謎色の空と無色の魔女

暇神

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真章

真十二章 授業

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 あの後、ギルドの職員さんが起きて、ギルドに追加の人員を寄越すように言ってくれたらしく、来てくれた職員さん達に、私達は一旦帰るように言われた。
 その日は疲れていたのか、ベッドに横になると、制服のまま寝てしまった。

 翌日、私と顔を合わせたマリアは、ぎょっとした顔になった。
「ライラ!?制服が皺だらけですわよ!?」
「うん。ちょっと昨日制服のまま寝ちゃってね。丁度次の休みは四連休だし、その時に戻すよ」
「次って……まだ三日ありますわよ?言ってくれれば、私のを貸しましたのに……」
「ははは。明日からはそうさせてもらうね」
 そんな事を言いながら朝食を済ませ、私達は授業へ向かった。今日は、『実践的な魔術』についての授業だったか。まだ十歳にもならない子供に教える事か?昨日あんな事やっておいてこう言うのも変だが。
 まあ、実践時に役立つのを教えて貰えるのはありがたい。しっかり受けよう。
 そして授業。運動場に行った私達を待ち受けていたのは、『鬼教師』と噂のアーノルド・リューク・インデルベルト先生だった。彼は貴族でありながら、冒険者としての地位を確立させており、階級は一番上のSランクらしい。今は一線を退き、教職に就いているが、その力は未だ衰え知らずらしい。
 この人の授業を受けて、疲弊し切らなかった人物は居ないらしい。アレンさんも、『アレは人の受ける授業じゃない』と言っていた。ちょっと楽しみ。
「ヒヨッコ共お!準備は良いかあ!これより、『実践的な魔術』の授業を始めえる!号令!」
「気を付け!礼!」
「「おねがいします!」」
 この授業を受ける人間は、そこそこ少ない。私を含めても、特待生の十人に加え、一部のやる気のありそうな生徒だけだ。これは相当キツそうだ。
「俺も授業で、俺に対して言って良い言葉は、号令を除き、『イエッサー』か、『了解』だけだ!分かったな!?」
「「はい!」」
 いや軍隊かな?そんな言葉、学校で始めて聞いた……いや、時々運動場から聞こえてたな。アレはこの為か。
「よおしでは手始めに、実践訓練を始める!全員!俺に向かって、攻撃して来い!」
 それを聞いた途端、この場に居た全員がざわつき始めた。流石にこれは、授業としては余りに異質だ。こうなるのも頷ける。だけど、楽しそうだ。
 しかし、この場に水を指したのは、王子様率いる、トップ三人衆だった。
「先生!この場には、特待生含め、二十人の生徒が居ます!流石に、内容を考え直す必要があると考えます!」
 その言葉を聞いた先生は、ニヤリと笑って言い返した。
「返事は『イエッサー』か、『了解』の二択だと言った筈だが?安心しろ。俺の授業で、貴様等が怪我をする事は無い。存分に掛かって来い」
 そう言った先生は、素手で戦う構えをした。しっかりと鍛えられた肉体が、攻撃を受け止め、反撃する体制を取っている。あくまでも、自分からは手を出さない気らしい。
 しかし、そんな態度を取られると、少し悔しい部分がある。意地でも、自分から手を出させてやる。
「皆、ここは作戦を立てて……」
「うるせえ!平民の意見なんぞ聞くか!」
「あんな事を言われて、黙っている訳には行かない!」
「君はそこで大人しく見ててください」
 そう言って、王子様三人組は、先生へ一直線に向かって行った。あの頭の足りん脳金共が。
 それを見た他の人達も、「王子を援護しろ!」とか言って、へなちょこな魔術を先生に向けた。ああもう厄介な物だなお貴族様のプライドってのは!
「貰ったあ!」
 先生に接近した実力派君は、訓練用の木刀を振り上げた。しかし、先生はそれを見切っていた。
「甘い!」
 自信満々に振り下ろされた木刀は、先生の腕に難無く弾き飛ばされた。驚いた顔をした貴族達を、先生は容赦無く投げ飛ばす。怪我とかは無さそうだが、凄い腕前だ。
 魔術で援護しようとしていた生徒達も、先生に投げ飛ばされた。そして、残ったのは私一人だけになった。
「最後だな。掛かって来い」
 先生は再び構え、私の出方を伺う。その余裕そうな顔、少しは驚きを混ぜてやる。
 私は魔力で魔法陣を描き、少し前に見かけた魔術を試す。

身体強化パンプアップ!」

 私は先生の背後を取り、訓練用の木刀を振った。先生はそれを受け止め、そのまま私を投げ飛ばした。私は空中で体制を整え、魔法陣を使った魔力弾マギ・バレットを数発撃つ。先生はそれを生身で受け止める。あれで魔術無しとか、どんな鍛え方してんだ。
 着地した私は、再び先生の方へと向かう。その度に投げ飛ばされ、また向かう。今は敵わない相手の攻略法を探すのが、少し楽しかった。
 こんな無茶な使い方をしていたからか、ものの十分で、私の魔力は底を尽きた。私はその場に膝を付き、頭を下げる。
「参りました」
 それを見た先生は、汗一つかいていない顔で、私を称賛した。
「ライラだったか。粗削りな魔術とは言え、よくぞあそこまで頑張ろうとした。他の者は使っていなかった身体強化パンプアップを使ったのも素晴らしい。剣術も、その年にしてはマシな方だ。今後の活躍を期待する」
「ありがとうございます」
 そして先生は授業を終えて、校舎へと戻って行った。私は汗だくな体を、持って来ていたタオルで拭いた。暑い。
 しかし、良い授業だ。魔術についてどうこう教わった訳じゃないけど、それは次回以降という事だろうか。楽しい授業だった。

 汗を拭き終わった私は、嫉妬か何かが籠った視線を背中に受けながら、校舎へと戻った。
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