こうして少女は最強となった

松本鈴歌

文字の大きさ
434 / 464
第九章 夏季休業

謁見(5)

しおりを挟む
「国王様、ありがとうございます」

 マリアは再びそっと蓋をすると丁寧に礼を言った。

「……そなたを表に出さぬことは、あやつとの約束だからな。礼には及ばぬよ」

 国王はそう言うと、どこからか取り出した革張りの分厚い本を差し出した。

「これは?」

 見た目以上にずっしりとした重さの本に、マリアは首を傾げた。

「先ほど渡したそれの説明書きだ。何分詳しく説明する時間がないのでな。本にしてまとめておいた。後で読むが良い」
「……随分と分厚いですけど、これ、何ページあります?」
「覚えておらぬが、確か作成するのに半年以上かかったように記憶している」
「……そう、ですか」

 マリアは全部読むのにいったい何日かかるだろうと、遠い目になった。失くさないうちにと、とりあえずアイテムボックスに仕舞い込む。

「それで、1つ訊いておきたいのだが」

 国王はその光景に軽く目を瞬かせると、思い出したかのようにそう口にした。

「なんですか?」
「あやつからはそなたの母について、一切を聞いていないのだ。どのような者なのだ?」
「えっ?」

 今さら母親について訊かれるとは思わなかったマリアは一瞬言葉を詰まらせる。

「……どのような者と言われても説明は難しいです。もうしばらく会っていませんし」
「……母親と暮らしているわけではないのか」
「はい。今頃どこで何をしていることか……」

 奴隷となっていることはあえて口にしない。

「そうか。1度ぐらいは会って話をしてみたいと思っていたのだが、何もわからぬか」

 国王は小さく溜息を吐いた。

「せめて……そなたの知っていることだけでも、母親について教えてもらえぬか?」
「……小さい時のことはあまり覚えていませんが、それでも良いのなら」

 マリアの言葉にアルフォードの目が大きく見開かれた。そして良いのかと言うように、マリアに気遣う目を向ける。

「アル、大丈夫だよ。過去は過去でしかないんだから」

 柔らかく微笑むと、マリアは自分の知っている母親に、エレナについて話し始めた。人並みに優しかった幼い頃のこと、父親が亡くなってから自分が家事をさせられるようになったこと、そして邪魔だと言われ、家を追い出されたことまで全てを。

「だからあまり思い出したくないんですよね」

 苦い記憶の方が遥かに多いからと、話し終えた後にマリアはそう言って苦笑した。

「……そうか。それは知らぬとはいえ、悪いことをしたな」
「いえ、気にしてませんから」

 マリアが静かに首を横に振ると、国王は安心したように肩から力が抜けた。

「それに……お母さんについては覚えていても、お父さんについてはまったくと言っていいほど覚えていなくて……そっちの方が寂しく感じますから」
「覚えていない?」
「はい。人伝に聞いた話とかは覚えているんですけど」

 国王は少し考えるように黙りこんだ。

「……たとえそれが辛い記憶であったとしても、そなたは思い出したいか?」
「はい」

 マリアの答えに、迷いはなかった。
しおりを挟む
感想 131

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~

Ss侍
ファンタジー
 "私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。  動けない、何もできない、そもそも身体がない。  自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。 ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。  それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

処理中です...