こうして少女は最強となった

松本鈴歌

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第九章 夏季休業

謁見(3)

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「エーアリアス、そなたは退出しないで良いのか?」
「私の、に関わることですから。どこに退出しなければならない理由があります?」
「……そなたが良いのなら良い」

 残ったのは国王とマリア、エーアリアスの他にはアルフォードと騎士が2名だけだった。

「さて、本題に入る前に少し昔話をしよう」

 10数年前の真実に関わる話を、と国王は口にした。

「10数年前……叔父様失踪事件ですか?」
「さよう」

 国王は短く肯定すると話し始めた。

~*~

 あれはアラニウスが姿を消す数日前のことであった。その日の夜、あやつは思いつめた表情で私のもとに酒瓶片手にやってきた。

「どうしたのだ?」

 あやつは無言で酒を差し出してきた。
 無言で2人で酒を酌み交わし、酒が最初の半分ほどになったときであった。あやつがポツリと呟いたのは。

「……近々、国を出ようと思っている」
「それはまた……なぜだ? リーゼロッタのことか?」

 当時、あやつは執拗なほどにリーゼロッタに昼夜関係なく追いかけまわされていた。

「直接な理由は違う。リーゼのことはただのきっかけに過ぎない」
「ではなぜ?」

 私にはそれ以外の理由が思いつかなかった。

「⋯⋯城での暮らしは確かに快適だ。だがな、俺には退屈なんだよ」
「退屈?」

 私にはその言葉がひどく意外であった。毎日が退屈だと思う暇がないほど忙しく、充実した日々を送っていたのだから。

「⋯⋯兄上にはそう思えないんだろうけどな。外で自分だけの力を試したくなったんだ」

 あやつはそう言って笑った。

「リーゼロッタはどうする? そなたが姿を消せば騒ぎ立てるであろう?」
「ん~、そうだな。じゃあ、俺がいなくなったら国内の捜索でも何でも、リーゼがそれで納得するならさせてくれ」
「良い……のか?」
「ああ。あっ、でも流石に何年かしたら命令は取消してくれ。国家予算を使わせ続けるのは心苦しいからな」

 あやつが姿を消したとき、誘拐だ、なんだと騒いでいる者がおったが、私はそれが真実ではないことは知っておった。だがあえてそれを否定することもしなかった。

 それから5年が経った頃であった。あやつは目の色以外自分には似ても似つかない可愛らしい幼女を伴って、再び私のもとを訪れた。

「久しぶりだな!」

 あの時の驚きは他の者にはわからぬであろうよ。

「何が……何が久しぶりだ!? この戯け者が! 急に現れる所為で驚いたではないか」
「悪い悪い。でも俺も文句を言いたい。なんで捜索が打ち切られてないんだ? あとちょっとで捕まるところだったぞ!?」
「あっ……」

 あやつは一方的に言いたいことだけ言って、また来ると言って帰ってしまった。捜索を打ち切ったのはその直後のことだ。
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