剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?七本目っ!少女の夢見た世界、遠き旅路の果てに。

月芝

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033 ヤシガード・ごうじゃす

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 発見された抜け道は年代を感じさせないしっかりした造り。
 とはいえ、軍勢を大量に送り込めるほどに広くはない。
 それに攻略する側にはじつに都合のいい展開ゆえに、ひょっとしたら罠という可能性もある。ホクホク顔で抜け道を進んだら敵勢が手ぐすねひいて待っていた! なんてことも考えられる。途中には侵入者防止の仕掛けだってわんさか。
 迅速に潜入し、すみやかに地下通路を抜けて、城に入ってザックリ第八王子の首を刈る。
 今回の任務を達成するのに必要な人選はおのずと限定されてくる。
 暗殺部隊はアスラと彼の手勢を中心に構成され、道案内役としてわたしが同行することになった。
 わたしが参加することにラクシュ殿下は最後まで難色を示していたが、ついには折れた。
 難解な地図をにらみながらでは道行きがはかどらない。その点、わたしと天剣たちがいればスイスイ迷わず、ほとんど立ち止まらずに進める。
 かつてクンルン国の試練の迷宮をありえない速度で攻略したのは伊達ではない。

  ◇

 潜入作戦決行当日。
 外壁をにらむように陣取っているラクシュ殿下の軍勢では、盛大にかがり火が焚かれていた。
 これに守る側は強く警戒するも、いっこうに攻めかかってくる様子はない。
 どうやらただの威圧行為にて心理的揺さぶりをかけているだけとわかって、警戒はそのままながら、内心では知らず知らずのうちに気を緩めていた。
 そのココロの間隙を突くようにして、暗殺部隊は行動を開始する。

 地下通路への入り口は外壁から離れた森の奥、沼のほとりに建てられた祠の裏にある大きな樹の洞内部にあった。
 物理的のみならず魔術的にも入念に擬装されており、初見ではまず気づけない。
 その厳重さこそが、この経路が三つの壁を超えて城内へと通じている証。

 白銀の大剣姿となっているミヤビに先導をさせつつ、ときおり立ち止まっては経路の確認および、敵勢や罠の有無をツツミにてわたしが調べる。
 許可を出すと、後続の覆面姿のアスラたちが続く。
 わたしはすぐうしろを歩く彼をちらり。
 それにしても意外だった。アスラの性格からして暗殺とか卑怯な手段をもっとも嫌がりそうなのに、今回は率先して発言し実行しようとしている。
 そんなわたしの視線に気づいたのか、アスラが目元をニッと細める。

「こう見えてオレさまだって成長してんだよ。自分で提案しておいてなんだが、やっぱり気に喰わないというのが本心だ。
 だがそんなつまらん意地と大勢の命を天秤にかけたら、どちらを選ぶのかなんて考えるまでもないだろう。首一つで戦が終わるのなら、そっちの方がいいに決まっている。流れる血も失われる命も少ないのにこしたことはない」

 そんな台詞を臆面もなく口にするアスラにわたしは施政者の顔をみた。
 かつては己の武勇に固執し、自惚れすら抱いていた第二十三王子。
 クンルン国の大練武祭で惜敗を喫して以降、きっといろいろあったのだろう。目の前のことにガツンとぶつかりつつも、物事を広くとらえて全体がちゃんと見えている。
 率先して自ら動く直情的な部分はあいかわらずだけれども、本当に頼もしくなった。友人としては彼の成長は喜ばしいかぎりである。
 あっ、そういえばアスラから彼の母親の形見だという指輪を預かったままだったっけか。忘れないうちに返しておかなくっちゃ。
 なんぞと考えているうちにも、一行が早や到着したのは例の強めの生命反応があった場所。

  ◇

 通路の物陰からこっそり向こうをのぞいてみれば、高い天井とひらけた空間があって、デデンと大きなピカピカ。金銀に色とりどりの宝石に鉄っぽい部分も混じっている。あれは……貝殻? 海辺とかに落ちている巻き巻きなもの。
 家ほどもある派手な貝殻を背負い、巨大なハサミを持ったヤシガニがもぞりもぞり。
 それを見たアスラが「あれはヤシガードか? しかしあの大きさはいったい……」と驚いている。

 ヤシガード。
 ヤドカリの禍獣が品種改良されたもの。
 環境に強く雑食。与える食材によって殻は変質する。肉質が良く風味豊かにて、おもに食用として飼育されている。茹でてよし、焼いてよし、生の場合は当たりハズレがあるので覚悟が必要。
 かつて貴族やお金持ちたちの好事家の間で、ヤシガードの殻をいかに斬新的に、もしくは優雅に育てるのかが流行したことがあったが、いまはすっかり下火に。それでも熱心な愛好家は残っており、日夜、研究に勤しんでいるという。

「……どうしてそんな禍獣がこんなところに住みついているの? しかもあんなに立派に、ごうじゃすに育って?」

 わたしが首をひねると、アスラが頬をぽりぽりかきながら「たぶん」と推論を述べる。

「あー、うっかり下水に落ちたのが、ここに流れついたんだろう。でもってエサも上からじゃんじゃん流れてくるしな」

 なにせ地上にある城塞都市ロディーテには十一万以上もの人間が暮らしている。
 うっかり排水に落とされた生ごみの類とてけっこうな量となる。そいつをモリモリ食べていれば、そりゃあ大きくもなるか。
 でもって殻を彩る金ぴかに関しては、元からここに保管されてあった隠し財産かもしれないとのこと。
 もしもの災難から身一つで逃れたとて、たちまち立ちゆかなくなる。再起をはかるにしろ、逃げおおせるにしろ先立つモノがいる。それへの備え。
 なんという用意周到さ。
 その細やかな気配りを施政に注いでいれば、そもそも抜け道なんぞをこしらえる必要もなかったであろうに……。


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