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第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略
第830話 シュウゲン 13 ワイバーンの鱗 2
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迫りくるワイバーンの群れを見て、小夜に会うまで死ぬ訳にはいかないと逃げる算段を必死に考える。
火の精霊王に従い、ずっと儂に付き添ってきた彼の身も守らねばならん。
ここは撤退した方が良さそうだな……。
逡巡していたのも束の間、山頂を見渡し身を隠せるような場所を探す。
上空にいるワイバーンからは姿を捕らえられておろうが、このままじっとしていては死を待つばかりじゃ。
周囲には木もなく、残念ながら来た道を引き返すしかなさそうだと判断し、バールに視線を送る。
すると彼はワイバーンの群れを歓迎しているかのように、にこにこと笑っておるではないか!?
こやつは、心臓に毛でも生えておるのか?
それとも、あまりの状況に頭がおかしくなったのか?
いや、もしかすると数百匹を相手にしても勝つだけの自信があるのだろうか?
考えてみれば、あの大槍を自在に操るだけの技量があるなら実力は相当なものに違いない。
火の精霊王が契約精霊代わりに呼んだくらいだし、火魔法もかなり火力が強い筈。
ワイバーンの群れを一瞬で消し炭にする事が出来るかも知れぬ。
この非常事態に些かも動揺しない様子に、儂も張り詰めていた糸を切らした。
「バール、いけるか?」
短く共闘するのに異存はないか尋ねると、
「シュウゲン様へ挨拶に来たようですね」
嬉しそうに返され返答に詰まる。
会話が成立してないようだが……?
言葉通りの意味ならワイバーンは襲ってくるのではなく、儂らに挨拶しに向かってきていると言う事になる。
そんな礼儀正しい魔物など、おりゃせんわ!!
やはり危機感を通り越し現実逃避をしているのか?
彼を当てにするのは時間の無駄だと悟り、さっさと撤退しようとした瞬間。
ワイバーンの群れが頭上に到着し、儂らを中心に円陣のような陣形を組み静止した。
その中で一際大きな体躯を持つ個体が、ゆっくりと下降を始める。
まるで敵意を感じない姿を逃げるのも忘れ茫然と見つめた。
『御方様。一同打ち揃い、ご挨拶申し上げます。我が里にいらっしゃるとは光栄の至り。急なお越しのご用向きを、お伺いしてもよろしいでしょうか?』
山頂まで降りてきた群れのリーダーらしいワイバーンが、首を低く下げ念話で会話を始め出す。
なんと!? バールの言った通り、本当に挨拶しに来たのか!!
こりゃ驚いた……。
スレイプニルには嫌われたようだったが、他の魔物には好かれる要因でもあるのかの。
しかし、こう友好的な態度を取られては仕事がしにくい。
ワイバーンを狩りに来たとは言えぬだろう。
「あ~、わざわざ挨拶しに来てくれ礼を言う。実は……鱗が欲しいのじゃが……」
師匠からの課題は鱗のみだから別に本体がなくても問題ない。
そもそもマジックバッグに入る大さではないのを忘れておった。
意志疎通の出来る相手から貰えれば倒す必要もないしな。
『……我らの鱗ですか?』
何を言われたか理解不能とばかりに、ワイバーンは隣のバールへ視線を向ける。
「御前様のいいように」
バールが言葉を返すと、ワイバーンは首を傾げながらも「グオゥー」と咆哮し群れに指示を出したようだ。
少し待つと、子竜達が大きな鱗を両手で抱え降りてくる。
よちよち歩きをしながら儂の前まで来て深く頭を下げ、鱗を差し出してきた。
おおっ、こりゃ可愛いのぅ。
鱗を受け取り役目を果たした子竜を労うよう頭を撫でてやると、「ピィー」と甲高い声を上げ親元へ戻っていく。
およそ50枚の鱗を回収し、儂らは礼を伝えて山を下りた。
ワイバーンが集団で現れた時は生きた心地がせなんだが、無事に鱗を入手出来たのは幸いじゃった。
麓で待っていた黒曜に騎乗し、宿のあった場所へ戻り1泊してから国に帰る事にした。
翌日。こんなに沢山の鱗は必要ないだろうと思い、換金するため冒険者ギルドへ行く。
解体場でワイバーンの鱗を出した途端、奇妙な沈黙が流れたあと担当者が口を開いた。
「君は他国の人間か? この国で保護しているワイバーンの鱗は、冒険者ギルドで換金出来ないよ」
なんという事だ!
国で保護しているワイバーンを倒しておったら、儂は捕まったかも知れん。
あんのクソボケ爺め~‼
肝心な事を何ひとつ教えず放り出すとは許しがたい。
あやうく犯罪者になるところだったではないか!
どおりで他の冒険者の姿がなかった筈だ……。
「それは知らずに申し訳ない」
儂は出した鱗をそそくさと仕舞い、冒険者ギルドを後にした。
変な疑いを掛けられる前に、さっさとこの国を出よう。
1週間後。国へ帰った早々、儂は師匠に会いに鍛冶師ギルドを訪れた。
ちょうど鍛冶師ギルドにいたタイミングが合い、ガンツ師匠は儂の姿を見て笑みを零す。
「思ったより早かったな。どうだ、ワイバーンの鱗は取ってこれたか?」
ぬけぬけと言う爺の頭をかち割りたくなった。
「渡された地図は抜けが多いし、そもそもワイバーンは国の保護対象であった。儂を犯罪者にする気か!!」
「ふむ、シュウゲン。お前は何も調べずに行ったようだな。他国を記した正確な地図などないし、それは自分で埋めて作成するものだ。何もかも教えてもらえるとは思わない方がいい。今回の旅は、良い経験になったろう」
なんか上手い事を言っているようだが儂は誤魔化されんぞ。
どうせ説明するのは面倒くさいと省き、伝え忘れておったのだろう。
少なくはない付き合いで、この爺の性格はお見通しじゃ。
ただ実際、自分の考えが甘いと反省する部分はあったが……。
「では明日、鍛冶師ギルドへ9時に来い」
「……分かった」
これ以上文句を言っても仕方ないと諦め、自宅に帰った。
しかし、この大量のワイバーンの鱗はどうしたらいいのかの。
マジックバッグの容量を圧迫するので金に換えたい。
休日に商業ギルドで相談してみるか……。
2週間の旅を終え疲れていた儂は、夕食を簡単に済ませ就寝した。
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読んで下さる全ての皆様、ありがとうございます。
応援して下さる皆様がいて大変励みになっています。
これからもよろしくお願い致します。
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火の精霊王に従い、ずっと儂に付き添ってきた彼の身も守らねばならん。
ここは撤退した方が良さそうだな……。
逡巡していたのも束の間、山頂を見渡し身を隠せるような場所を探す。
上空にいるワイバーンからは姿を捕らえられておろうが、このままじっとしていては死を待つばかりじゃ。
周囲には木もなく、残念ながら来た道を引き返すしかなさそうだと判断し、バールに視線を送る。
すると彼はワイバーンの群れを歓迎しているかのように、にこにこと笑っておるではないか!?
こやつは、心臓に毛でも生えておるのか?
それとも、あまりの状況に頭がおかしくなったのか?
いや、もしかすると数百匹を相手にしても勝つだけの自信があるのだろうか?
考えてみれば、あの大槍を自在に操るだけの技量があるなら実力は相当なものに違いない。
火の精霊王が契約精霊代わりに呼んだくらいだし、火魔法もかなり火力が強い筈。
ワイバーンの群れを一瞬で消し炭にする事が出来るかも知れぬ。
この非常事態に些かも動揺しない様子に、儂も張り詰めていた糸を切らした。
「バール、いけるか?」
短く共闘するのに異存はないか尋ねると、
「シュウゲン様へ挨拶に来たようですね」
嬉しそうに返され返答に詰まる。
会話が成立してないようだが……?
言葉通りの意味ならワイバーンは襲ってくるのではなく、儂らに挨拶しに向かってきていると言う事になる。
そんな礼儀正しい魔物など、おりゃせんわ!!
やはり危機感を通り越し現実逃避をしているのか?
彼を当てにするのは時間の無駄だと悟り、さっさと撤退しようとした瞬間。
ワイバーンの群れが頭上に到着し、儂らを中心に円陣のような陣形を組み静止した。
その中で一際大きな体躯を持つ個体が、ゆっくりと下降を始める。
まるで敵意を感じない姿を逃げるのも忘れ茫然と見つめた。
『御方様。一同打ち揃い、ご挨拶申し上げます。我が里にいらっしゃるとは光栄の至り。急なお越しのご用向きを、お伺いしてもよろしいでしょうか?』
山頂まで降りてきた群れのリーダーらしいワイバーンが、首を低く下げ念話で会話を始め出す。
なんと!? バールの言った通り、本当に挨拶しに来たのか!!
こりゃ驚いた……。
スレイプニルには嫌われたようだったが、他の魔物には好かれる要因でもあるのかの。
しかし、こう友好的な態度を取られては仕事がしにくい。
ワイバーンを狩りに来たとは言えぬだろう。
「あ~、わざわざ挨拶しに来てくれ礼を言う。実は……鱗が欲しいのじゃが……」
師匠からの課題は鱗のみだから別に本体がなくても問題ない。
そもそもマジックバッグに入る大さではないのを忘れておった。
意志疎通の出来る相手から貰えれば倒す必要もないしな。
『……我らの鱗ですか?』
何を言われたか理解不能とばかりに、ワイバーンは隣のバールへ視線を向ける。
「御前様のいいように」
バールが言葉を返すと、ワイバーンは首を傾げながらも「グオゥー」と咆哮し群れに指示を出したようだ。
少し待つと、子竜達が大きな鱗を両手で抱え降りてくる。
よちよち歩きをしながら儂の前まで来て深く頭を下げ、鱗を差し出してきた。
おおっ、こりゃ可愛いのぅ。
鱗を受け取り役目を果たした子竜を労うよう頭を撫でてやると、「ピィー」と甲高い声を上げ親元へ戻っていく。
およそ50枚の鱗を回収し、儂らは礼を伝えて山を下りた。
ワイバーンが集団で現れた時は生きた心地がせなんだが、無事に鱗を入手出来たのは幸いじゃった。
麓で待っていた黒曜に騎乗し、宿のあった場所へ戻り1泊してから国に帰る事にした。
翌日。こんなに沢山の鱗は必要ないだろうと思い、換金するため冒険者ギルドへ行く。
解体場でワイバーンの鱗を出した途端、奇妙な沈黙が流れたあと担当者が口を開いた。
「君は他国の人間か? この国で保護しているワイバーンの鱗は、冒険者ギルドで換金出来ないよ」
なんという事だ!
国で保護しているワイバーンを倒しておったら、儂は捕まったかも知れん。
あんのクソボケ爺め~‼
肝心な事を何ひとつ教えず放り出すとは許しがたい。
あやうく犯罪者になるところだったではないか!
どおりで他の冒険者の姿がなかった筈だ……。
「それは知らずに申し訳ない」
儂は出した鱗をそそくさと仕舞い、冒険者ギルドを後にした。
変な疑いを掛けられる前に、さっさとこの国を出よう。
1週間後。国へ帰った早々、儂は師匠に会いに鍛冶師ギルドを訪れた。
ちょうど鍛冶師ギルドにいたタイミングが合い、ガンツ師匠は儂の姿を見て笑みを零す。
「思ったより早かったな。どうだ、ワイバーンの鱗は取ってこれたか?」
ぬけぬけと言う爺の頭をかち割りたくなった。
「渡された地図は抜けが多いし、そもそもワイバーンは国の保護対象であった。儂を犯罪者にする気か!!」
「ふむ、シュウゲン。お前は何も調べずに行ったようだな。他国を記した正確な地図などないし、それは自分で埋めて作成するものだ。何もかも教えてもらえるとは思わない方がいい。今回の旅は、良い経験になったろう」
なんか上手い事を言っているようだが儂は誤魔化されんぞ。
どうせ説明するのは面倒くさいと省き、伝え忘れておったのだろう。
少なくはない付き合いで、この爺の性格はお見通しじゃ。
ただ実際、自分の考えが甘いと反省する部分はあったが……。
「では明日、鍛冶師ギルドへ9時に来い」
「……分かった」
これ以上文句を言っても仕方ないと諦め、自宅に帰った。
しかし、この大量のワイバーンの鱗はどうしたらいいのかの。
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2週間の旅を終え疲れていた儂は、夕食を簡単に済ませ就寝した。
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