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第九章 夏季休業

リーゼロッタ姫の真なる目的

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「うふふ、やりましたわ。ついに城の外に正々堂々と出られましたわ」

 城を出て少しすると、リーゼロッタは口元を押さえて笑いだした。
 一国の王女のはずなのだがなぜだか徒歩で移動している。

「……姫様、笑い方が不気味でございます」
「エレンナ、水を刺さないでもらえるかしら?」

 リーゼロッタは顔顰めるとエレンナを睨む。

「……姫様はもう少し自分の見た目を自覚してくださいませ」

 エレンナは呆れたように溜息を吐いた。

「……私が幼く見えることなど、とうの昔から知っております」

 そう言ってリーゼロッタは悲しげに目を伏せた。

「それでは姫様。今の姫様の外見と同じくらいの歳の子どもが突然笑いだしたらどう思われますか?」
「それは……少し不気味ですわね」

 リーゼロッタの返答にエレンナは満足気に頷いた。

「その通りです。そしてそれがまさに今の姫様です」
「……そんなことは……あり……ますわね」
「わかっていただけたようで何よりです。それでは周りを見回してみてくださいませ」
「周り?」

 周囲をよく見たリーゼロッタはそこでようやく遠巻きに見られていることに気がついた。
 そして慌てて自分の服を見る。
 城にいたときと変わらぬ豪奢なワンピースドレス。王都の、それも城からは目と鼻の先とはいえど天下の往来では明らかに浮いている。

「……エレンナ、すぐに宿を取ってくれるかしら?流石にこの服装は悪目立ちしますわ。着替えます」
「わかりました」

 人にジロジロと見られながら移動すること10分ほど、2人は無事に1軒の宿屋にたどり着いていた。
 普通ならいかにも金を持っていますと言わんばかりに身なりの整った子どもなど格好のカモでしかない。攫われなかったことが奇跡とも言えるのだが、2人はそのことに気づかない。
 もっとも、その裏にはリンリーに護衛を命じられた諜報部の人間たちの働きと頑張りがあるのだが。

「とりあえず部屋は1週間で取りました」
「ありがとう。……目立たない服に着替えたらさっそく出かけますわよ。私の10数年の悲願が達成される日がようやく来たのですもの!」
「それは良うございました」

 テンションが高めなリーゼロッタとは対象的にエレンナは平静を保っている。

「……エレンナはどうしてそんなに落ち着いていますの?ようやく機会が巡ってきたのですのよ?この、我が愛しきアラニウス叔父上様をお探しする絶好の機会が!」

 エレンナはまた始まったとばかりに溜息を吐いた。

「姫様、落ち着いてくさいませ」
「これで落ち着いてなどいられませんわ!」
「……そもそも姫様はどうやって王弟殿下をお探しになられるおつもりですか?王都内だけでも人1人を探されることがどれだけ困難なことかはわかっておいでですよね?」

 エレンナは冷静に正論でリーゼロッタを諭す。自分たちだけでは無理だと。それ以前に国が総力を上げて探しているのだ。エレンナには王弟がこんな近場とも言える隣国の王都にいるとは到底思えなかった。

「……」
「そもそもこの国におられるという根拠も姫様の勘だけではございませんか」
「……私の勘が叔父上様がこの国いると告げているのですもの。少なくとも手がかりはあるはずですわ」

 それでもなおリーゼロッタは探すのだと強情に言い張り続けた。
 その様子にもう何を言っても無駄だと、エレンナは再度溜息を吐いた。
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