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29冤罪の証明
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「証拠は上がっているんだぞ! まず、先日の夜会。あの派手でけったいな衣装は、異教徒共が身につけている物と同じ形式ではないか。さらに昨日は、街中で貴様が急に姿を消したところを目撃した者がいる。あれは異教徒の力で間違いない!」
ルーナルーナはあまりの馬鹿さ加減に開いた口が塞がらない。こんな場所、早く逃げ出してしまいたくなった。同じ王族でも王妃はこんな高慢な態度もしない。大変麗しいだけでなく、ついていきたいと周囲の者に思わせるだけのカリスマ性と賢さがある。しかしこの王子はどうだ。人を罵倒するだけしか能がない。王妃の実子にも関わらず、あまりに残念な出来である。
「言い逃れがあるならば、申してみよ!」
言い訳なんて絶対にできないと踏んで、勝ち誇った様子のエアロス。ルーナルーナは売られた喧嘩を買うことは少ないのだが、今回ばかりは乗ってみることにした。腹が立ったからではない。サニーの役に立てるとっかかりが掴める可能性があると信じているからだ。
「お言葉ですが、最近あの形式の衣装は市場に多く出回っておりまして、それを行っているのは商人にございます。私のような忌み色をもったしがない平民侍女は商売するだけの信頼が築けませんので、それは不可能です。さらに言えば、これは最近の流行ですから、ミルキーナ様を始め、多くのご婦人がよく似た傾向のお召し物だったかと思います」
まさか言い返されると思っていなかったのか、エアロスは早速黙り込んでしまう。その隙に、ルーナルーナを続きを話した。
「そして、瞬間的に姿を消すのは魔法です。魔力に適性があり、魔力の保有量も多い方であれば、訓練を積めばできるはずです。エアロス殿下も王族ですから、魔力は平民よりもかなり多くお持ちのはず。これぐらいのこと、おできになると思っておりました」
すっとぼけた風を装って話したからか、エアロスの顔は怒りでますます赤くなっていく。
「リング! 筆頭魔道士をここへ呼べ! 瞬間魔法なるものについて確認するのだ!」
ルーナルーナは、ようやく側近の男の名前を知った。リングは今にも射殺さんとばかりの殺気を放ちながら部屋を一時退散する。
ルーナルーナが不貞腐れた王子と侍女二名と共に居心地の悪い空間に取り残されてから十分後。リングは紫のマントを羽織った男を従えて入って来た。髪が白っぽいのは元々ではなく、どうやら老化から来るもののようである。
「はじめまして、侍女殿。瞬間移動を成功させたとは真か?!」
ルーナルーナは男から手を取られると、それをブンブンと縦に振り回されてしまった。おそらく、その男の中では握手に当たるのだろう。ルーナルーナは、彼女を忌避しない態度も含めて、変わった人物だと思った。
「はじめまして、魔道士様。私はルーナルーナと申します」
「良い名だな。私はジーク。私のことは知っているかな?」
ルーナルーナは、ジークに誰かの面影を感じた。それもこの国で最も高貴なる人物の。しかし、先日の夜会の際、一同に介した王族の席にこの人物がいた記憶はない。
答えを告げたのは、リングだった。
「女、不敬だぞ。この方はこの国の筆頭魔道士であらせられると同時に、王兄なのだからな」
(道理で似てると思ったわ! でも、王子の分際で叔父を自室へ急に呼びつけるなんて、それこそ不敬なのじゃないかしら?!)
ルーナルーナは目を白黒させながら、慌てて最敬礼をとる。
「そんなに畏まらないでおくれ。私は自分で言うのはなんだが、世捨て人のような存在だ。魔法が楽しすぎて、王位も弟に押し付けたぐらいだしな。今では甥にもこのように舐められてばかりで、不甲斐ないよ」
「いえ、そんな、あの……十分にご立派であらせられると思います。どうかご自身を卑下なさいませんように」
ジークは、わたわたするルーナルーナを面白そうに見つめる。
「確かに君は王族か、それ以上の魔力の持ち主だね。瞬間移動は、私の師が実現させているのを何度か見たことがあるが、他には無い。どうかね? 一度私に見せてくれないか?」
「はい」
ジークは窓から、城内にある高い塔を指差した。時間を知らせる鐘がある塔である。
「あそこへ瞬間移動して、こちらに向かって手を振ってくれ」
「かしこまりました」
ルーナルーナは閉ざされた窓越しにじっと鐘の塔を眺めた。
(よし、あそこへ行く!)
目を閉じて、目的地のイメージを再びしっかり思い描く。すると頭の中で複雑な魔法陣がいくつも起動し、それらが青白い光を放ちながらパチンと弾けた。
「き……消えた!!」
ルーナルーナが消えて、腰を抜かすエアロス。リングがすかさず駆け寄るが、ジークは眉のあたりで手をかざし、遠くに見える鐘の塔を凝視する。
「……たまげた。彼女は当代の天才だな」
「いえ、あれは黒い娘。信用ならない! あそこにあらかじめ誰かを忍ばせていただけなのかもしれないじゃないか!」
ジークはやれやれとばかりに、わざとらしくため息をつくと、念話を繰り出した。
『では殿下、遠くにいる彼女に念話で何か話しかけてみては?』
『その手があったか! おい、女! もし聞こえているならば、そこの鐘を鳴らしてみろ!』
本当にルーナルーナが塔にいない限りできない所業だ。しかし、問題が一つある。
『殿下、失礼ですが、そんなことをしては皆が時間を勘違いしてしまいます。私が塔にいることをお確かめになりたいのは分かりますが、もう少し人迷惑ではない方法を選んでくださいませんでしょうか?』
『小賢しい女だな! そんなことで、言い逃れできると思っているのか? そこにいないことは分かっているんだぞ!』
『……分かりました。でしたら、ここから魔法で空中を歩きながらそちらに戻ります』
そこへ、念話のメンバーに混じっていたジークが反応する。
『空中散歩!? そんな魔力消費の激しいこともできるのか!』
ルーナルーナはエアロスの返事を待たずに、塔の上から空中の見えない足場に進み出た。ルーナルーナは、そこから王子のいる場所まで細い道が続いているイメージを思い描く。後は、その道を踏み外さないように歩くだけだ。
そうして、ルーナルーナは少しずつ王子の部屋へ近づき、無事に到着したのだった。
「殿下、流石にその態度は大人気ないですぞ。素直に彼女の魔法を讃えるべきです」
「讃えること不要ですが、もう少し落ち着くべきです」
叔父と側近に窘められたエアロスは、決まりが悪そうに俯く。
「それにしても、なぜ彼女はここに来ることになったのかな? 私としては運命の出会いができて万々歳なのだが」
そこで、ようやくエアロスはここに至るまでの出来事を語り始めた。
エアロスが父親であるシャンデル国王に呼び出されたのは、夜会の翌日。十五歳になったからには、そろそろ政務に関わる機会を増やし、経験を積む必要がある。そこで課題として出されたのが、近頃国中で見かけるようになった異教徒の殲滅だ。
異教徒の特徴は二つ。シャンデル王国由来ではない文化の衣装に見を包んでいること。もう一つは、この世には二つの世界が重なって存在し、それを一つにまとめることを悲願としていること。なぜか、異教徒の数は急激に増え、異教徒になることへ憧れを持つ者が国中で確認されている。思想そのものよりも、その考えの広まり方が急激なものであったこと、そして、その勢力がいずれは国を脅かすことになりかねないことが懸念されているのだ。
父親から初めて与えられた大きな任務。エアロスは張り切って、早速手の者を王都中へ放ち、情報収集と共に、怪しい動きの者はいないか探し始めた。そこで、たまたま標的となってしまったのがルーナルーナである。
「私は大きな仕事をしているのだ」
説明をしているうちに元気を取り戻したエアロス。ルーナルーナは、それを冷めた目で眺めていた。同じ王子でも、彼女の想い人との差があまりに激しすぎたからだ。
しかし、ぼやぼやばかりもしていられない。ここからがルーナルーナの正念場である。
「さすがエアロス殿下ですね」
「そうだろう!」
「ですが、私が冤罪だったと証明された今、早速手詰まりになりましたね」
真顔になるエアロス。そこへルーナルーナが追い打ちをかける。
「せっかく王からいただいたチャンスですのに、もったいないですね」
「お前、私が失敗する前提で話しただろ?! 許さん!」
「そんなつもりは毛頭ございません。ただ、私が持っている情報をお渡しするのは、本当にエアロス殿下で良いのか迷ってしまっただけです」
ルーナルーナのターンがやってきた。
ルーナルーナはあまりの馬鹿さ加減に開いた口が塞がらない。こんな場所、早く逃げ出してしまいたくなった。同じ王族でも王妃はこんな高慢な態度もしない。大変麗しいだけでなく、ついていきたいと周囲の者に思わせるだけのカリスマ性と賢さがある。しかしこの王子はどうだ。人を罵倒するだけしか能がない。王妃の実子にも関わらず、あまりに残念な出来である。
「言い逃れがあるならば、申してみよ!」
言い訳なんて絶対にできないと踏んで、勝ち誇った様子のエアロス。ルーナルーナは売られた喧嘩を買うことは少ないのだが、今回ばかりは乗ってみることにした。腹が立ったからではない。サニーの役に立てるとっかかりが掴める可能性があると信じているからだ。
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まさか言い返されると思っていなかったのか、エアロスは早速黙り込んでしまう。その隙に、ルーナルーナを続きを話した。
「そして、瞬間的に姿を消すのは魔法です。魔力に適性があり、魔力の保有量も多い方であれば、訓練を積めばできるはずです。エアロス殿下も王族ですから、魔力は平民よりもかなり多くお持ちのはず。これぐらいのこと、おできになると思っておりました」
すっとぼけた風を装って話したからか、エアロスの顔は怒りでますます赤くなっていく。
「リング! 筆頭魔道士をここへ呼べ! 瞬間魔法なるものについて確認するのだ!」
ルーナルーナは、ようやく側近の男の名前を知った。リングは今にも射殺さんとばかりの殺気を放ちながら部屋を一時退散する。
ルーナルーナが不貞腐れた王子と侍女二名と共に居心地の悪い空間に取り残されてから十分後。リングは紫のマントを羽織った男を従えて入って来た。髪が白っぽいのは元々ではなく、どうやら老化から来るもののようである。
「はじめまして、侍女殿。瞬間移動を成功させたとは真か?!」
ルーナルーナは男から手を取られると、それをブンブンと縦に振り回されてしまった。おそらく、その男の中では握手に当たるのだろう。ルーナルーナは、彼女を忌避しない態度も含めて、変わった人物だと思った。
「はじめまして、魔道士様。私はルーナルーナと申します」
「良い名だな。私はジーク。私のことは知っているかな?」
ルーナルーナは、ジークに誰かの面影を感じた。それもこの国で最も高貴なる人物の。しかし、先日の夜会の際、一同に介した王族の席にこの人物がいた記憶はない。
答えを告げたのは、リングだった。
「女、不敬だぞ。この方はこの国の筆頭魔道士であらせられると同時に、王兄なのだからな」
(道理で似てると思ったわ! でも、王子の分際で叔父を自室へ急に呼びつけるなんて、それこそ不敬なのじゃないかしら?!)
ルーナルーナは目を白黒させながら、慌てて最敬礼をとる。
「そんなに畏まらないでおくれ。私は自分で言うのはなんだが、世捨て人のような存在だ。魔法が楽しすぎて、王位も弟に押し付けたぐらいだしな。今では甥にもこのように舐められてばかりで、不甲斐ないよ」
「いえ、そんな、あの……十分にご立派であらせられると思います。どうかご自身を卑下なさいませんように」
ジークは、わたわたするルーナルーナを面白そうに見つめる。
「確かに君は王族か、それ以上の魔力の持ち主だね。瞬間移動は、私の師が実現させているのを何度か見たことがあるが、他には無い。どうかね? 一度私に見せてくれないか?」
「はい」
ジークは窓から、城内にある高い塔を指差した。時間を知らせる鐘がある塔である。
「あそこへ瞬間移動して、こちらに向かって手を振ってくれ」
「かしこまりました」
ルーナルーナは閉ざされた窓越しにじっと鐘の塔を眺めた。
(よし、あそこへ行く!)
目を閉じて、目的地のイメージを再びしっかり思い描く。すると頭の中で複雑な魔法陣がいくつも起動し、それらが青白い光を放ちながらパチンと弾けた。
「き……消えた!!」
ルーナルーナが消えて、腰を抜かすエアロス。リングがすかさず駆け寄るが、ジークは眉のあたりで手をかざし、遠くに見える鐘の塔を凝視する。
「……たまげた。彼女は当代の天才だな」
「いえ、あれは黒い娘。信用ならない! あそこにあらかじめ誰かを忍ばせていただけなのかもしれないじゃないか!」
ジークはやれやれとばかりに、わざとらしくため息をつくと、念話を繰り出した。
『では殿下、遠くにいる彼女に念話で何か話しかけてみては?』
『その手があったか! おい、女! もし聞こえているならば、そこの鐘を鳴らしてみろ!』
本当にルーナルーナが塔にいない限りできない所業だ。しかし、問題が一つある。
『殿下、失礼ですが、そんなことをしては皆が時間を勘違いしてしまいます。私が塔にいることをお確かめになりたいのは分かりますが、もう少し人迷惑ではない方法を選んでくださいませんでしょうか?』
『小賢しい女だな! そんなことで、言い逃れできると思っているのか? そこにいないことは分かっているんだぞ!』
『……分かりました。でしたら、ここから魔法で空中を歩きながらそちらに戻ります』
そこへ、念話のメンバーに混じっていたジークが反応する。
『空中散歩!? そんな魔力消費の激しいこともできるのか!』
ルーナルーナはエアロスの返事を待たずに、塔の上から空中の見えない足場に進み出た。ルーナルーナは、そこから王子のいる場所まで細い道が続いているイメージを思い描く。後は、その道を踏み外さないように歩くだけだ。
そうして、ルーナルーナは少しずつ王子の部屋へ近づき、無事に到着したのだった。
「殿下、流石にその態度は大人気ないですぞ。素直に彼女の魔法を讃えるべきです」
「讃えること不要ですが、もう少し落ち着くべきです」
叔父と側近に窘められたエアロスは、決まりが悪そうに俯く。
「それにしても、なぜ彼女はここに来ることになったのかな? 私としては運命の出会いができて万々歳なのだが」
そこで、ようやくエアロスはここに至るまでの出来事を語り始めた。
エアロスが父親であるシャンデル国王に呼び出されたのは、夜会の翌日。十五歳になったからには、そろそろ政務に関わる機会を増やし、経験を積む必要がある。そこで課題として出されたのが、近頃国中で見かけるようになった異教徒の殲滅だ。
異教徒の特徴は二つ。シャンデル王国由来ではない文化の衣装に見を包んでいること。もう一つは、この世には二つの世界が重なって存在し、それを一つにまとめることを悲願としていること。なぜか、異教徒の数は急激に増え、異教徒になることへ憧れを持つ者が国中で確認されている。思想そのものよりも、その考えの広まり方が急激なものであったこと、そして、その勢力がいずれは国を脅かすことになりかねないことが懸念されているのだ。
父親から初めて与えられた大きな任務。エアロスは張り切って、早速手の者を王都中へ放ち、情報収集と共に、怪しい動きの者はいないか探し始めた。そこで、たまたま標的となってしまったのがルーナルーナである。
「私は大きな仕事をしているのだ」
説明をしているうちに元気を取り戻したエアロス。ルーナルーナは、それを冷めた目で眺めていた。同じ王子でも、彼女の想い人との差があまりに激しすぎたからだ。
しかし、ぼやぼやばかりもしていられない。ここからがルーナルーナの正念場である。
「さすがエアロス殿下ですね」
「そうだろう!」
「ですが、私が冤罪だったと証明された今、早速手詰まりになりましたね」
真顔になるエアロス。そこへルーナルーナが追い打ちをかける。
「せっかく王からいただいたチャンスですのに、もったいないですね」
「お前、私が失敗する前提で話しただろ?! 許さん!」
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※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
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