剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?七本目っ!少女の夢見た世界、遠き旅路の果てに。

月芝

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034 賜死(しし)

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 もとは人間に飼われていたであろうヤシガード・ごうじゃす。
 従来のヤシガードは基本的に喰っちゃ寝ばかりでおとなしい性格なのだとか。
 だからすんなり通してくれるかもと期待したけど甘かった。
 わたしたちを発見するなり巨大な二つのハサミでもって荒っぽくお出迎え。
「キシャーッ!」猛然と襲いかかってくる。
 慣れているどころかめちゃくちゃ人間を敵視していることから、大切に育てられた愛玩系ではなくて食用として育てられていた系っぽい。
 対するこちらとしては大切な任務の途中ゆえに、まともに相手をしている時間はない。
 よってここはチヨコ組の出番。

「ミヤビ、アン、サクっと殺っちゃって」

 白銀の大剣と漆黒の大鎌が飛び出す。

「かしこまりましたわ」「……がってん」

 上段から乱雑に振り下ろされたハサミの一撃をひらりとかわす天剣たち。
 ひゅんと銀閃にて右のハサミを刎ね飛ばし、斬っと黒閃にて左のハサミを切り落とす。
 いくら大きいとはいえしょせんはヤシガード。天剣たちの敵ではない。
 自分で指示しておいてなんだが、見ていて気の毒になるほどに一方的に切り刻まれていく。
 節々した足が一本、二本、三本とぽんぽん断ち切られ、びっくりしたヤシガード・ごうじゃすはたまらず殻の中へと身を潜める。
 そこを唐竹割りに一刀両断した白銀の大剣。
 哀れヤシガード・ごうじゃす、金ぴかの殻ごと真っ二つに……。
 が、ただでは倒れない。
 ズーンと倒れるのと同時に地下空間に放たれたのは、とてつもない悪臭。
 気持ち悪いとかクサいを通り越して、脳天の奥にガツンときて、いっきに意識を持っていかれそうになるほどの激烈なニオイ。

「うえっぷ、なぁに、これ……。目がチカチカする。頭がくらくらして、立ってられない」

 たまらず膝をつくわたし。
 そんなわたしの様子を案じてすぐさまミヤビとアンが「チヨコ母さまっ!」「……母」と戻ってくるも、彼女たちが近づくほどに強まる臭気。わたしの気がいっそう遠くなる。
 アスラをはじめとした同行者たちもみな、似たような状況に陥る。
 でもってアスラが「くっ、忘れてた。ヤシガードの内臓には臭気袋があったんだ」とぼそり。
 なんでもモリモリ食べるヤシガード。いい成分はカラダの栄養とする一方で、いまいちな成分は貯め込んで石にして体外に輩出するのだが、その役割の一端を担っているのがその内臓器官。解体調理する際に料理人たちは、臭気袋が破れないように丁寧に取りだす。
 けれどもそのことを知らなかったミヤビ、まとめてザックリしてしまったがゆえに起こった悲劇。
 通常の個体ならば生臭くて顔をしかめる程度ですむけれども、あれだけの特大ともなればニオイもごうじゃす。
 ぐぬぬぬ、とんだ最後っ屁をかまされてしまった。先を急ぐあまり判断を誤ったか……。
 そんなことを考えているうちに朦朧としてきて、わたしはついにポテンと倒れ伏した。
 潜入部隊、まさかの全滅!

  ◇

 ……なんてことはなく、すぐに目を覚ました一行。
 気がついたときには悪臭はすっかり失せていた。
 第四の天剣・太陽のつるぎムギが機転を利かせてくれたおかげ。
 バタバタと倒れていく味方たち。あわてたムギが収納空間にヤシガード・ごうじゃすの死骸とともにニオイをぐんぐん吸い込んでくれたおかげ。
 しかし恐ろしい攻撃であった。狭い地下空間という場所が場所なだけにシャレにならない。冗談を抜きにして全滅もありえた。
 おもわぬ窮地に遭遇し一行はいっそう気を引き締め、先を急ぐ。

 最大の障害を排除したあとの道行きは順調そのもの。
 随所に仕込まれてあるからくりや罠とかも、侵入者を排除するというよりかは、追手を足止めする類のモノばかり。この抜け道の設計思想ゆえなのか、はたまた制作を命じた人間の性格なのかは判断に迷うところ。
 わたしとしては後者のような気がするけど。

 ときおりツツミの空間把握能力にて自分たちの位置や周囲を確認しつつ進むうちに、ついに突き当りへと到着。
 そこからは昇り階段となっている。
 昇った先が三つの壁に守られている城のかなり奥まったところへと通じているのはわかっている。
 ここが緊急時に使用される通路だということからして、王の居室である可能性が高い。
 第八王子がそこを使用しているかどうかは不明だが、城の構造上、少なくとも近辺にて寝起きしていると推測される。
 別の紙にしたためた城内の見取り図を受け取り、アスラが「じゃあ、ちょっと行ってくる」とわたしに告げた。
 そう、わたしのお仕事はここまで。ここから先は血みどろの暗殺劇ゆえに、お子ちゃまはご遠慮下さいとのこと。
 いまさらな気もするけどゴネてついていくのもまたおとなげがない。
 だからわたしは素直に従って「いってらっしゃい」とアスラたちを送り出した。

  ◇

 なんならアンの転移能力で先に戻っていてもかまわないと言われていたけれども、わたしは待った。
 万が一にも失敗したときには加勢して……なんぞと密かに意気込んでいたものの、それは杞憂に終わる。
 しばらくするとアスラたち潜入組は誰一人欠けることなく静々と戻ってきた。
 階段を昇った先は衣装部屋に通じており、王の居室のすぐそばだったんだとか。
 中の様子をうかがってみれば呑んだくれて眠っている第八王子を発見。周囲に人影はなし。人払いをしていたらしい。
 いろいろ追い詰められてのヤケ酒っぽいけど、この状況を利用することにしたアスラたち。
 刃物を抜くことなくかわりに懐から取りだしたのは薬包。
 これを混ぜた毒杯による賜死(しし)にて暗殺を遂げる。
 傍目には自殺に見える状況をわざわざ演出したのは、残された者たちの怒りの矛先をかわす狙いもある。復讐心に猛られても迷惑なので。
 かくして第八王子の討伐は人知れず成し遂げられる。
 ほどなくして仰ぐべき主人を失った敵勢は瓦解。白旗をかかげ、ラクシュの軍門に下ることになった。


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