こうして少女は最強となった

松本鈴歌

文字の大きさ
422 / 464
第九章 夏季休業

料理(2)

しおりを挟む
 エーアリアスを気遣いながらも手は止めず、マリアは5分とかからずに野菜を切り終わった。

「リア、切れたよ」
「……じゃあ冷蔵庫の中の挽肉出しておいて。それからクミンを一振りして野菜を炒めるの。ある程度火が通ったらお肉も入れていいの」
「冷蔵庫? クミンって?」
「冷蔵庫も知らないの」

 エーアリアスは虚を突かれたように固まると、勝ち誇ったように笑った。

「だって、私の身近にはなかったんだもん。知らなくて当然じゃない。笑わなくても良いでしょ、もう」

 少し期限が悪くなったマリアは頬を膨らませた。

「ごめんなさいなの。でも知らないことが意外だったの。冷蔵庫は大きなその箱、クミンはそこの戸棚の中なの。ラベルが貼ってあるからわかるはずなの」
「もう……」

 マリアはまだ言いたいことがあったが、お腹が空腹を訴えていたために、それ以上は口にせず、料理に戻る。

「油は?」
「コンロの下の戸棚に入ってるの」

 エルドラント王国とは比べものにならない性能のコンロに感心しながら、手馴れた動作で大鍋で炒めていく。

「次は?」
「タミタを軽く手で潰しながら入れるの。味付けは私がやるから、しばらく焦げないように混ぜとくの」

 マリアが木べらでゆっくりとかき混ぜながらエーアリアスの方を窺うと、エーアリアスはせっせと何かの生地を伸していた。

「それは?」
「できてからのお楽しみなの」

 エーアリアスは悪戯っぽく笑う。

「それじゃあそもそも、私はいったい何を作ってるの?」
「それも後のお楽しみなの」

 エーアリアスは生地を全て伸し終えると、小皿とスプーン、それに大量の小瓶を手にマリアの方にやって来た。

「ん~、もうちょっと辛くてもいいの」

 味見をしながら小瓶の中身を無造作に鍋の中に振り入れるのを、マリアはハラハラと見ていた。

「よし、こんなものなの。水気がなくなるまでそのまま煮詰めて欲しいの」

 エーアリアスは納得したのか大きく頷くと、今火が着いているのとは別のコンロに円形の鉄板を置いた。

「面白いものを見せてあげるの」

 鉄板で生地を焼きながら、エーアリアスは不敵に笑う。

「えっ?」

 エーアリアスは両面を焼き終えると、何も置いていないコンロにも火を着け、それを直火で焼こうとする。

「何やってるの!?」

 エーアリアスを慌てて止めようとするが、それが火に炙られる方が先だった。

「えっ?」

 あっという間に生地が膨れていくのを呆然と見る。

「ねっ? 見てて面白いの」

 数秒ほどでトングで火から下ろすと、そう言ってエーアリアスは笑った。

「私はリアが何やってるんだとしか思ってなかったよ」

 気でも狂ったのかと思ったと、マリアは苦笑いを浮かべる。

「それは悪かったの。……あっ、できあがったら人数分のお皿を適当に出してよそっておいて欲しいの」
「わかった。もうできるし、もう皆呼んじゃうね」
「えっ?」

 エーアリアスは首を傾げるが、マリアはそっと呪文を唱える。

「『風よ、我の声を届けよ、《伝達》』」
しおりを挟む
感想 131

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~

Ss侍
ファンタジー
 "私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。  動けない、何もできない、そもそも身体がない。  自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。 ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。  それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

処理中です...