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第九章 夏季休業

襲撃

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 そのまま4人が肩を震わせながら10分ほど進んだところのことだった。

ヒュッ

 風切り音とともにどこからか矢が飛来する。

「ちっ」

 舌打ちをしながらすぐにギルガルドが抜いた剣で払い落とす。
 瞬時に思考から先ほどのことは消し去り、戦闘モードに移行する面々。

「上か」

 矢の角度から射手の位置に当たりをつける。

ヒュッ
ヒュッ

 フェルトが弓を構える前に、僅かな時間差をつけて前方と後方、両方からほぼ平行になるように矢が飛ぶ。射線上にいるのはギルガルド。他の者には当たらないが、狙いが胴体と避けるのは困難な上、他の者では助けに入るには間に合わない、そんな嫌らしい位置だ。どうやら先ほどの動きに脅威を感じたようだった。

「『《ファイアボール》』」

 対処しきれないと判断したマリアが、後方からの矢に火の球を放つ。

「わりぃ。助かった」

 ギルガルドは冷や汗をかきながら口頭だけでマリアに礼を言う。
 それを皮切りに四方からいくつもの矢が飛来する。

「いえ。それよりも飛び道具は厄介です。サッサとどうにかしないと」
「……今ので大体の位置はわかったが、こう視界が遮られると当てるのは難しいぞ。かなり遠距離から打っているようだし、闇雲に打っても矢を無駄にするだけだしな」

 そう口にするフェルトの表情は曇っていた。

「……植物や森の動物には悪いですけど、この辺り一帯を焼き払います」

 飛んでくる矢を焼き払いながら神妙な顔でそう宣言する。

「……それは大丈夫なのか?」
「何がです?魔力消費量的には大したことはないです。消火をちゃんとすれば大惨事にはならないでしょうし問題は……私1人だと燃え広がるまで時間がかかることですね」
「いや、それは作戦としては致命的だからな?」

 フェルトは若干力が抜けたようだ。

「大丈夫です。それは私1人の話ですから。おじいちゃん、属性は?」
「……儂は光と水だな。力にはなれそうにない。すまないな」
「ううん。危なそうだったら消化してくれるだけで助かります」
「いや、だからどっち道無理じゃねぇか!?」
「……大丈夫です。おじいちゃんは一応訊いただけです。初めから期待していませんから」

 そうレリオンを切り捨てる。

「……酷い」
「水を持ってただけで期待以上ですよ」

 フォローになっているのかなっていないのかよくわからないことを口にする。

「アル!範囲系で近くの木に火を付けて、風でその補助!」
「了解!左側を頼む!」
「わかった!」

 謎の指示に頭が追いつかない他の4人。

「「『《ファイアウェーブ》』」」
「「「「はぁ?」」」」

 瞬く間にまだ瑞々しい木々が火に包まれる。

「「『《ウィンド》』」」

 火に風を送り込み、燃える手伝いをする。

「……からの『《ウォーターフォール》』」

 自分たちの周囲に水を撒き、水浸しにする。だが、瞬く間に周囲の気温で蒸発していく。

「おじいちゃん、維持をお願い」
「任せろ」

 自分たちの周囲のことはレリオンに頼み、自分は炎の方に集中する。
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