怪しい二人 美術商とアウトロー

暇神

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No.8 ふじのやま

File:23 因縁の相手

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 それから更に一か月。俺は変わらず日本のダイアモンドクラス共に一勝すらできず、闘技場の中に籠り切りになっていた。因みにソフィアは自由に出入りできるようになってやがる。チクショウ。
 しかしこの一か月、かなり強くなった実感がある。それに加え、吸血鬼の特性の活かし方もかなり思い付いたし、身に着いた。殆どは実用性の無ぇ物か、限られた状況でしか使えねぇような曲芸だが、それでも一部はかなり有用だ。
「どうしたんだいジョセフ君。やけに張り切っているじゃないか」
「当たり前だろ?遂にアイツと戦えるんだぜ?因縁たっぷりのゴスロリお嬢様とよ」
 今日は待ちに待った、ジングウジサチコとの対戦だ。アイツはダイアモンドクラスの退魔師じゃねぇらしいが、なんでか稀に顔を出す事にしてるらしい。前回来たのは俺が寝た日だったから、今日が初めての手合わせって事になる。
「そうだ。私の物、飲んでおくかい?」
「あぁ。初勝利を飾るなら、今日が良い」
「それなら、どうぞ」
 ソフィアは首を右に傾けながら襟をずらし、白い首筋を露わにした。俺はそこに噛み付き、溢れて来た血液を喉の奥へ押し込んで行く。前にソフィアの血を飲んでからかなりの時間が経っているせいか、以前よりもコイツの血が美味く感じるのが苛々する。
 あ~美味い。だがあんま吸い過ぎるとコイツが貧血で倒れる。能力の強化も理想的な所まで行った。ここまでで十分だ。俺はソフィアの首から口を放し、ついでに消毒、止血を済ませる。
「もう良いのかい?」
「あぁ。もう、十分だ」
「そうかい。それなら、行ってくると良い」
「分かった。行ってくる」
 いつの間にか、サチコの姿は闘技場の中心にあった。奴は『何も話す事は無い』とでも言いたげに、黙ってこちらへ手招きをした。この闘技場での手合わせに明確な合図は無ぇ。だがこの日この時だけは、明確な合図が存在した。
 俺は吸血鬼の特性と身体強化魔術を使い、一気に観客席からサチコの懐まで飛び込んだ。初手で腹か顎を殴るつもりだったが、サチコは当然のように反応し、俺が拳を突き出すよりも先に、俺の顔面を乱暴に殴り飛ばした。
「いきなり顔面かよ!」
 とは言え体重が乗ってねぇ。殴られたってよりは突き飛ばされた感じだ。痛くもねぇ。確かに体勢は崩れたが、この程度なら問題は無ぇ。俺は一旦全身を蝙蝠の群れに変化させ、もう一度人間の姿に戻す事で、体勢を立て直す。
 しかし人間の体が出来上がったと同時に、サチコは俺のみぞおちに右の拳をめり込ませた。今度は腰が入ってやがる。一瞬思考がはじけ飛んだ俺が次の行動を取るよりも先に、サチコは左の拳で俺の頭を地面に叩き付けた。
 やっぱコイツはシュウジと同じだ。脳味噌のテッペンから足の指先までのインファイター。小細工無しの真っ向勝負なら何が何でも勝つタイプ。初手の選択は失敗か。見た目よりもパワーがある。術式らしい術式は使ってねぇ。身体能力を強化する類の術式か?だとすれば隙が無ぇ分面倒だ。
 俺背中を通る血液で、無数の槍を作り出した。強度から考えると避ける意味は無ぇが、こういう奴は初見の攻撃を避けようとする。俺はその隙に両腕で体重を支え、一歩下がったサチコの顔面を蹴る。しかしサチコはそれを受け止め、そのまま俺を壁に向かって投げ付けた。
 俺は受け身を取り、頭を潰そうとしてくるサチコの拳を間一髪躱すが、直ぐに俺の体は上空へ蹴り飛ばされた。俺は自前の翼で空中を移動しながら、血液の武器をサチコへ向けて飛ばし続ける。奴はそれを躱しながら、当然のように俺と同じ高度まで上昇して来る。
 術式による飛行。だがシュウジとは違う直線的な動き。直接飛んでるというよりも、何かの応用で体を空中に留めてる感じだ。だが空中に足場を作って、それを蹴ってる感じでもねぇ。どういう術式だ?だが直線的な分動きも読み易い。
 俺は血液で巨大な槌を作り出し、サチコを地面へ叩き落とそうとする。しかしサチコは当然のようにそれを砕き、もう一度俺を殴ろうとする。俺はそれを躱し、サチコの体を地面へ向けて蹴り飛ばした。だがイマイチ手応えが無ぇ。やっぱ踏ん張りが効かねぇ空中じゃ、コイツに有効な攻撃は出せねぇか。
 だが分かった事はある。コイツ、攻撃の威力や素早さこそシュウジよりも僅かに上だが、技術に関しては粗削りで、我流な部分も多く見える。シュウジ程器用な事はして来ねぇ。その上、耐久力はシュウジと比べ格段に低い。硬ぇは硬ぇが、上手く当てられれば血液の剣でも有効な攻撃になり得る。一秒でも動きを止められれば、俺の勝ちだ。
「黙って戦うなよ寂しいな」
「……生憎、外道と話す言葉の持ち合わせは、そこまで多くございませんの」
「お喋りは嫌いか?合わねぇな」
 俺はそう言いながら、血液の短剣で首を切り裂いた。大量の血液が体から零れ落ち、傷が塞がる。俺はその血液を操作し、両手両足、胸に鎧を作り出し、血液の棍棒を構えた。
「合わねぇからそろそろ、殺してやるよ」
「随分、下に見られた物ですのね」
 勝ち筋は見える。同時に負け筋も。一か月と二週間前に比べれば、この場に存在する全てがよく見える。何が使えるかも想像できる。使えるモン全部使って、コイツに勝ってやる。
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