魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ

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獣王国ベスティア

謁見

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 ジークが目を覚ましてから二日。
 体調も問題無く戻り、早起きして鍛錬を開始する程までに元気になったことを確認した闘技場運営が優勝賞品、つまり獣王との謁見を知らせに来た。

「俺、王様に会うなんて初めてなんだけど大丈夫かな」
「うーん少し不安。ジーク、変なこと言わないのよ?」
「分かってるって」

 若干、過保護気味になっているレイラは側から見ると母親のように見える。
 
「それでは参りましょう」

 ジークだけで無く、グレイ達もついてきて良いとの事で伝来役の獣人が持ってきた大きな籠のようなものの中に全員入る。
 
『コレ全部木で出来てるんだ。この取っ手はなんだろう』
「それにつかまるといいにゃ。そろそろ

 グレイはネロの注告に従って籠の中にある取っ手を握る。その瞬間、謎の浮遊感が身体を襲う。
 少し身体を乗り出すと既に周りは遥か上空。
 籠の何箇所かに付いている紐を伝令役の獣人が掴んで空を飛んでいる。
 風で揺られ、羽ばたきで揺れ確かに手すりを掴まないと振り落とされそうになる。

 大変な空の旅もしばらくして静かになった。

「着きましたよ、ここが獣王宮です」

 どすん、という衝撃と共に聞こえた伝来役の声にグレイは外を見る。
 そこには威圧感すら漂わせる大宮殿が建っていた。

 辺りを見回すと籠が着地した場所の近くにとてつもなく長い階段が付いている。
 おそらくは籠を使う以外の移動手段はこの階段のみなのだろうとグレイは考えた。
 大きな山の上に建てられた宮殿はそれだけで堅牢な要塞としての機能も備えている。

「それではこちらへ」

 伝令役に従ってグレイ達はジークを先頭に宮殿内部へと足を踏み入れた。
 内装はそこまで豪華では無いが磨かれた石で出来た床や壁、天井などといった細かい所にまで工夫を施してあり、王の住処として相応しい様相となっている。

 カツカツと足音を鳴らしながら歩く事少し、途中までに見た扉とは明らかに違う扉の前で伝令役は立ち止まる。

「この先が獣王の間。獣王様がお待ちになられております。くれぐれも失礼の中よう」

 伝令役はそう言うと扉を開く。

 ジークを先頭にグレイ達も中へと入る。
 王宮の中でも特別豪華な獣王の間には左右に強そうな獣人達が控え、その中央、ジークから見て正面には巨大な玉座に足を組み座る獣王が待ち構えている。

「良くぞ来た。ジーク、と言ったな?褒美をやろう。なんでも一つ言うがいい。叶えてやる」

 言葉とは裏腹に獣王からは威圧感と獲物を見るような目を感じ、グレイ達は冷や汗をかく。
 だが、ジークはそれに少し臆するも要件を伝える。

「俺を、俺たちを聖獣退治に参加させてくれ!」

 その瞬間、獣王の間に静寂が訪れた。獣王も威圧感を消し目を見開く。

「ふっ……クク、クハハハ!貴様、その為に獣闘技に参加したのか……?面白い、良いぞ。戦力が増える事になんの憂いもないからな。例え、それが

 その瞬間、ジークを除く全員が構える。

(まさかロクスタの作った獣化薬を見破って……!?)

 グレイ達の焦りを感じた様子にケタケタと笑いながら九本の尻尾を靡かせながら獣王は立ち上がりグレイ達の元へと歩み寄る。

「良く出来た幻覚よ。我以外には未だ其方らは獣人に見えるだろう。だが、九尾の狐である我に幻覚など効かぬ。おおかたロクスタの手によるものだろう?あやつの薬は獣人一だからな」
『バレているならば何故……?』

 グレイは獣王からジークを守るように後ろに下がらせながら質問する。
 だが、それを獣王は一笑し、答える。

「強者には勝者にはそれ相応の褒美というものが与えられて当然だ。それが我らに劣る人間となれば当然のこと。そして、聖獣の封印は我らの戦いではあるが我らのみでそれを行おうなどと言うつもりもない。民の平穏が約束されるのであれば人間であろうとなんであろうと利用するまで」
 
 自分たちを下に見る発言には少し気になることはあるが、それでも身の危険はないと判断し、グレイ達は警戒をとく。

 だが、獣王の隣から現れた人物にグレイとネロは再び警戒する。
 
「獣王様、良いのですか?」
「ヴリトラ、良いのだ。本来ならばここに来るはずのない者達ではあるが、其方なら既に他の計画で潰しているのであろう?」
『どう言うこと……?』

 グレイが獣王の発言に疑問を持つのと同時、控えていた兵士の一人が突如獣王に襲いかかった。
 しかし、突然の事にグレイ達は動けず、兵士たちは微動だにしない。
 ヴリトラだけは少し動揺しているが助けようとはしていない。

「全く、勝てなかったからと言って不意打ちは良くない。せめて正面から来い」

 獣王は九本の尾を使い襲いかかる兵士を壁へと薙飛ばした。その瞬間、近くの兵士によって捕縛され獣王の間から連れ出されていく。

「全く、本来ならばあの反乱軍共を捕まえる為に色々画策したと言うのに全員負けましたから、計画が水の泡になったんですよ?」

 言外にジークが負ければよかったのに、と言うヴリトラに今まで後ろで黙っていたネロが反論する。

「やっぱり何かしてたにゃね、この腹黒蛇!まさか最初の試合の時に壊れたも細工してたんでしょ!」

(確かにジークの剣は変に壊れていたし、武器庫の前でもあの人の声を聞いたけど、本当に?)

 グレイもヴリトラに疑いの目を向ける。だが、当の本人は呆れ返った顔をしながら諭すようにネロに言う。

「本当に誰に似たんだか……良いですか?私が細工したのは反乱軍の獣人達です。奴らの武器だけより強い物を渡したと言うのになんの活躍もなくやられて骨折り損と言うやつです」
「あーなる、ほどな……」

 ジークは初戦以降の試合でやけに切れ味の良い対戦相手に炎拳で対処していたことを思い出した。おそらく、それが反乱軍の獣人だったのだろう、と。

「ネロ、久しぶりに会ったが未だ子猫のようだ……ロクスタと共に国を出てから何も変わっておらぬ。コレではかつて我が玉座を奪うと言った言の葉も破り捨てたか?」
「うるさいにゃ。すぐに奪うからその椅子を温めておくにゃ」

 ロクスタとも知り合いのような態度で話す獣王とネロは険悪な関係であるとジークですら分かるほどに火花を散らす。
 もう話すことはないと、ネロが獣王の間から一人先に出ていこうとする。

「待て、ささやかな宴を用意した。久しぶりの郷土の食事を食べると良い」
「………食べたら帰る」

 食事に釣られたネロとグレイ達は伝令役の獣人の案内で獣王の主催するパーティーに参加する為、ドレスコードを着るために移動していく。

 その間もずっとネロは不機嫌なままであった。
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