかった。
 そうしている間にも徐々に意識は遠のき、マリアが最後に見たのは青ざめた顔の貴族と騎士の面々と宰相の無表情な顔、そして僅かに口の端が弧を描いた国王と倒れたままのアルフォードの姿だった。
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