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第九章 夏季休業
謁見(5)
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「国王様、ありがとうございます」
マリアは再びそっと蓋をすると丁寧に礼を言った。
「……そなたを表に出さぬことは、あやつとの約束だからな。礼には及ばぬよ」
国王はそう言うと、どこからか取り出した革張りの分厚い本を差し出した。
「これは?」
見た目以上にずっしりとした重さの本に、マリアは首を傾げた。
「先ほど渡したそれの説明書きだ。何分詳しく説明する時間がないのでな。本にしてまとめておいた。後で読むが良い」
「……随分と分厚いですけど、これ、何ページあります?」
「覚えておらぬが、確か作成するのに半年以上かかったように記憶している」
「……そう、ですか」
マリアは全部読むのにいったい何日かかるだろうと、遠い目になった。失くさないうちにと、とりあえずアイテムボックスに仕舞い込む。
「それで、1つ訊いておきたいのだが」
国王はその光景に軽く目を瞬かせると、思い出したかのようにそう口にした。
「なんですか?」
「あやつからはそなたの母について、一切を聞いていないのだ。どのような者なのだ?」
「えっ?」
今さら母親について訊かれるとは思わなかったマリアは一瞬言葉を詰まらせる。
「……どのような者と言われても説明は難しいです。もうしばらく会っていませんし」
「……母親と暮らしているわけではないのか」
「はい。今頃どこで何をしていることか……」
奴隷となっていることはあえて口にしない。
「そうか。1度ぐらいは会って話をしてみたいと思っていたのだが、何もわからぬか」
国王は小さく溜息を吐いた。
「せめて……そなたの知っていることだけでも、母親について教えてもらえぬか?」
「……小さい時のことはあまり覚えていませんが、それでも良いのなら」
マリアの言葉にアルフォードの目が大きく見開かれた。そして良いのかと言うように、マリアに気遣う目を向ける。
「アル、大丈夫だよ。過去は過去でしかないんだから」
柔らかく微笑むと、マリアは自分の知っている母親に、エレナについて話し始めた。人並みに優しかった幼い頃のこと、父親が亡くなってから自分が家事をさせられるようになったこと、そして邪魔だと言われ、家を追い出されたことまで全てを。
「だからあまり思い出したくないんですよね」
苦い記憶の方が遥かに多いからと、話し終えた後にマリアはそう言って苦笑した。
「……そうか。それは知らぬとはいえ、悪いことをしたな」
「いえ、気にしてませんから」
マリアが静かに首を横に振ると、国王は安心したように肩から力が抜けた。
「それに……お母さんについては覚えていても、お父さんについてはまったくと言っていいほど覚えていなくて……そっちの方が寂しく感じますから」
「覚えていない?」
「はい。人伝に聞いた話とかは覚えているんですけど」
国王は少し考えるように黙りこんだ。
「……たとえそれが辛い記憶であったとしても、そなたは思い出したいか?」
「はい」
マリアの答えに、迷いはなかった。
マリアは再びそっと蓋をすると丁寧に礼を言った。
「……そなたを表に出さぬことは、あやつとの約束だからな。礼には及ばぬよ」
国王はそう言うと、どこからか取り出した革張りの分厚い本を差し出した。
「これは?」
見た目以上にずっしりとした重さの本に、マリアは首を傾げた。
「先ほど渡したそれの説明書きだ。何分詳しく説明する時間がないのでな。本にしてまとめておいた。後で読むが良い」
「……随分と分厚いですけど、これ、何ページあります?」
「覚えておらぬが、確か作成するのに半年以上かかったように記憶している」
「……そう、ですか」
マリアは全部読むのにいったい何日かかるだろうと、遠い目になった。失くさないうちにと、とりあえずアイテムボックスに仕舞い込む。
「それで、1つ訊いておきたいのだが」
国王はその光景に軽く目を瞬かせると、思い出したかのようにそう口にした。
「なんですか?」
「あやつからはそなたの母について、一切を聞いていないのだ。どのような者なのだ?」
「えっ?」
今さら母親について訊かれるとは思わなかったマリアは一瞬言葉を詰まらせる。
「……どのような者と言われても説明は難しいです。もうしばらく会っていませんし」
「……母親と暮らしているわけではないのか」
「はい。今頃どこで何をしていることか……」
奴隷となっていることはあえて口にしない。
「そうか。1度ぐらいは会って話をしてみたいと思っていたのだが、何もわからぬか」
国王は小さく溜息を吐いた。
「せめて……そなたの知っていることだけでも、母親について教えてもらえぬか?」
「……小さい時のことはあまり覚えていませんが、それでも良いのなら」
マリアの言葉にアルフォードの目が大きく見開かれた。そして良いのかと言うように、マリアに気遣う目を向ける。
「アル、大丈夫だよ。過去は過去でしかないんだから」
柔らかく微笑むと、マリアは自分の知っている母親に、エレナについて話し始めた。人並みに優しかった幼い頃のこと、父親が亡くなってから自分が家事をさせられるようになったこと、そして邪魔だと言われ、家を追い出されたことまで全てを。
「だからあまり思い出したくないんですよね」
苦い記憶の方が遥かに多いからと、話し終えた後にマリアはそう言って苦笑した。
「……そうか。それは知らぬとはいえ、悪いことをしたな」
「いえ、気にしてませんから」
マリアが静かに首を横に振ると、国王は安心したように肩から力が抜けた。
「それに……お母さんについては覚えていても、お父さんについてはまったくと言っていいほど覚えていなくて……そっちの方が寂しく感じますから」
「覚えていない?」
「はい。人伝に聞いた話とかは覚えているんですけど」
国王は少し考えるように黙りこんだ。
「……たとえそれが辛い記憶であったとしても、そなたは思い出したいか?」
「はい」
マリアの答えに、迷いはなかった。
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