こうして少女は最強となった

松本鈴歌

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第九章 夏季休業

冒険者たちにとっての夢

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「……野営をする時、火を熾すことすら大変だろう?そんな時、火属性を持つ者が仲間にいるだけで勝手がだいぶ違う。それどころか戦闘においても戦略の幅が広がって死亡する者は減るであろうな」

 それは冒険者にとっては夢のような話だった。
 冒険者であれば誰でも仲間に魔術師がいたらと考えたことがあるぐらいには、戦闘においても野営においても苦労している。
 戦闘では遠距離攻撃をする術は弓ぐらいしかなく、素早い敵にはなかなか当たらない。マリアたちは使ったことはおろか、買ったこともないが、傷の治療に使うポーションの類は高く、傷の治療が可能な光属性の使い手は例え基礎魔術しか使えない者でもパーティー間で取り合いが発生するほどだ。
 野営では火を熾すことが何よりも困難とされている。道具を使えば比較的簡単だが、多くの冒険者たちが持っているアイテムポーチの容量はそれほどではない。そのためか荷物は極力減らす傾向にあり、火付けの道具を持ち歩いている者は少ない。

「……それはまた随分と……って、そうじゃなくて、俺が言いてぇのは俺らにマリアちゃんが魔術を教えっちまって、何かマリアちゃんたちの不利益になるんじゃないかってことだ」

 その言葉にキョトンとした後、マリアはすぐに笑い出した。

「アハハ、そんなことですか。おじいちゃんも言ったじゃないですか。早いか遅いかの違いがあるだけで、大して変わりませんよ」
「そうか。なら良いんだ。俺らもその提案は魅力的だしな。俺の方からも頼む」
「わかりました。フェルトさんとダスケルさんたちもですか?」
「あ、ああ」
「頼む」

 にこやかに笑って了承したところでフェルトが今更な質問を口にする。

「……そういやぁ、アルは習わなくって良いのか?」

 その言葉にレリオンは思わず口を押さえたが、すぐに声が漏れる。

「ホホホ」

 理由もわからず大笑いされてフェルトは渋った顔をする。

「レリーさん、どうした」

 尋ねても笑いは止まらない。唖然としたまま一同はそのままその場にレリオンが笑い終わるまで待つ羽目となった。

「これだけ笑ったのは随分と久しぶりだ。……それにしてもアル坊にそれを訊くなんての」
「どういうこった?」
「よく考えて見れば答えは容易に見つかるはずだ」

 そんなことを言われても、なかなか答えは出ないようだった。

「……ダメだ。アル坊って呼び名が頭の中を回っちまう」
「俺もだ」

 どこからどう見ても坊と呼ばれる歳ではないアルフォードにフェルト、ダスケル、ギルガルド、サウリの4人は笑いを堪えるのに必死で、考える余裕など存在しなかった。
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