優の異世界ごはん日記

風待 結

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村の試練と新たな仲間

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日記、四日目。



この世界に来て四日目。  
昨日、初めてこの世界のキッチンで料理を作った。  
ミストマッシュルームのスープとサファイアベリーのコンポートは、村人たちに大好評だった。  
みんなの笑顔を見たら、この世界でも料理が通用するって確信したよ。  
でも、今日、ちょっとした試練が待っていた。  
この村には、料理に対する厳しい目を持った人がいるみたいだ。  
そして、新しい仲間との出会いもあった。  
この世界、ほんと毎日が驚きの連続だ。  


---


朝、宿屋「オークの休息」の食堂で目を覚ました。  
昨日は遅くまで村人たちと話してたから、ちょっと寝不足だ。  
リナが食堂のテーブルでパンとスープを食べながら、ニコニコしてる。  

「優、昨日はほんとすごかったよ! 村のみんなもすっごく喜んでた!カールさんなんて、いつもの三倍はスープおかわりしてたからね!」  

「はは、ほんと? カールさん、めっちゃ食べてたもんね。でも…食材が限られてるから、もっと色々試したいな。」  

リナは、パンをかじりながらうなずいた。  

「だよね! 今日はさ、市場に行ってみない?  オークウェルには小さいけど市場があるんだ。そこで食材とか調味料とか手に入るかも。」  

「市場!? へえ、いいね!絶対行きたい!」  

市場って聞くとなんだかワクワクする。  
この世界の食材はどんなものがあるんだろう?  
ルミナフラワーの蜜みたいな、面白いものが見つかるかもしれない。  

宿屋を出て、村の中心に向かった。  
オークウェルの市場は、広場に木の屋台がいくつか並んでる程度の小さなものだった。  
野菜や果物、干し肉、チーズみたいなものが並んでる。  
でも、都会のスーパーとは全然違う。  
野菜はちょっと不揃いで、土がついたまま。  
果物は、見たことない形や色のものが多くて、ちょっとドキドキする。  

「ほら、優、これ見て!  これはねー、クラグポテト!  ジャガイモより甘くて、煮込むとトロッとするんだ。」  

リナが、ゴツゴツした赤い根菜を手に持って見せてくれた。  

「へえ、面白そう!  これはスープに入れたら濃厚になりそうだね。他にはどんなのがある?」  

市場を歩きながら、色んな屋台を覗いた。  
青い皮のリンゴみたいな果物、乾燥した魚、なんだか光ってるスパイス。  
スパイスは『ファイアペッパー』って名前で、触るとピリッと熱い感じがする。  
これ、辛えのかな?  
でも、何かのアクセントに使えそう。  

その時、屋台の向こうで、誰かが大声で話してるのが聞こえた。  

「おい、そこの若造!  
お前が、昨日、宿屋でスープ作ったってやつか?」  

振り返ると、背の高い女性が立っていた。  
赤い髪を短く切ってて、革のエプロンを着てる。  
手に持ってるのは、でっかい包丁。  
なんか、めっちゃ迫力ある。  

「え、はい、僕ですけど……。」  

「ふん、見た目はひ弱そうじゃねえか。  
俺はマリア、村の料理番だ。お前のスープ、村で評判になってるみたいだが、俺の料理を越えられると思うなよ!」  

マリアは、腕を組んで、ニヤリと笑った。  
料理番?  
ってことは、この村の料理のプロってこと?  

リナが、ちょっと焦った顔で耳元でささやいた。  

「優、あの人はマリアさん、村で一番の料理人なんだ。でも、ちょっと気難しい人で……。 昨日のスープが気に入らなかったみたい。」  

「気に入らなかった!?  でも、みんな美味しいって言ってたじゃん!」  

「うん、でも、マリアさんは自分の料理が一番だと思ってるからさ。 多分、優が目立っちゃって、ライバル視してるんだよ。」  

マリアが、ズカズカと近づいてきた。  

「お前、別の世界から来たって話だな。  
ふん、どんな料理作るか、俺に見せてみろよ。 今夜、宿屋で料理対決だ!  村の皆に、どっちの料理が美味いか、決めてもらうぞ!」  

「料理対決!?」  

心臓がドキッとした。  
この世界に来て、まだ四日目なのに、こんな展開!?  
でも、なんだか燃えてきた。  
料理で勝負するなんて、僕の得意分野だ。  

「…わかった。いいよ、マリアさん。受けて立つよ!  どんなルール?」  

マリアは、ニヤッと笑って答えた。  

「簡単だ。村にある食材だけで、メイン料理とデザートを作る。時間は日没まで。  
材料は市場で買ってもいいし、森で集めてもいい。どうだ、できるか?」  

「うん、やってみるよ!」  

リナが、目をキラキラさせて言った。  

「やった!  優、絶対勝ってよ!  
マリアさんの料理は美味しいけど、いつも同じ味なんだよね。 優の料理なら、絶対みんな驚くよ!」  

マリアは、フンと鼻を鳴らして去っていった。  
なんか、めっちゃ強敵っぽいな。  
でも、負けるわけにはいかない。  

---

市場で食材を物色しながら、頭の中でメニューを考え始めた。  
メインはゴブリンホッグの肉を柔らかくしたローストにしよう。  
昨日は干し肉の硬さに苦労したから、今回はしっとりジューシーに仕上げたい。  
森で採ったリバーリーフを使って、香草焼きにすれば、獣臭さも消せるはず。  
デザートは、クラグポテトを使った何か。  
甘いから、焼き菓子にしたら面白いかも。  
ルミナフラワーの蜜で甘みを足して、簡単なタルト風にしよう。  

「リナ、森にまた行って、ちょっと食材集めたいんだけど、付き合ってくれる?」  

「もちろん! マリアさんに勝つためなら、なんでも協力するよ! それに森なら新しい食材見つかるかもしれないし!」  

そうして、僕とリナは再び森へ向かった。  
リバーリーフは、昨日見つけた川辺にたくさん生えてる。  
その近くで、別の面白い植物を見つけた。  
『スタードロップ』という小さな黄色い実で、かじるとレモンみたいな酸味がある。  
これはタルトのアクセントにピッタリだ。  

森を歩いてると、突然、ガサガサッと音がした。  
リナが、すぐに弓を構えた。  

「優、下がって!  何かいる!」  

木の陰から、ふわっとした影が現れた。  
モンスター!?  
あれ?でも、よく見ると、なんか……可愛い?  
ふわふわの毛に覆われた、小さな生き物。  
ウサギみたいだけど、背中に小さな羽が生えてる。  

「これ、フェザーモルだ!  モンスターだけど、襲ってくるタイプじゃないよ。  でも、すっごくレアな食材なんだ!」  

「食材!?  
こんな可愛いのに!?」  

「うん、フェザーモルの羽は食べるとふわっとした食感になるんだって。  スープやデザートに混ぜると、めっちゃ美味しくなるらしいよ!」  

リナは、興奮気味に説明してくれた。  
こんな可愛い生き物を食べるなんて、ちょっと抵抗あるな……。  
でも、この世界じゃ、それが普通なのかも。  

「よし、じゃあ、捕まえてみるか。優、優しく捕まえてね。  フェザーモルは怖がりだから。」  

リナに教わりながらそっとフェザーモルに近づいた。  
手に持ったサファイアベリーを差し出すと、モルがクンクンと匂いを嗅いで寄ってきた。  
そのまま、優しく抱き上げると、モルはピピッと小さな声で鳴いた。  
可愛い……けど、食材か。  

「これ、どうやって調理するの?」  

「羽だけ使うんだよ。 モル自体は傷つけずに、羽を少し採ればいい。自然に生え変わるから、大丈夫!」  

ほっとした。  
殺さなくていいなら、安心だ。  
フェザーモルの羽を少し採って、布の袋に入れた。  

---

夕方、宿屋に戻って、キッチンで準備を始めた。  
ゴブリンホッグの肉は、リバーリーフとファイアペッパーでマリネして、薪の火でじっくり焼く。  
クラグポテトは、潰してルミナフラワーの蜜と混ぜ、スタードロップの果汁を加えてタルト生地に。  
フェザーモルの羽は、細かく砕いてタルトのトッピングにしてみた。  
焼くと、羽がふわっと溶けて、キラキラした粉になるらしい。  

調理中、リナがキッチンを覗きに来た。  

「うわ、めっちゃいい匂い!  優、これ、絶対勝てるよ!」  

「まだわかんないよ。  マリアさんの料理はどんなの出てくるんだろう?」  

日没になり、食堂は村人たちでいっぱいになった。  
マリアは、大きな鍋と皿を持って現れた。  
彼女の料理は、ゴブリンホッグのシチューと、シンプルなフルーツの盛り合わせ。  
シチューは、濃厚な香りがして、確かに美味しそう。  
でも、ちょっと油っぽい感じがする。  

村人たちが、僕とマリアの料理を交互に食べ始めた。  
僕のローストは、肉が柔らかくて、リバーリーフの香りが広がる。  
タルトは、クラグポテトの甘みとスタードロップの酸味が絶妙で、フェザーモルの羽がキラキラ光る。  

村人たちの反応は、熱狂的だった。  

「優のロースト、めっちゃジューシーだな!こんなゴブリンホッグは初めてだ!」  

「タルトは甘酸っぱくて、なんかキラキラしてる!  素敵!魔法みたい!」  

マリアのシチューも好評だったけど、僕の料理の方が話題をさらった。  
マリアはちょっとムッとした顔で、僕に近づいてきた。  

「お前、なかなかやるじゃねえか。 認めるよ、今回の勝負はお前の勝ちだ。だが次は負けねえからな!」  

「はは、ありがとう、マリアさん。でも、僕も負けないよ!」  

マリアは笑って肩を叩いてきた。  
なんか、ライバルだけど、いい人っぽいな。  

その夜の食堂は笑い声でいっぱいだった。  
リナはタルトを頬張りながら、目を輝かせてた。  

「優、ほんとすごいよ!  次は王都でこの料理、試してみようよ!」  

王都、ルミエール。  
料理コンテストの話がますます現実味を帯びてきた。  
この村で、もっと料理を磨いて、いつか王都で挑戦してみたいな。  

この日記もリナがまた紙を貸してくれた。  
彼女、ほんと、いい仲間だ。  
ちゃんと返さないとな。
明日も、新しい食材を探して、料理の冒険を続けよう。  



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