34 / 67
034 賜死(しし)
しおりを挟むもとは人間に飼われていたであろうヤシガード・ごうじゃす。
従来のヤシガードは基本的に喰っちゃ寝ばかりでおとなしい性格なのだとか。
だからすんなり通してくれるかもと期待したけど甘かった。
わたしたちを発見するなり巨大な二つのハサミでもって荒っぽくお出迎え。
「キシャーッ!」猛然と襲いかかってくる。
慣れているどころかめちゃくちゃ人間を敵視していることから、大切に育てられた愛玩系ではなくて食用として育てられていた系っぽい。
対するこちらとしては大切な任務の途中ゆえに、まともに相手をしている時間はない。
よってここはチヨコ組の出番。
「ミヤビ、アン、サクっと殺っちゃって」
白銀の大剣と漆黒の大鎌が飛び出す。
「かしこまりましたわ」「……がってん」
上段から乱雑に振り下ろされたハサミの一撃をひらりとかわす天剣たち。
ひゅんと銀閃にて右のハサミを刎ね飛ばし、斬っと黒閃にて左のハサミを切り落とす。
いくら大きいとはいえしょせんはヤシガード。天剣たちの敵ではない。
自分で指示しておいてなんだが、見ていて気の毒になるほどに一方的に切り刻まれていく。
節々した足が一本、二本、三本とぽんぽん断ち切られ、びっくりしたヤシガード・ごうじゃすはたまらず殻の中へと身を潜める。
そこを唐竹割りに一刀両断した白銀の大剣。
哀れヤシガード・ごうじゃす、金ぴかの殻ごと真っ二つに……。
が、ただでは倒れない。
ズーンと倒れるのと同時に地下空間に放たれたのは、とてつもない悪臭。
気持ち悪いとかクサいを通り越して、脳天の奥にガツンときて、いっきに意識を持っていかれそうになるほどの激烈なニオイ。
「うえっぷ、なぁに、これ……。目がチカチカする。頭がくらくらして、立ってられない」
たまらず膝をつくわたし。
そんなわたしの様子を案じてすぐさまミヤビとアンが「チヨコ母さまっ!」「……母」と戻ってくるも、彼女たちが近づくほどに強まる臭気。わたしの気がいっそう遠くなる。
アスラをはじめとした同行者たちもみな、似たような状況に陥る。
でもってアスラが「くっ、忘れてた。ヤシガードの内臓には臭気袋があったんだ」とぼそり。
なんでもモリモリ食べるヤシガード。いい成分はカラダの栄養とする一方で、いまいちな成分は貯め込んで石にして体外に輩出するのだが、その役割の一端を担っているのがその内臓器官。解体調理する際に料理人たちは、臭気袋が破れないように丁寧に取りだす。
けれどもそのことを知らなかったミヤビ、まとめてザックリしてしまったがゆえに起こった悲劇。
通常の個体ならば生臭くて顔をしかめる程度ですむけれども、あれだけの特大ともなればニオイもごうじゃす。
ぐぬぬぬ、とんだ最後っ屁をかまされてしまった。先を急ぐあまり判断を誤ったか……。
そんなことを考えているうちに朦朧としてきて、わたしはついにポテンと倒れ伏した。
潜入部隊、まさかの全滅!
◇
……なんてことはなく、すぐに目を覚ました一行。
気がついたときには悪臭はすっかり失せていた。
第四の天剣・太陽のつるぎムギが機転を利かせてくれたおかげ。
バタバタと倒れていく味方たち。あわてたムギが収納空間にヤシガード・ごうじゃすの死骸とともにニオイをぐんぐん吸い込んでくれたおかげ。
しかし恐ろしい攻撃であった。狭い地下空間という場所が場所なだけにシャレにならない。冗談を抜きにして全滅もありえた。
おもわぬ窮地に遭遇し一行はいっそう気を引き締め、先を急ぐ。
最大の障害を排除したあとの道行きは順調そのもの。
随所に仕込まれてあるからくりや罠とかも、侵入者を排除するというよりかは、追手を足止めする類のモノばかり。この抜け道の設計思想ゆえなのか、はたまた制作を命じた人間の性格なのかは判断に迷うところ。
わたしとしては後者のような気がするけど。
ときおりツツミの空間把握能力にて自分たちの位置や周囲を確認しつつ進むうちに、ついに突き当りへと到着。
そこからは昇り階段となっている。
昇った先が三つの壁に守られている城のかなり奥まったところへと通じているのはわかっている。
ここが緊急時に使用される通路だということからして、王の居室である可能性が高い。
第八王子がそこを使用しているかどうかは不明だが、城の構造上、少なくとも近辺にて寝起きしていると推測される。
別の紙にしたためた城内の見取り図を受け取り、アスラが「じゃあ、ちょっと行ってくる」とわたしに告げた。
そう、わたしのお仕事はここまで。ここから先は血みどろの暗殺劇ゆえに、お子ちゃまはご遠慮下さいとのこと。
いまさらな気もするけどゴネてついていくのもまたおとなげがない。
だからわたしは素直に従って「いってらっしゃい」とアスラたちを送り出した。
◇
なんならアンの転移能力で先に戻っていてもかまわないと言われていたけれども、わたしは待った。
万が一にも失敗したときには加勢して……なんぞと密かに意気込んでいたものの、それは杞憂に終わる。
しばらくするとアスラたち潜入組は誰一人欠けることなく静々と戻ってきた。
階段を昇った先は衣装部屋に通じており、王の居室のすぐそばだったんだとか。
中の様子をうかがってみれば呑んだくれて眠っている第八王子を発見。周囲に人影はなし。人払いをしていたらしい。
いろいろ追い詰められてのヤケ酒っぽいけど、この状況を利用することにしたアスラたち。
刃物を抜くことなくかわりに懐から取りだしたのは薬包。
これを混ぜた毒杯による賜死(しし)にて暗殺を遂げる。
傍目には自殺に見える状況をわざわざ演出したのは、残された者たちの怒りの矛先をかわす狙いもある。復讐心に猛られても迷惑なので。
かくして第八王子の討伐は人知れず成し遂げられる。
ほどなくして仰ぐべき主人を失った敵勢は瓦解。白旗をかかげ、ラクシュの軍門に下ることになった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる