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07 日照権
しおりを挟む私の城内での寮の部屋は地下の穴倉です。
別名、地下牢ともいいます。
緩やかなカーブを描く石の階段をずんずん降りていくと、分厚い扉があってその向こうに広がる地下空間。かつては多くの罪人どもがここで拷問にあい、壁には怨嗟のこもった血の跡が染みついて……、なんてことはなく陰気ながらもわりと小奇麗な場所。
本当は違うところを用意される予定だったのですが、寿退社するはずだった方が急遽キャンセルになって、空き部屋が無くなってしまったのです。
事情は知りませんが尾羽打ち枯らし項垂れる女性に鞭を打ち追いやってまで、新居を手に入れたいとは思いません。それにその方のお部屋ってだけで、なんだか縁起が悪そうですし……。
そこでラメダさんとどうしたもんかと相談していたところ、ちょうどこの場所についての情報を仕入れたのです。ずーと昔には使われていた時代もあったそうですが、いまでは別棟に専用の施設があり、長らく放置されていたそうで、造りはしっかりしていますし、水回りも問題ありません。なにより防犯体制が整っているのが気に入りました。鉄格子をゲシゲシ蹴っ飛ばしてもビクともしません。ある意味、王様の寝室よりも安全が確保されております。内装も勝手に弄っていいとのお墨付きを得ましたので、私はここを借り受けることに決めました。
ですが内装はそのままで使っております。せっかくの歴史あるプリズンの雰囲気を壊すのは偲びない。なお新品のボーダー柄の囚人服を何着か奥の備品倉庫内にて見つけたので、それを寝間着代わりにして過ごしております。
唯一の問題点はうっかり城内を寝間着姿でウロウロしていると、衛兵に追いかけられることぐらいですかね。それも二度三度と繰り返しているうちに、すっかり顔を覚えられてなくなってしまいましたが。
そんな私の部屋の隣の房は現在、同僚やメイドのお姉さま方のワインセラーとして活用されております。地下牢に住んでいる噂を聞きつけて見物にやってきた彼女たちに、ちょうどいいと接収されてしまいました。
まあ、部屋はいっぱい余っているので別に構わないのですが、「なんならご一緒に住みますか?」との誘いには誰も応じて下さいませんでした。
彼女たちによれば「日照権のない暮らしはちょっと」とのこと。
紫外線はお肌の大敵だということを、お姉さまたちに教えてあげようかとも思いましたが、それは止めておきました。
だって下手につついてパニックが起こって、穴倉に殺到されても困りますからね。
こんな穴倉生活ですが、わりと恩恵も多いのです。
まず給金がちょっぴり上乗せされておりました。給与明細の項目には「日照権」なる文字が……、どうやら不憫がった姉御が事務方に交渉して色をつけてくれたようです。あと同情が集まるせいか、お姉さま方からはやたらと物を恵まれます。おかげでお古の衣装で房がひとつ埋まりそうな勢い。それから騎士たちからは、ちょくちょくお菓子を分け与えられるようになりましたが、このままでは子豚ちゃんのように太りそうだったので、適宜に同僚のお姉さま方に分配しては道連れにしています。
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