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第一章
クラリスは貴族たちに反発される
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ルーヴェリア王国では喪に服す期間は一か月と決められている。
アルベルトの喪が明けたその日、蒼の宮の大聖堂ではクラリスを正式に王位継承者として定めるための儀式が執り行われた。
「『蒼薔薇の瞳』を宿す者よ」
司祭が王位継承者の証である首飾りを重々しく差し出しながら厳かな声で告げる。
「汝、その瞳より放たれし蒼薔薇の加護を以て民を守るものとならんことを」
司祭のその言葉と同時に、首飾りがクラリスの首に巻き付けられた。拍手と歓声が上がる。静かに目を閉じながらそれらを受けたクラリスの心は、もはや「無」だった。
儀式から数日が経った。
ここ数年体調を崩しがちだった国王ルドヴィクはアルベルトの死後ますます床に臥せる日が増え、王妃であるラフィーナが夫の代わりに政務を執り行うようになっていた。そしてラフィーナは、次期国王となる娘にも政務の席に参加するよう促した。
だが――
「王妃様。お言葉ですが、クラリス様の参加は承服いたしかねます」
「……なぜそのようなことを言うのかしら?」
「クラリス様は確かに『蒼薔薇の瞳』をお持ちであり、なおかつ氷魔法の使い手。王位継承の条件は満たしておられます。しかし如何せん女人であらせられる。この国では久しく女王はたっておらず……クラリス様の即位は慣例に背きます」
貴族の一人のその進言に、周囲の他の貴族たちも同意を示すかのように頷く。ラフィーナの表情が渋くなった。
「では、どうしろと申すのです? 私と陛下の子は今やクラリスとカタリナのみ。カタリナは私と同じ色の瞳ゆえ、王位継承はできません。そもそもそなたたちの理論ではカタリナでも駄目なのでしょう? そうなれば、王家は滅んでしまいます」
アルベルト亡き今、『蒼薔薇の瞳』と氷魔法のどちらも持つのはクラリスただ一人。王家の血統を守るには、たとえその慣例に背こうとクラリスを王位につけるしかないのだ。
しかし、そんなラフィーナの言葉に貴族は返した。
「現在王家には堰を置かずとも、『蒼薔薇の瞳』を持つ者はクラリス様以外にもおられるではありませぬか」
「……まさか」
ラフィーナの表情がやや険を帯びた。
「……王位を、ギルベルトに継がせるとでも?」
「はい。ギルベルト様に王位を継いでいただき、クラリス様にはその正妃となっていただければよいのです。そうすれば現状の王家の血統も保つことができ、なおかつ慣例を守ることができます」
ギルベルト。ルドヴィクの弟の息子――つまり甥であり、クラリスには従兄にあたる男だ。
ギルベルトの父親も『蒼薔薇の瞳』を持ちなおかつ氷魔法の適性があったため王位継承の資格は満たしていたのだが、兄であるルドヴィクがいたので王位継承者とならずに成人後に臣籍降下した。そして貴族の娘を娶り、ギルベルトを含む四人の子をもうけた。そしてギルベルトとその妹・リリスは父親から『蒼薔薇の瞳』を継いで生まれたのだ。『蒼薔薇の瞳』は王家の象徴ではあるが、ギルベルトたちのように親が幼少期は王子王女で『蒼薔薇の瞳』持ちだったために自身もそれを継いだパターンも一定数存在する。とはいえ、『蒼薔薇の瞳』はなかなか引き継がれにくい要素ではあるので少数派ではあるのだが。
「……ギルベルトの噂は皆存じているでしょう? それでもあの子を王にと望むのですが」
ラフィーナは静かに訊ねた。
ギルベルトの噂。先王子の息子であり現王の甥、という地位を有す彼には大小はあれど様々な噂があるが、いいものは全くと言って差し支えないほどにない。身分の貴賤を問わずに片っ端から女性に手を出し、孕ませ、孕ませた女は金を握らせて堕胎させ口封じ。父親であるルドヴィクの弟は早くに亡くなり、唯一咎められるはずの母親は『蒼薔薇の瞳』を持つ息子を尊い存在だと甘やかしに甘やかしを重ねているのでこの愚行も許容するという有様だ。幼い頃からその愚鈍ぶりと性格の悪さは有名で、彼が王位に就こうものならこの国がどうなるかなどわざわざ口にするまでもなかった。
それを踏まえてのラフィーナの問いに貴族たちが一様に口ごもるが、最初に口火を切った貴族は動じなかった。
「女人が王位に就くよりはマシかと」
「……しかし、そもそも女人が王位に就いてはならぬという決まりはありません。あくまでもここ数代にわたって男子の王位継承が続いていただけの話です。クラリスが王となることに何の反発があるのです」
「女など愚かで、王には相応しくない。それだけのことです」
「それを言うならこの私も愚かということになりますが」
「王になるほどの賢さはないということにて。王配なら女でも差し支えありませぬ」
「……」
ラフィーナは不快げに眉を顰める。この貴族は以前から男尊女卑の言動が多くよくルドヴィクからも咎められてきたが、なまじ古い名家であり影響力が強いがゆえにあまりきつくは言えないのが悩みどころだ。
とはいえ、このままでは仮にクラリスが女王となっても貴族たちの反発は必至。ラフィーナは頭を悩ませるのだった。
アルベルトの喪が明けたその日、蒼の宮の大聖堂ではクラリスを正式に王位継承者として定めるための儀式が執り行われた。
「『蒼薔薇の瞳』を宿す者よ」
司祭が王位継承者の証である首飾りを重々しく差し出しながら厳かな声で告げる。
「汝、その瞳より放たれし蒼薔薇の加護を以て民を守るものとならんことを」
司祭のその言葉と同時に、首飾りがクラリスの首に巻き付けられた。拍手と歓声が上がる。静かに目を閉じながらそれらを受けたクラリスの心は、もはや「無」だった。
儀式から数日が経った。
ここ数年体調を崩しがちだった国王ルドヴィクはアルベルトの死後ますます床に臥せる日が増え、王妃であるラフィーナが夫の代わりに政務を執り行うようになっていた。そしてラフィーナは、次期国王となる娘にも政務の席に参加するよう促した。
だが――
「王妃様。お言葉ですが、クラリス様の参加は承服いたしかねます」
「……なぜそのようなことを言うのかしら?」
「クラリス様は確かに『蒼薔薇の瞳』をお持ちであり、なおかつ氷魔法の使い手。王位継承の条件は満たしておられます。しかし如何せん女人であらせられる。この国では久しく女王はたっておらず……クラリス様の即位は慣例に背きます」
貴族の一人のその進言に、周囲の他の貴族たちも同意を示すかのように頷く。ラフィーナの表情が渋くなった。
「では、どうしろと申すのです? 私と陛下の子は今やクラリスとカタリナのみ。カタリナは私と同じ色の瞳ゆえ、王位継承はできません。そもそもそなたたちの理論ではカタリナでも駄目なのでしょう? そうなれば、王家は滅んでしまいます」
アルベルト亡き今、『蒼薔薇の瞳』と氷魔法のどちらも持つのはクラリスただ一人。王家の血統を守るには、たとえその慣例に背こうとクラリスを王位につけるしかないのだ。
しかし、そんなラフィーナの言葉に貴族は返した。
「現在王家には堰を置かずとも、『蒼薔薇の瞳』を持つ者はクラリス様以外にもおられるではありませぬか」
「……まさか」
ラフィーナの表情がやや険を帯びた。
「……王位を、ギルベルトに継がせるとでも?」
「はい。ギルベルト様に王位を継いでいただき、クラリス様にはその正妃となっていただければよいのです。そうすれば現状の王家の血統も保つことができ、なおかつ慣例を守ることができます」
ギルベルト。ルドヴィクの弟の息子――つまり甥であり、クラリスには従兄にあたる男だ。
ギルベルトの父親も『蒼薔薇の瞳』を持ちなおかつ氷魔法の適性があったため王位継承の資格は満たしていたのだが、兄であるルドヴィクがいたので王位継承者とならずに成人後に臣籍降下した。そして貴族の娘を娶り、ギルベルトを含む四人の子をもうけた。そしてギルベルトとその妹・リリスは父親から『蒼薔薇の瞳』を継いで生まれたのだ。『蒼薔薇の瞳』は王家の象徴ではあるが、ギルベルトたちのように親が幼少期は王子王女で『蒼薔薇の瞳』持ちだったために自身もそれを継いだパターンも一定数存在する。とはいえ、『蒼薔薇の瞳』はなかなか引き継がれにくい要素ではあるので少数派ではあるのだが。
「……ギルベルトの噂は皆存じているでしょう? それでもあの子を王にと望むのですが」
ラフィーナは静かに訊ねた。
ギルベルトの噂。先王子の息子であり現王の甥、という地位を有す彼には大小はあれど様々な噂があるが、いいものは全くと言って差し支えないほどにない。身分の貴賤を問わずに片っ端から女性に手を出し、孕ませ、孕ませた女は金を握らせて堕胎させ口封じ。父親であるルドヴィクの弟は早くに亡くなり、唯一咎められるはずの母親は『蒼薔薇の瞳』を持つ息子を尊い存在だと甘やかしに甘やかしを重ねているのでこの愚行も許容するという有様だ。幼い頃からその愚鈍ぶりと性格の悪さは有名で、彼が王位に就こうものならこの国がどうなるかなどわざわざ口にするまでもなかった。
それを踏まえてのラフィーナの問いに貴族たちが一様に口ごもるが、最初に口火を切った貴族は動じなかった。
「女人が王位に就くよりはマシかと」
「……しかし、そもそも女人が王位に就いてはならぬという決まりはありません。あくまでもここ数代にわたって男子の王位継承が続いていただけの話です。クラリスが王となることに何の反発があるのです」
「女など愚かで、王には相応しくない。それだけのことです」
「それを言うならこの私も愚かということになりますが」
「王になるほどの賢さはないということにて。王配なら女でも差し支えありませぬ」
「……」
ラフィーナは不快げに眉を顰める。この貴族は以前から男尊女卑の言動が多くよくルドヴィクからも咎められてきたが、なまじ古い名家であり影響力が強いがゆえにあまりきつくは言えないのが悩みどころだ。
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