昼は侍女で、夜は姫。

山下真響

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02報告

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「報告は以上です」

 サニーの足元には、緑がかった黒髪の細身の男が一人跪いていた。彼の名はメテオ・ポールスター。サニーにとって表舞台の側近がアレスだとすると、メテオは裏仕事の相棒といったところか。同時に、この二人はサニーの数少ない友人とも言える。

 代々、黒髪に浅黒い肌が受け継がれている王族において、突然変異の如く、輝く銀と金の色を持って生まれ落ちたサニーは、端的に言って不遇の王子であった。身体から滲み出る魔力の基礎波動パターンが王族特有のものであり、保有魔力が同じ王族の中でも類を見ない程の量であったため、確かに王の子であると認められているが、その容姿は常に奇異の目で見られてしまう。王城の式典にすら出席が許されない。貴族連中がうるさいからだ。

「今日は上の空だね。何かあったの?」

 メテオは立ち上がると、ぼんやりしたままの主に問いかけた。砕けた物言いをしても、サニーは怒ることをしない。

「メテオ、知っていたら教えてほしい」
「いいよ」

 まず、サニーは先程の顛末を説明した。

「なるほど。その女性は魔力を使うことなく姿を消したんだね?」

 メテオの言葉に、サニーは頷く。
 通常、魔法を使う場合は、術者から周囲へ魔力が拡散するものだ。それが全く無いというのは、かなりの違和感がある。

「じゃ、考えられるのは二つだね。その女性は誰かに操られていて、術者は別の所にいる。または、彼女自身が、暗殺家業の僕でも知らないような、魔力を発さない高等魔術を行使したか」

 アレスはおもむろに腕を組むと顔をしかめた。

「どちらにせよ、サニーの部屋が狙われたのは厄介だな」

 元々真っ暗な部屋が、さらに暗くなる。それを打ち消すようにメテオは、サニーの肩に手をポンと置いた。

「いや、もう一つの可能性がある」
「何だ?」

 サニーの金色の瞳が光る。

「運命だよ」
「運命?」
「うん。ちょうどこのタイミングで、サニーとその女性は出会うべくして出会ったんだ。もちろん、そういう意味でね。で、どんな子だったの? サニーがそんな顔するってことは、皺だらけのお婆さんってわけじゃないんでしょ?」

 アレスがわざとらしく咳払いするが、サニーは全く気に留めない。若干丸めていた背中をピンと伸ばすと、堂々と言い放った。

「絶世の美女だ。しかも、キプルの実の匂いがした! また会えればいいのだが……」

 アレスに続いてメテオも軽く頭を抱える。彼らとサニーの付き合いは長い。日頃は何に対しても欲を出さないサニーだが、一度コレと決めたらとことんのめり込む性質がある。

「そうか。まだよく分かんないけど、良かったな」

 メテオの声は弱々しい。

 表舞台のサニーは、病弱で部屋に引きこもっている小心者の王子ということになっている。そのため、王位継承権第一位を与えられているにも関わらず、軟弱で無能だと世間では考えられがちだ。サニーの弟、オービットへ王位継承権第一位を譲るようにと声高に叫ばれることも増えてきた。

 けれど実際は、王からの密命により、闇取引の差し押さえ、違法な奴隷商の摘発、王家に仇なす者の暗殺など、精力的に活動している。所謂、汚れ仕事の元締めである。

 それらの全てを知っているアレスとメテオにとって、数少ないサニーの望みは叶えてやりたくなるのが人心というもの。

「念のため、その子の特徴教えてよ。僕の情報網で探してみるから」
「頼む」

 サニーはメテオに向かって軽く頭を下げた。ちなみに、王族は滅多なことで頭を下げないものである。

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