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何者でもない少年
間話 怪しげな商談
「もう行っちゃうの、お兄様?」
ライルの妹リリィの部屋から出ていこうとするライルをリリィは、寂しそうな顔をしながら呼び止める。
優しくだがしっかりとした表情で振り向いたライルはベットで横になっている妹の頭を撫でる。
「ごめんな、でもお兄様はやらないといけないことがあるんだ。リリィは良い子だから僕を応援してくれるかい?」
「……分かった。我慢する、頑張ってね」
誰よりも自分のことを気遣ってくれる兄の邪魔はしてはいけないと小さいながらに気を利かせる。そんな妹に苦笑気味で頭をポンポンと叩いて部屋を出ていく。
(頑張るから見ていてくれ。絶対にリリィと姉上が笑って会えるようにするから……!ん?アレは……)
廊下を歩くライルは窓越しに外に部外者がやって来たのを見た。
(誰だあの商人、見た事ないぞ)
次期領主として育てられたライルは領主の仕事に関わる者たちの顔と詳細は覚えている。だが、今回やって来た商人は見たことがなかった。
(顔を布で巻いていて、一見砂漠がある地域の服装に見えるが肌の色が白い。あの地域は茶や黒の肌の者たちが多い。変装が必要な商人が何故ウチに?)
窓から観察を続けていたライルだったが急に布で顔を隠した人物がこちらを向く。間一髪と言うところでライルはとっさに隠れた。
(あ?咄嗟に隠れたが隠れる必要はないよな。たまたま通りかかった感じで逃げよう)
ライルは何事もなかったかのように立ち上がり自分の部屋へと戻る。
◇◇◇
「何かありましたか?」
「……いや、何でもない。さっさと依頼人のとこに連れて行け」
布を巻いた人物はしばらく窓を見つめたあと、メイドと共に領主邸へと入る。
その様子は堂々としたものであり見た目を全く気にしない様子で依頼人の待つ部屋へと通された。
「お前が依頼人か」
「よく来たわね。顔を見せてくれる?」
中にはローズただ一人。側仕えもおらず一人で領主夫人が部屋で待っていた。商人を出迎えるにしては暗い笑顔を携えて。
応えるように布をしゅるしゅると解いていくと布の間から長い耳がピンと出てきた。
地面に全ての布が落ち、男の素顔が顕になる。
容姿端麗、色白、細い腕に薄緑の瞳。まるで絵画から出て来たような容姿をしている。
偽物でない事を確認したローズはメイド「それじゃあ報告をお願い」と伝えた。
メイドはローズの命で調べていた情報について報告を始める。
「はい、ホリックで目撃情報のあった件ですが確実な情報は得られませんでした。しかし、海のある街に向かったと言う情報を得てマレーアで探したところ、見つけました」
ローズの側仕えであるメイドはホリック、そしてマレーアまで情報を集めていた。と言うより、現場に居た。
彼女が何故情報収集をしているかと言うとそもそもメイドとは仮の姿。本来はローズ直属の諜報を行う暗部の人間だからだ。
アルベルトはこれを知らない。ローズの実家から秘密裏に連れて来たからだ。
「そう、生きていたのね。なら殺して」
淡々とローズはメイドの隣に居る男に告げた。それに対し、男は興味がない様子で部屋を出る為に振り返る。
「殺すのは契約に含まれていない。俺が欲しいのは本だけだ。それ以外はどうでも良い」
「まぁ待ちなさいよ。もし、殺してくれたら何でもあげる。金も女も地位だってあ」
ローズが全てを言い終える前に男は短剣を首元に突き立てた。お互いに無表情で睨み合う。
「何度も言うが俺は本さえ手に入ればどうでも良い。後は好きにしろ」
「なら、私の駒を連れて行って。きっと役に立つわ」
「勝手にしろ」
布を再び巻き、男は部屋を出ると入り口付近で辺りを見回し再び歩き出した。
◇◇◇
心臓が飛び出すくらいに跳ねるのを感じながらライルは自身の部屋に篭っていた。
やはり先ほどの商人が気になったライルはこっそり後を追い、ローズとの密談を盗み聞きしていた。
(姉上が危ない!だが、どう知らせれば……メイドは全て母上の手の中。父上も動けない)
「俺が行くしかない」
ライルは決意を固め部屋を後にする。向かう先はリリィの部屋だ。きっと心配するだろう妹に別れを伝える為に。
部屋に入ったライルを眩しい笑顔でリリィは出迎える。その笑顔が余計に心苦しさを増す要因となる。
「どうしたの、お兄様。お部屋に戻られたのではなかったの?」
「あぁ、その、リリィ。少し会えなくなるから顔を見に来たんだ」
「えっもう会えないの?」
一瞬で悲しそうな表情になるリリィを慰めるように頭を撫でる。
「少しだけ、な。ちょっと兄様出かける用事が出来たからさ。最後にリリィに会いに来たんだよ」
「また会いに来てくれる?」
「あぁ、必ず。だから少しだけ我慢できるかい?」
「………………分かった、我慢する」
「いい子だ。じゃあ行ってくる」
ライルはリリィと別れ自身の部屋で支度を始めた。荷物は最小限、短剣と流石に貴族の服を着るわけにもいかないので街を視察する用の平民の服を何着か。
完全に日が沈み皆が寝静まった頃、ライルはかつてグレイの小屋があった場所から外に出て行った。
その後、ライルが居ないと騒ぎになったがアルベルトが「領主の経験を積ませる為に旅に出した」と屋敷の者たちに伝え落ち着かせた。
ローズは激しく抗議したが「街を知らず平民を知らず、領主は務まらない。君が平民を嫌っていることは知っているが貴族だけで領地は治められない」と一蹴したことによって事なきを得たのだった。
ライルの妹リリィの部屋から出ていこうとするライルをリリィは、寂しそうな顔をしながら呼び止める。
優しくだがしっかりとした表情で振り向いたライルはベットで横になっている妹の頭を撫でる。
「ごめんな、でもお兄様はやらないといけないことがあるんだ。リリィは良い子だから僕を応援してくれるかい?」
「……分かった。我慢する、頑張ってね」
誰よりも自分のことを気遣ってくれる兄の邪魔はしてはいけないと小さいながらに気を利かせる。そんな妹に苦笑気味で頭をポンポンと叩いて部屋を出ていく。
(頑張るから見ていてくれ。絶対にリリィと姉上が笑って会えるようにするから……!ん?アレは……)
廊下を歩くライルは窓越しに外に部外者がやって来たのを見た。
(誰だあの商人、見た事ないぞ)
次期領主として育てられたライルは領主の仕事に関わる者たちの顔と詳細は覚えている。だが、今回やって来た商人は見たことがなかった。
(顔を布で巻いていて、一見砂漠がある地域の服装に見えるが肌の色が白い。あの地域は茶や黒の肌の者たちが多い。変装が必要な商人が何故ウチに?)
窓から観察を続けていたライルだったが急に布で顔を隠した人物がこちらを向く。間一髪と言うところでライルはとっさに隠れた。
(あ?咄嗟に隠れたが隠れる必要はないよな。たまたま通りかかった感じで逃げよう)
ライルは何事もなかったかのように立ち上がり自分の部屋へと戻る。
◇◇◇
「何かありましたか?」
「……いや、何でもない。さっさと依頼人のとこに連れて行け」
布を巻いた人物はしばらく窓を見つめたあと、メイドと共に領主邸へと入る。
その様子は堂々としたものであり見た目を全く気にしない様子で依頼人の待つ部屋へと通された。
「お前が依頼人か」
「よく来たわね。顔を見せてくれる?」
中にはローズただ一人。側仕えもおらず一人で領主夫人が部屋で待っていた。商人を出迎えるにしては暗い笑顔を携えて。
応えるように布をしゅるしゅると解いていくと布の間から長い耳がピンと出てきた。
地面に全ての布が落ち、男の素顔が顕になる。
容姿端麗、色白、細い腕に薄緑の瞳。まるで絵画から出て来たような容姿をしている。
偽物でない事を確認したローズはメイド「それじゃあ報告をお願い」と伝えた。
メイドはローズの命で調べていた情報について報告を始める。
「はい、ホリックで目撃情報のあった件ですが確実な情報は得られませんでした。しかし、海のある街に向かったと言う情報を得てマレーアで探したところ、見つけました」
ローズの側仕えであるメイドはホリック、そしてマレーアまで情報を集めていた。と言うより、現場に居た。
彼女が何故情報収集をしているかと言うとそもそもメイドとは仮の姿。本来はローズ直属の諜報を行う暗部の人間だからだ。
アルベルトはこれを知らない。ローズの実家から秘密裏に連れて来たからだ。
「そう、生きていたのね。なら殺して」
淡々とローズはメイドの隣に居る男に告げた。それに対し、男は興味がない様子で部屋を出る為に振り返る。
「殺すのは契約に含まれていない。俺が欲しいのは本だけだ。それ以外はどうでも良い」
「まぁ待ちなさいよ。もし、殺してくれたら何でもあげる。金も女も地位だってあ」
ローズが全てを言い終える前に男は短剣を首元に突き立てた。お互いに無表情で睨み合う。
「何度も言うが俺は本さえ手に入ればどうでも良い。後は好きにしろ」
「なら、私の駒を連れて行って。きっと役に立つわ」
「勝手にしろ」
布を再び巻き、男は部屋を出ると入り口付近で辺りを見回し再び歩き出した。
◇◇◇
心臓が飛び出すくらいに跳ねるのを感じながらライルは自身の部屋に篭っていた。
やはり先ほどの商人が気になったライルはこっそり後を追い、ローズとの密談を盗み聞きしていた。
(姉上が危ない!だが、どう知らせれば……メイドは全て母上の手の中。父上も動けない)
「俺が行くしかない」
ライルは決意を固め部屋を後にする。向かう先はリリィの部屋だ。きっと心配するだろう妹に別れを伝える為に。
部屋に入ったライルを眩しい笑顔でリリィは出迎える。その笑顔が余計に心苦しさを増す要因となる。
「どうしたの、お兄様。お部屋に戻られたのではなかったの?」
「あぁ、その、リリィ。少し会えなくなるから顔を見に来たんだ」
「えっもう会えないの?」
一瞬で悲しそうな表情になるリリィを慰めるように頭を撫でる。
「少しだけ、な。ちょっと兄様出かける用事が出来たからさ。最後にリリィに会いに来たんだよ」
「また会いに来てくれる?」
「あぁ、必ず。だから少しだけ我慢できるかい?」
「………………分かった、我慢する」
「いい子だ。じゃあ行ってくる」
ライルはリリィと別れ自身の部屋で支度を始めた。荷物は最小限、短剣と流石に貴族の服を着るわけにもいかないので街を視察する用の平民の服を何着か。
完全に日が沈み皆が寝静まった頃、ライルはかつてグレイの小屋があった場所から外に出て行った。
その後、ライルが居ないと騒ぎになったがアルベルトが「領主の経験を積ませる為に旅に出した」と屋敷の者たちに伝え落ち着かせた。
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