こうして少女は最強となった

松本鈴歌

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第九章 夏季休業

ベルの奮闘

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 檻を出て同じ要領でドアの鍵も開けると細くドアを開けようとする。

(内開きでよかった)

 その偶然に感謝しながら、伸ばした蔓をドアノブに巻き付けると元に戻すことでなんとかドアを開けることに成功する。
 素早く外に誰もいないことを確認すると、廊下を駆け出した。連れてこられた道順は覚えていた。

(足音ダメ絶対)

 極力足音を殺して。

「……って…のを………んだ」
「それは……だ…」
「っ!?」

 だが行く手の曲がり角の先から話し声が近づいてくることにベルは慌てる。
 
(隠れる場所は……上!)

 天井の梁が剥き出しになっているのを目敏く見つけ、梁に自身の蔓を巻き付ける。ベルが梁の上に飛び乗るのと男2人組がやってくるのはほとんど一緒だった。

(ふぅ)

 ばれた様子がないことにホッと息を吐くベル。そのまま通り過ぎるのを静かに待つ。

「で、あいつがなんて……んっ?」
「どうかしました?先輩」

 ベルの丁度真下で男たちが立ち止まったことに心臓がバクバクと音を立てる。

「……気のせいか。いや、なんか人の気配がしたような気がしてな」
「えっ?気のせいじゃないですか?」
「だよなぁ」

 不思議そうに首を傾げあう。

(いいから早く行って!)

 人の手では掃除が困難な梁の上には埃が積もっており、少しでも動けば下に落ちそうだった。
 ベルの祈りが通じたのか、そのまま2人は立ち去ってくれた。

(……もう大丈夫かな)

 そして梁から飛び降り、難なく着地を成功させるとまた走り始めた。

(あった。階段)

 そしてある意味ベルには難所ともいえる階段が姿を現す。なにせ姿を隠す場所がない上に、一段がベルの身長とほとんど変わらない。おまけにやけに長く、途中で何回も折り返しており、先は見えない。

(……人の気配は……大丈夫。ない)

 周囲の気配を確認し、ベルは眼前の試練に立ち向かう。

(階段如きが障害になると思うなよ)

 一段一段腕に力を入れて体を引っ張り上げていく。着ている服はすでに汚れてしまっているが気にしない。

(後一段……)

 そして残すとこ後一段となった時のことだった。

カツーン カツーン

 足音が階下から近づいてくる。

(しまった!?)

 逸る鼓動を必死に落ち着かせながら、できる限り迅速に最後の一段を上る。そして目に入った彫像の影に隠れる。

「……まったく、どこに行きやがった!?」
「せ、先輩。落ち着いてください」

 やって来たのは先ほどもニアミスをした2人。

「落ち着いてられっかよ。何が弱いペットの魔物だ!金属を捩じ切れるだけの力はあるじゃねぇかよ!」

 どうやら2人はベルの見張り役だったらしい。

「職務怠慢もいいところじゃねぇか!なにがほっといても大丈夫だ、だよ!逃げられて怒られるのはこっちなんだぞ!」
「お、落ち着いてくださいってば!」

 見つけたら徹底的に痛めつけてやると言いながら苛立たし気にベルが隠れている彫像の前を通り過ぎていった。

(こ、怖い)

 ベルは2人の姿が見えなくなってもしばらくそこで震えていた。
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