自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

如月 雪名

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第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略

第857話 シュウゲン 40 摩天楼ダンジョン30階 冒険者ギルドマスターへの報告 2

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 何と答えてよいものか悩んだが、沙良と面識があるなら下手に隠し立てせぬほうがいい。
 待ち合わせ場所を冒険者ギルドにしたという事は、迷宮都市にいるのは内緒にしておらんのだろう。
 それにヒルダちゃんとそっくりな孫娘を見て、ヒューはエルフの王族だと思っておるかも知れん。
 多少の事には目をつぶってくれるじゃろう。
 そう考えた儂は彼の質問に対して、

「沙良は迷宮都市におる」

 簡潔に答えた。

「そうでございますか……」

 返事を聞いたヒューの顔色が更に悪くなる。
 これ以上、突っ込まれる前に早々に退散しようと腰を浮かせた瞬間、黒い手袋をめた2人のギルド職員が部屋に入ってきた。
 何と間が悪い。タイミングを外した儂は、浮かせた腰を下ろし再びソファーにもたれた。

「シュウゲン様。中身が気になるでしょうし、このまま一緒に確認して下さい」

 そう言われては断りにくい。
 儂はこくりとうなずきを返し、机に置かれた呪具を保管する箱が開けられるのを待った。
 2人のギルド職員が、慎重な手付きで箱を持ち上げ全体を見る。
 儂が見る限り箱に継ぎ目はなく、どうやって開くのか興味がいた。
 1人のギルド職員が真っ白な魔石を箱の中央に当てた途端とたん、絡繰り箱のように側面が移動しふたが開く。
 ほう、このような手段で魔術具を解除するのか……。
 秘匿ひとく性が強いと思われる方法を見せたのは、儂が特級冒険者だからかの?
 本来なら、この場に立ち会うのは冒険者ギルドに属した者だけだろう。
 開いた箱をのぞくと、中にはぎっしりと黒色の丸い玉が詰まっておる。
 初めて見るが、これが呪具なのか?

「全て黒色の呪具とは!! しかも、かなり量がある。早く数を数えてくれ!」

 ヒューはギルド職員に指示を出したあと、両手で顔をおおい深く項垂うなだれた。
 呪具の色が黒い事に反応したように見えるな。色によって効果に違いがあるのだろう。
 呪具の数は全部で120個あった。
 この数が多いのか少ないのか儂には分からんが、ヒューの様子からして少なくはなさそうだ。
 その後、黒色の呪具を戻した箱を持ち、2人のギルド職員は部屋から出ていった。
 中身も分かった事だし、そろそろ帰ろうとしたが、
 
「黒色の呪具は最悪です。魔物の出現率が10倍になり、その効果が1日中続きます」

 呪具に関して知らぬ儂へ、ヒューが親切にも説明を始めてしまった。
 聞けば、この呪具は3個セットで使用すると言う。
 3個を三角状にして、地面に設置した中に入った魔物の出現が増える仕組みらしい。
 なんとも運だよりな呪具だが、数多く設置すれば中に魔物が入る確率が上がるだろう。
 単純に考えても、1度に1匹出現する魔物が10匹になれば冒険者の危険度が増す。
 それがダンジョン内であれば怪我を負った場合、直ぐに地上へ帰還出来まい。
 必然、死亡率は跳ね上がる。非常に嫌らしい呪具だ。
 そんな物を設置しようとした、アシュカナ帝国の思惑おもわくが透けて見えるようじゃ。
 戦争を前に、いかに手間をかけず脅威となる冒険者を排除しようとしたのか分かるわい。
 沙良を9番目の妻にしようとする帝王は、領土を拡大する上で小賢しい真似をしよる。
 只の女好きの帝王かと思ったが、違うみたいだな。

 しばし思考にふけっていると、黄金こがねが立ち上がり扉の方へ視線を向けた。
 おや? 沙良が迎えに来たのかの?
 思ったより長居をしてしまったわ。待つ事なく、扉がノックされる。
 ヒューが応答すると、受付嬢に案内された沙良、ひびき君、いつき君が顔を出した。
 3人を見てヒューが立ち上がり、姿勢を正して一礼する。
 やはり、沙良の事をエルフの王族だと思っているようだな。
 3人が儂と同じソファーに座ると、ヒューがおもむろに口を開いた。

「サラさん、報告ありがとうございます。提出して頂いた物を確認したところ、箱の中には呪具が120個入っておりました。しかも全て色が黒い物です。マジックバッグの方は使用者権限の解除に時間が掛かるため、まだ把握はあく出来ておりませんが……」

 報告を聞いた響君の顔色が変わる。
 呪具の数と色を知り、儂と同じ事を思ったのだろう。

「偶然ですが、私のパーティーメンバーが発見出来て良かったです。呪具も沢山回収したし、犯人確保に向け頑張って下さいね」

 儂を同じパーティーメンバーだと紹介しおった!
 最初から、そう言ってくれれば助かったのに……。

「はい。これから冒険者にふんしたギルド職員がダンジョンへ潜入し、犯人の特定作業を急ぎます。何とか水際で食い止められるよう尽力じんりょくする所存しょぞんです」

 沙良の言葉に、ヒューは非常にかしこまった態度で深々と頭を下げた。
 そうして儂達は冒険者ギルドをあとにした。
 
 翌日、火曜日。
 普段は午後から摩天楼まてんろうのダンジョンを攻略するのだが、昨日の件もあり情報収集しようと冒険者ギルドに向かった。
 ギルド内の壁を見ると、羊皮紙にダンジョン内に呪具を設置しようとしたアシュカナ帝国人を、30階で18人捕縛した事が書かれている。
 更に、他にもいる可能性があるので、不審な人物を見かけたら報告してほしいと注意書きがあった。
 昨日の今日で18人を捕まえたのか。ギルド職員は優秀なようじゃな。
 感心していると、目の下に濃いくまを作った受付嬢が呼びに来た。

「ギルマスから、お話があるそうです」

 昨夜は対応に追われ、寝ていないのか声に力がない。
 よろよろと歩く受付嬢の後ろを付いて、ギルドマスターの部屋に向かう。
 部屋に入ると、険しい表情をしたヒューが待っていた。
 儂達を見たヒューは即座に立ち上がり一礼する。
 時間がしいとばかりに、儂達を立たせたまま報告を始めた。

「サラさん、お待ちしていました。昨夜、犯人を30階で18人確保しましたが全員ではないようです。あれからマジックバッグの中身を精査したところ、姿変えの魔道具が54個見付かりました。それを考えると、まだ36人の帝国人が摩天楼のダンジョンに潜伏しているとみて間違いないでしょう。その……サラさんは冒険者資格がないのでダンジョンを攻略しないと思いますが、摩天楼の都市にいる間は充分注意を払って下さい。引き続きギルドでは残りの犯人確保に尽力じんりょく致します」

 なんと、まだ36人も犯人が残っていると言うのか?

「まだ36人も敵が残っているんですね。大変だと思いますが、頑張って下さい」

「はい。サラさんが安心して観光・・出来るよう、早急に摩天楼の都市を安全な状態に戻します」

 ふむ。沙良は迷宮都市へ観光に来ている事になっているのか。
 しかし、犯人がまだ居るならダンジョンを攻略するのは止めたほうがいい。
 冒険者ギルドを出てから、沙良が犯人があきらめたと思うか疑問を口にする。
 それを受け、響君は残った敵の数からして、それはないだろうと断言した。
 沙良は、どうにか犯人の先手を打ちたいようで方法を話しだす。
 最終攻略階層の50階が狙われるのが一番ありそうだと仮定し、マジックテント内から魔物を一気に全滅させると言う。
 確かにその方法なら、例え呪具が設置されたとしても魔物が増える事はないだろう。

「なに、怪しい人物がおれば儂が捕まえてやるから安心せい」

 妹に対して過保護な賢也けんやも儂の言葉を聞き納得したので、このまま50階へ移動する事になった。

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