114 / 153
No.8 ふじのやま
File:23 因縁の相手
しおりを挟む
それから更に一か月。俺は変わらず日本のダイアモンドクラス共に一勝すらできず、闘技場の中に籠り切りになっていた。因みにソフィアは自由に出入りできるようになってやがる。チクショウ。
しかしこの一か月、かなり強くなった実感がある。それに加え、吸血鬼の特性の活かし方もかなり思い付いたし、身に着いた。殆どは実用性の無ぇ物か、限られた状況でしか使えねぇような曲芸だが、それでも一部はかなり有用だ。
「どうしたんだいジョセフ君。やけに張り切っているじゃないか」
「当たり前だろ?遂にアイツと戦えるんだぜ?因縁たっぷりのゴスロリお嬢様とよ」
今日は待ちに待った、ジングウジサチコとの対戦だ。アイツはダイアモンドクラスの退魔師じゃねぇらしいが、なんでか稀に顔を出す事にしてるらしい。前回来たのは俺が寝た日だったから、今日が初めての手合わせって事になる。
「そうだ。私の物、飲んでおくかい?」
「あぁ。初勝利を飾るなら、今日が良い」
「それなら、どうぞ」
ソフィアは首を右に傾けながら襟をずらし、白い首筋を露わにした。俺はそこに噛み付き、溢れて来た血液を喉の奥へ押し込んで行く。前にソフィアの血を飲んでからかなりの時間が経っているせいか、以前よりもコイツの血が美味く感じるのが苛々する。
あ~美味い。だがあんま吸い過ぎるとコイツが貧血で倒れる。能力の強化も理想的な所まで行った。ここまでで十分だ。俺はソフィアの首から口を放し、ついでに消毒、止血を済ませる。
「もう良いのかい?」
「あぁ。もう、十分だ」
「そうかい。それなら、行ってくると良い」
「分かった。行ってくる」
いつの間にか、サチコの姿は闘技場の中心にあった。奴は『何も話す事は無い』とでも言いたげに、黙ってこちらへ手招きをした。この闘技場での手合わせに明確な合図は無ぇ。だがこの日この時だけは、明確な合図が存在した。
俺は吸血鬼の特性と身体強化魔術を使い、一気に観客席からサチコの懐まで飛び込んだ。初手で腹か顎を殴るつもりだったが、サチコは当然のように反応し、俺が拳を突き出すよりも先に、俺の顔面を乱暴に殴り飛ばした。
「いきなり顔面かよ!」
とは言え体重が乗ってねぇ。殴られたってよりは突き飛ばされた感じだ。痛くもねぇ。確かに体勢は崩れたが、この程度なら問題は無ぇ。俺は一旦全身を蝙蝠の群れに変化させ、もう一度人間の姿に戻す事で、体勢を立て直す。
しかし人間の体が出来上がったと同時に、サチコは俺のみぞおちに右の拳をめり込ませた。今度は腰が入ってやがる。一瞬思考がはじけ飛んだ俺が次の行動を取るよりも先に、サチコは左の拳で俺の頭を地面に叩き付けた。
やっぱコイツはシュウジと同じだ。脳味噌のテッペンから足の指先までのインファイター。小細工無しの真っ向勝負なら何が何でも勝つタイプ。初手の選択は失敗か。見た目よりもパワーがある。術式らしい術式は使ってねぇ。身体能力を強化する類の術式か?だとすれば隙が無ぇ分面倒だ。
俺背中を通る血液で、無数の槍を作り出した。強度から考えると避ける意味は無ぇが、こういう奴は初見の攻撃を避けようとする。俺はその隙に両腕で体重を支え、一歩下がったサチコの顔面を蹴る。しかしサチコはそれを受け止め、そのまま俺を壁に向かって投げ付けた。
俺は受け身を取り、頭を潰そうとしてくるサチコの拳を間一髪躱すが、直ぐに俺の体は上空へ蹴り飛ばされた。俺は自前の翼で空中を移動しながら、血液の武器をサチコへ向けて飛ばし続ける。奴はそれを躱しながら、当然のように俺と同じ高度まで上昇して来る。
術式による飛行。だがシュウジとは違う直線的な動き。直接飛んでるというよりも、何かの応用で体を空中に留めてる感じだ。だが空中に足場を作って、それを蹴ってる感じでもねぇ。どういう術式だ?だが直線的な分動きも読み易い。
俺は血液で巨大な槌を作り出し、サチコを地面へ叩き落とそうとする。しかしサチコは当然のようにそれを砕き、もう一度俺を殴ろうとする。俺はそれを躱し、サチコの体を地面へ向けて蹴り飛ばした。だがイマイチ手応えが無ぇ。やっぱ踏ん張りが効かねぇ空中じゃ、コイツに有効な攻撃は出せねぇか。
だが分かった事はある。コイツ、攻撃の威力や素早さこそシュウジよりも僅かに上だが、技術に関しては粗削りで、我流な部分も多く見える。シュウジ程器用な事はして来ねぇ。その上、耐久力はシュウジと比べ格段に低い。硬ぇは硬ぇが、上手く当てられれば血液の剣でも有効な攻撃になり得る。一秒でも動きを止められれば、俺の勝ちだ。
「黙って戦うなよ寂しいな」
「……生憎、外道と話す言葉の持ち合わせは、そこまで多くございませんの」
「お喋りは嫌いか?合わねぇな」
俺はそう言いながら、血液の短剣で首を切り裂いた。大量の血液が体から零れ落ち、傷が塞がる。俺はその血液を操作し、両手両足、胸に鎧を作り出し、血液の棍棒を構えた。
「合わねぇからそろそろ、殺してやるよ」
「随分、下に見られた物ですのね」
勝ち筋は見える。同時に負け筋も。一か月と二週間前に比べれば、この場に存在する全てがよく見える。何が使えるかも想像できる。使えるモン全部使って、コイツに勝ってやる。
しかしこの一か月、かなり強くなった実感がある。それに加え、吸血鬼の特性の活かし方もかなり思い付いたし、身に着いた。殆どは実用性の無ぇ物か、限られた状況でしか使えねぇような曲芸だが、それでも一部はかなり有用だ。
「どうしたんだいジョセフ君。やけに張り切っているじゃないか」
「当たり前だろ?遂にアイツと戦えるんだぜ?因縁たっぷりのゴスロリお嬢様とよ」
今日は待ちに待った、ジングウジサチコとの対戦だ。アイツはダイアモンドクラスの退魔師じゃねぇらしいが、なんでか稀に顔を出す事にしてるらしい。前回来たのは俺が寝た日だったから、今日が初めての手合わせって事になる。
「そうだ。私の物、飲んでおくかい?」
「あぁ。初勝利を飾るなら、今日が良い」
「それなら、どうぞ」
ソフィアは首を右に傾けながら襟をずらし、白い首筋を露わにした。俺はそこに噛み付き、溢れて来た血液を喉の奥へ押し込んで行く。前にソフィアの血を飲んでからかなりの時間が経っているせいか、以前よりもコイツの血が美味く感じるのが苛々する。
あ~美味い。だがあんま吸い過ぎるとコイツが貧血で倒れる。能力の強化も理想的な所まで行った。ここまでで十分だ。俺はソフィアの首から口を放し、ついでに消毒、止血を済ませる。
「もう良いのかい?」
「あぁ。もう、十分だ」
「そうかい。それなら、行ってくると良い」
「分かった。行ってくる」
いつの間にか、サチコの姿は闘技場の中心にあった。奴は『何も話す事は無い』とでも言いたげに、黙ってこちらへ手招きをした。この闘技場での手合わせに明確な合図は無ぇ。だがこの日この時だけは、明確な合図が存在した。
俺は吸血鬼の特性と身体強化魔術を使い、一気に観客席からサチコの懐まで飛び込んだ。初手で腹か顎を殴るつもりだったが、サチコは当然のように反応し、俺が拳を突き出すよりも先に、俺の顔面を乱暴に殴り飛ばした。
「いきなり顔面かよ!」
とは言え体重が乗ってねぇ。殴られたってよりは突き飛ばされた感じだ。痛くもねぇ。確かに体勢は崩れたが、この程度なら問題は無ぇ。俺は一旦全身を蝙蝠の群れに変化させ、もう一度人間の姿に戻す事で、体勢を立て直す。
しかし人間の体が出来上がったと同時に、サチコは俺のみぞおちに右の拳をめり込ませた。今度は腰が入ってやがる。一瞬思考がはじけ飛んだ俺が次の行動を取るよりも先に、サチコは左の拳で俺の頭を地面に叩き付けた。
やっぱコイツはシュウジと同じだ。脳味噌のテッペンから足の指先までのインファイター。小細工無しの真っ向勝負なら何が何でも勝つタイプ。初手の選択は失敗か。見た目よりもパワーがある。術式らしい術式は使ってねぇ。身体能力を強化する類の術式か?だとすれば隙が無ぇ分面倒だ。
俺背中を通る血液で、無数の槍を作り出した。強度から考えると避ける意味は無ぇが、こういう奴は初見の攻撃を避けようとする。俺はその隙に両腕で体重を支え、一歩下がったサチコの顔面を蹴る。しかしサチコはそれを受け止め、そのまま俺を壁に向かって投げ付けた。
俺は受け身を取り、頭を潰そうとしてくるサチコの拳を間一髪躱すが、直ぐに俺の体は上空へ蹴り飛ばされた。俺は自前の翼で空中を移動しながら、血液の武器をサチコへ向けて飛ばし続ける。奴はそれを躱しながら、当然のように俺と同じ高度まで上昇して来る。
術式による飛行。だがシュウジとは違う直線的な動き。直接飛んでるというよりも、何かの応用で体を空中に留めてる感じだ。だが空中に足場を作って、それを蹴ってる感じでもねぇ。どういう術式だ?だが直線的な分動きも読み易い。
俺は血液で巨大な槌を作り出し、サチコを地面へ叩き落とそうとする。しかしサチコは当然のようにそれを砕き、もう一度俺を殴ろうとする。俺はそれを躱し、サチコの体を地面へ向けて蹴り飛ばした。だがイマイチ手応えが無ぇ。やっぱ踏ん張りが効かねぇ空中じゃ、コイツに有効な攻撃は出せねぇか。
だが分かった事はある。コイツ、攻撃の威力や素早さこそシュウジよりも僅かに上だが、技術に関しては粗削りで、我流な部分も多く見える。シュウジ程器用な事はして来ねぇ。その上、耐久力はシュウジと比べ格段に低い。硬ぇは硬ぇが、上手く当てられれば血液の剣でも有効な攻撃になり得る。一秒でも動きを止められれば、俺の勝ちだ。
「黙って戦うなよ寂しいな」
「……生憎、外道と話す言葉の持ち合わせは、そこまで多くございませんの」
「お喋りは嫌いか?合わねぇな」
俺はそう言いながら、血液の短剣で首を切り裂いた。大量の血液が体から零れ落ち、傷が塞がる。俺はその血液を操作し、両手両足、胸に鎧を作り出し、血液の棍棒を構えた。
「合わねぇからそろそろ、殺してやるよ」
「随分、下に見られた物ですのね」
勝ち筋は見える。同時に負け筋も。一か月と二週間前に比べれば、この場に存在する全てがよく見える。何が使えるかも想像できる。使えるモン全部使って、コイツに勝ってやる。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
月華後宮伝
織部ソマリ
キャラ文芸
★10/30よりコミカライズが始まりました!どうぞよろしくお願いします!
◆神託により後宮に入ることになった『跳ねっ返りの薬草姫』と呼ばれている凛花。冷徹で女嫌いとの噂がある皇帝・紫曄の妃となるのは気が進まないが、ある目的のために月華宮へ行くと心に決めていた。凛花の秘めた目的とは、皇帝の寵を得ることではなく『虎に変化してしまう』という特殊すぎる体質の秘密を解き明かすこと! だが後宮入り早々、凛花は紫曄に秘密を知られてしまう。しかし同じく秘密を抱えている紫曄は、凛花に「抱き枕になれ」と予想外なことを言い出して――?
◆第14回恋愛小説大賞【中華後宮ラブ賞】受賞。ありがとうございます!
◆旧題:月華宮の虎猫の妃は眠れぬ皇帝の膝の上 ~不本意ながらモフモフ抱き枕を拝命いたします~
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる