5 / 80
村の試練と新たな仲間
しおりを挟む日記、四日目。
この世界に来て四日目。
昨日、初めてこの世界のキッチンで料理を作った。
ミストマッシュルームのスープとサファイアベリーのコンポートは、村人たちに大好評だった。
みんなの笑顔を見たら、この世界でも料理が通用するって確信したよ。
でも、今日、ちょっとした試練が待っていた。
この村には、料理に対する厳しい目を持った人がいるみたいだ。
そして、新しい仲間との出会いもあった。
この世界、ほんと毎日が驚きの連続だ。
---
朝、宿屋「オークの休息」の食堂で目を覚ました。
昨日は遅くまで村人たちと話してたから、ちょっと寝不足だ。
リナが食堂のテーブルでパンとスープを食べながら、ニコニコしてる。
「優、昨日はほんとすごかったよ! 村のみんなもすっごく喜んでた!カールさんなんて、いつもの三倍はスープおかわりしてたからね!」
「はは、ほんと? カールさん、めっちゃ食べてたもんね。でも…食材が限られてるから、もっと色々試したいな。」
リナは、パンをかじりながらうなずいた。
「だよね! 今日はさ、市場に行ってみない? オークウェルには小さいけど市場があるんだ。そこで食材とか調味料とか手に入るかも。」
「市場!? へえ、いいね!絶対行きたい!」
市場って聞くとなんだかワクワクする。
この世界の食材はどんなものがあるんだろう?
ルミナフラワーの蜜みたいな、面白いものが見つかるかもしれない。
宿屋を出て、村の中心に向かった。
オークウェルの市場は、広場に木の屋台がいくつか並んでる程度の小さなものだった。
野菜や果物、干し肉、チーズみたいなものが並んでる。
でも、都会のスーパーとは全然違う。
野菜はちょっと不揃いで、土がついたまま。
果物は、見たことない形や色のものが多くて、ちょっとドキドキする。
「ほら、優、これ見て! これはねー、クラグポテト! ジャガイモより甘くて、煮込むとトロッとするんだ。」
リナが、ゴツゴツした赤い根菜を手に持って見せてくれた。
「へえ、面白そう! これはスープに入れたら濃厚になりそうだね。他にはどんなのがある?」
市場を歩きながら、色んな屋台を覗いた。
青い皮のリンゴみたいな果物、乾燥した魚、なんだか光ってるスパイス。
スパイスは『ファイアペッパー』って名前で、触るとピリッと熱い感じがする。
これ、辛えのかな?
でも、何かのアクセントに使えそう。
その時、屋台の向こうで、誰かが大声で話してるのが聞こえた。
「おい、そこの若造!
お前が、昨日、宿屋でスープ作ったってやつか?」
振り返ると、背の高い女性が立っていた。
赤い髪を短く切ってて、革のエプロンを着てる。
手に持ってるのは、でっかい包丁。
なんか、めっちゃ迫力ある。
「え、はい、僕ですけど……。」
「ふん、見た目はひ弱そうじゃねえか。
俺はマリア、村の料理番だ。お前のスープ、村で評判になってるみたいだが、俺の料理を越えられると思うなよ!」
マリアは、腕を組んで、ニヤリと笑った。
料理番?
ってことは、この村の料理のプロってこと?
リナが、ちょっと焦った顔で耳元でささやいた。
「優、あの人はマリアさん、村で一番の料理人なんだ。でも、ちょっと気難しい人で……。 昨日のスープが気に入らなかったみたい。」
「気に入らなかった!? でも、みんな美味しいって言ってたじゃん!」
「うん、でも、マリアさんは自分の料理が一番だと思ってるからさ。 多分、優が目立っちゃって、ライバル視してるんだよ。」
マリアが、ズカズカと近づいてきた。
「お前、別の世界から来たって話だな。
ふん、どんな料理作るか、俺に見せてみろよ。 今夜、宿屋で料理対決だ! 村の皆に、どっちの料理が美味いか、決めてもらうぞ!」
「料理対決!?」
心臓がドキッとした。
この世界に来て、まだ四日目なのに、こんな展開!?
でも、なんだか燃えてきた。
料理で勝負するなんて、僕の得意分野だ。
「…わかった。いいよ、マリアさん。受けて立つよ! どんなルール?」
マリアは、ニヤッと笑って答えた。
「簡単だ。村にある食材だけで、メイン料理とデザートを作る。時間は日没まで。
材料は市場で買ってもいいし、森で集めてもいい。どうだ、できるか?」
「うん、やってみるよ!」
リナが、目をキラキラさせて言った。
「やった! 優、絶対勝ってよ!
マリアさんの料理は美味しいけど、いつも同じ味なんだよね。 優の料理なら、絶対みんな驚くよ!」
マリアは、フンと鼻を鳴らして去っていった。
なんか、めっちゃ強敵っぽいな。
でも、負けるわけにはいかない。
---
市場で食材を物色しながら、頭の中でメニューを考え始めた。
メインはゴブリンホッグの肉を柔らかくしたローストにしよう。
昨日は干し肉の硬さに苦労したから、今回はしっとりジューシーに仕上げたい。
森で採ったリバーリーフを使って、香草焼きにすれば、獣臭さも消せるはず。
デザートは、クラグポテトを使った何か。
甘いから、焼き菓子にしたら面白いかも。
ルミナフラワーの蜜で甘みを足して、簡単なタルト風にしよう。
「リナ、森にまた行って、ちょっと食材集めたいんだけど、付き合ってくれる?」
「もちろん! マリアさんに勝つためなら、なんでも協力するよ! それに森なら新しい食材見つかるかもしれないし!」
そうして、僕とリナは再び森へ向かった。
リバーリーフは、昨日見つけた川辺にたくさん生えてる。
その近くで、別の面白い植物を見つけた。
『スタードロップ』という小さな黄色い実で、かじるとレモンみたいな酸味がある。
これはタルトのアクセントにピッタリだ。
森を歩いてると、突然、ガサガサッと音がした。
リナが、すぐに弓を構えた。
「優、下がって! 何かいる!」
木の陰から、ふわっとした影が現れた。
モンスター!?
あれ?でも、よく見ると、なんか……可愛い?
ふわふわの毛に覆われた、小さな生き物。
ウサギみたいだけど、背中に小さな羽が生えてる。
「これ、フェザーモルだ! モンスターだけど、襲ってくるタイプじゃないよ。 でも、すっごくレアな食材なんだ!」
「食材!?
こんな可愛いのに!?」
「うん、フェザーモルの羽は食べるとふわっとした食感になるんだって。 スープやデザートに混ぜると、めっちゃ美味しくなるらしいよ!」
リナは、興奮気味に説明してくれた。
こんな可愛い生き物を食べるなんて、ちょっと抵抗あるな……。
でも、この世界じゃ、それが普通なのかも。
「よし、じゃあ、捕まえてみるか。優、優しく捕まえてね。 フェザーモルは怖がりだから。」
リナに教わりながらそっとフェザーモルに近づいた。
手に持ったサファイアベリーを差し出すと、モルがクンクンと匂いを嗅いで寄ってきた。
そのまま、優しく抱き上げると、モルはピピッと小さな声で鳴いた。
可愛い……けど、食材か。
「これ、どうやって調理するの?」
「羽だけ使うんだよ。 モル自体は傷つけずに、羽を少し採ればいい。自然に生え変わるから、大丈夫!」
ほっとした。
殺さなくていいなら、安心だ。
フェザーモルの羽を少し採って、布の袋に入れた。
---
夕方、宿屋に戻って、キッチンで準備を始めた。
ゴブリンホッグの肉は、リバーリーフとファイアペッパーでマリネして、薪の火でじっくり焼く。
クラグポテトは、潰してルミナフラワーの蜜と混ぜ、スタードロップの果汁を加えてタルト生地に。
フェザーモルの羽は、細かく砕いてタルトのトッピングにしてみた。
焼くと、羽がふわっと溶けて、キラキラした粉になるらしい。
調理中、リナがキッチンを覗きに来た。
「うわ、めっちゃいい匂い! 優、これ、絶対勝てるよ!」
「まだわかんないよ。 マリアさんの料理はどんなの出てくるんだろう?」
日没になり、食堂は村人たちでいっぱいになった。
マリアは、大きな鍋と皿を持って現れた。
彼女の料理は、ゴブリンホッグのシチューと、シンプルなフルーツの盛り合わせ。
シチューは、濃厚な香りがして、確かに美味しそう。
でも、ちょっと油っぽい感じがする。
村人たちが、僕とマリアの料理を交互に食べ始めた。
僕のローストは、肉が柔らかくて、リバーリーフの香りが広がる。
タルトは、クラグポテトの甘みとスタードロップの酸味が絶妙で、フェザーモルの羽がキラキラ光る。
村人たちの反応は、熱狂的だった。
「優のロースト、めっちゃジューシーだな!こんなゴブリンホッグは初めてだ!」
「タルトは甘酸っぱくて、なんかキラキラしてる! 素敵!魔法みたい!」
マリアのシチューも好評だったけど、僕の料理の方が話題をさらった。
マリアはちょっとムッとした顔で、僕に近づいてきた。
「お前、なかなかやるじゃねえか。 認めるよ、今回の勝負はお前の勝ちだ。だが次は負けねえからな!」
「はは、ありがとう、マリアさん。でも、僕も負けないよ!」
マリアは笑って肩を叩いてきた。
なんか、ライバルだけど、いい人っぽいな。
その夜の食堂は笑い声でいっぱいだった。
リナはタルトを頬張りながら、目を輝かせてた。
「優、ほんとすごいよ! 次は王都でこの料理、試してみようよ!」
王都、ルミエール。
料理コンテストの話がますます現実味を帯びてきた。
この村で、もっと料理を磨いて、いつか王都で挑戦してみたいな。
この日記もリナがまた紙を貸してくれた。
彼女、ほんと、いい仲間だ。
ちゃんと返さないとな。
明日も、新しい食材を探して、料理の冒険を続けよう。
238
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
ブックマーク・評価、宜しくお願いします。
うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。
かの
ファンタジー
孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。
ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜
キノア9g
ファンタジー
※本作はフィクションです。
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」
20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。
一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。
毎日19時更新予定。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる