自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

如月 雪名

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第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略

第821話 シュウゲン 4 精霊との契約 1

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 冒険者の視線を避けるためテント内で休憩を済ませたあとは、夕方まで魔物を倒しつつ、それぞれ習得した武術のLv上げを行った。
 ダンジョンを出てステータスを確認すると、基本Lvが0から10になっている。

【シュウゲン 12歳】

★加護(火の精霊)
 レベル 10
 HP 232
 MP 132
 槍術 Lv5
 剣術 Lv5
 体術 Lv5
 投擲術 Lv5
 魔法 特殊魔法(鑑定)
 魔法 火魔法

 父親が言った通り、HPとMPはLv1毎に12ずつ増えているようだ。
 しかし1日ダンジョンに潜っただけで、えらくLvが上がったの……。
 儀式で倒した角ウサギより、ダンジョンに出現する魔物の方が強く効率的なのかも知れん。
 再び乗合馬車で冒険者ギルドへ戻り、初の換金作業を行う。
 解体場で今日の成果をマジックバッグから取り出すと、担当者が驚いた表情になり5匹のファングボアと3匹のリザードマンの傷口を注意深く観察し出す。
 帰りが遅くなると母親が心配しそうで、早く換金してほしいのだが……。

「ギルドマスターから聞いていたが、これ程の腕とは信じがたい。特例扱いは伊達だてじゃなさそうだ。皮に傷を付けず倒すとは、将来有望な坊主だな!」

 儂より若い40代くらいの中年男に坊主と呼ばれ、いささか気色ばむ。
 いや今は少年姿で、そう呼ばれるのはおかしな事ではないが納得いかん。
 大人げないが、返事をせず無言で視線を向け換金をうながした。

「あぁ、悪い。C級冒険者なら、もう一人前扱いしないとな。ほら、換金額だ」

 ばつの悪そうな顔で金を渡され、儂は金額の確認もせずマジックバッグに入れた。
 属性スライムの内、ファイアースライムとウォータースライムの魔石だけは魔道具用に残し、他は全て換金している。
 一日の成果を見るのは、家へ帰ってからの楽しみにしよう。
 冒険者ギルドを出て、家へ向かう間にF級冒険者の子供達とすれ違った。
 シュウゲンとは顔見知りだった近所の少年が、思わずという感じで声を掛けてくる。

「お前だけ、何で講習を受けないんだ?」

 気になっていたのか小声で尋ねられ、何と答えたものか悩む。
 このくらいの年齢だと、同じスタートを切った仲間が先に進んでいるのをズルいと感じるだろう。
 別に、どう思われようと痛くもかゆくもないが仲良くしていた相手だ。
 あまり嫌われるような事は言わない方がいい。

「内緒で、修行をしていたんだ」

 実際、シュウゲンは修行なんてしていないがな。
 ドワーフの子供は学校に通う必要がなく、儀式を受けるまでは大抵家の手伝いをしている。
 水みやまき割り日々の買物は子供の仕事だが、自由時間は結構ある。
 シュウゲンは母親の手伝いが済んだあと、父親が鉱山で採掘した鉱物をながめてばかりいた。
 ドワーフという種族の特性なのか、武器に使用する鉱物が好きだったようだ。

「えっ、お前1人で修行してたのか? 変わってるな~」

「そう言う訳で、講習は受ける必要がないんだ」 

「そっか……。一緒にパーティーを組もうと思ってたんだけど、仕方ないよな」

 少年はあっさり言うと離れて行く。
 必要以上に追及されず、気まずい思いをしなくて済み助かった。 
 これは個人の能力を重視する、ドワーフの気質にもよるんだろう。
 この国では鍛冶師が優遇を受ける。
 王は10年に一度、名匠と呼ばれる鍛冶師が腕を競い、国を守護している火竜が選出するのだ。
 王は名誉職で王政ではなく、身分等もない。
 他国は知らぬが、生まれ変わった国の制度は悪くないと思う。
 
 家へ戻り早々に換金額を確かめた。
 銀貨83枚は、日本円に換算すると83万円くらいかの。
 ふむ、思ったよりダンジョンは稼げるようじゃ。
 銀貨50枚を母親に渡し、残りは貯めておこう。
 父親の見ていない隙を狙い、こっそり母親に金を渡すと喜ばれた。
 
 それから半年後――。
 ダンジョンの階層を次々と下がり、今は地下9階の安全地帯で寝泊まりしている。
 今日は地下10階で精霊召喚を行うので、年甲斐がいもなくそわそわしていた。
 Lvが上がったお陰で魔物との交戦は楽になり、1人で倒す時に危険を感じる事はなくなった。
 ダンジョン泊をするようになってからマジックバッグの容量が不足し、より多く入る物に買い換えたのは痛い出費だったが……。
 何故なぜマジックバッグは、あれ程高いのかの?
 1億円以上するなど、ぼったくりではないか!

 さぁ、気を取り直して地下10階へ行こう。
 ダンジョンの最終階層には、精霊召喚の陣が描かれている。
 この陣の上でドワーフの古語を唱えれば、契約してくれる火の精霊が現れるそうだ。
 契約出来るのは一度切りで、どんな精霊が召喚されるかは本人の能力に左右されると言う。
 低級精霊のサラマンダーでも契約後に火魔法が使用可能になり、鍛冶職に就ける。
 火の精霊の加護があっても、召喚陣から現れない時は鍛冶職をあきらめるしかない。

 儂は、どうしても契約を結びたかった。
 もしこの世界に小夜さよがいるなら、自分の手で薙刀なぎなたを作ってやりたいのだ。
 魔物がいる世界だから、冒険者をしている可能性が高い。
 剣や槍より、使い慣れた武器の方がいいだろう。

 地下9階から階段を下がり地下10階へ進むと、それまでの階層とは違い20畳程の狭い空間に出た。
 中央には淡く光る召喚陣が見える。
 よし! 
 落ち着いて召喚陣の上に立ち、普段使用しない古語で呪文を唱え始めた。

『火の精霊よ! 契約を願う! 召喚に応じ、出でませよ!』

 何度も間違えぬよう、練習した甲斐があり呪文は上手くいった。
 あとは、火の精霊が儂の召喚に応じてくれるのを願うばかり。
 祈るように召喚陣を見続けると、小さなサラマンダーがひょっこり地面から顔を出した。
 おおっ、成功だな!
 契約を結ぼうと近付いた瞬間、

「うわぁ~、無理!」

 サラマンダーが大声を出し、逃げ出そうとする。
 いや待て、今ここで逃げられると一生精霊と契約出来ぬではないか!
 あわてて背を向けたサラマンダーの尻尾をつかみ、引き寄せた。

「これ、暴れるな。さぁ、契約をしよう」

「助けて~! 契約は違う精霊として下さい!」

「何だとっ!? 召喚に応じたのでは、ないのか?」

「無理、無理!! 属性が違いすぎます~」

 翼をバタバタとさせ、飛び去ろうとするサラマンダーの姿に困惑こんわくする。
 精霊召喚で呼ばれた精霊が、契約を断る例など聞いた事がない。
 こういった場合は、どうすればいいんじゃ?

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