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034 そして伝説へ
しおりを挟む聖都からきた使節団。
これに連れられてポポの里を出立した、剣の母チヨコ。
行く先々で、勇者のつるぎミヤビと共に数多の奇跡を成す。
ときに土の才芽と水の才芽にて大地を潤し、ときに飢餓と病に苦しむ民草を救い、ときに自ら勇者のつるぎを手に悪漢どもを相手にして大立ち回り、獅子奮迅の大活躍。ときに陣頭にて頼りにならない大人たちを鼓舞し、立ちふさがる巨大な災厄を退け続けた。
功績はキラ星のごとく。
皇(スメラギ)からの信任も厚く、天剣(アマノツルギ)にふさわしい持ち主を探し、各地を廻る日々。
旅の途中、救われし者、救われし土地、救われし心と魂、数知れず。
なのに当人はいたって謙虚。けっして驕ることがない。そんな彼女の態度が、ますます人々の尊敬を集める。
天剣の持ち主を探す旅。
始めた頃は、まだあどけなさが残っていた愛らしい少女も、やがて美しく気高い乙女へと育つ。
見目麗しいだけでなく、人心卑しからず。
まばゆいばかりの魂の輝きを持つ心優しき乙女。
これを慕い、惹かれ、告白する老若男女は鈴なりにて、あとを絶たず。
しかし剣の母としての責務ある身ゆえにと、チヨコは首を横にふるばかり。
例え相思相愛とて、その恋はかなわない。かなえるわけにはいかない。なぜなら自分には果たすべき尊い使命があるのだから。
世のため人のために我が身を犠牲にし、己の想いにもフタをして邁進する乙女。
その不器用なまでの真っすぐ、けれども切ない生き方に涙するもの数多。
ついには伝記となり小説となり、どちらも一千万部を突破。
舞台化されれば連日の大入り。国内外にて演じられて好評を博し、剣の母の勇名は津々浦々にまで浸透。
道行く小さい女の子に「あなたの将来なりたい職業は?」とたずねれば、みなが口をそろえて「剣の母さま!」と笑顔でにっこり。
◇
「……そして彼女は伝説となったのであった」
見た目は豪華なのにけっこう揺れる馬車の車内。
座席にて、わたしがぶつぶつ。
すると乙女の額をいきなりピシャリ。「てぃ」
手刀を落としたのはあきれ顔のホラン。
「おいこら、嬢ちゃん。里を出てまだ半日もたってねえってのに、勝手に旅を終わらすんじゃねえ」
「だって退屈なんだもの! しかもこの馬車、なんか遅いし」
「しようがねえだろう。百を超える行列だ。しかも軍人、官吏、楽師とかいろいろ混じってんだから」
事実、使節団の歩みはとってもノロかった。
せっかくの四頭立ての馬車だというのに、若干十一歳のわたしが歩くのとかわらない。
見かけ倒しにもほどがある!
わたしばブーブー不平を零すも、ホランは「これはそういうもんだ」とにべもない。
なんでもえらい人の行列ほど、ゆっくり動くものらしい。
せせこましいのは、やんごとない者のすることではない。
ましてや皇(スメラギ)さまが派遣した行列にて、なおのこと権威とか威容とか見栄えに気を配らなければならない。
よってわずかな乱れも許されず、ビシっとムダに背筋をのばし、気張って静々進むことになる。
「こんな辺境の草ぼうぼうの荒れた道。どうせ誰も見ちゃいないよ。とっととタカツキの街に行くべきだよ」
剣の母であるわたしはごねた。
勇者のつるぎミヤビに乗って、ビューンとブイブイしまくっている身からすると、現状は時間の浪費にしか思えない。こんな調子で一か月以上も旅を続けるとか、考えただけで吐きそう。
けれどもそのミヤビは旅が始まってから終始ごきげん。
彼女は基本的にわたしと密着できていれば、それでいいらしい。
ここぞとばかりにわたしが本音をぶちまけると、同乗しているお世話役の女官であるカルタさんは、ひらひらの袖で口元を隠しクスクス笑い、やはり同乗している使節団の代表ガラムトは「申し訳ありません。どうかどうか」と平謝り。
小太りの汗っかきのおっちゃんの体温上昇にともない、馬車の内部がほんのり暖かくなった。
いずれの派閥にも属さないマジメ人間ゆえに、代表という大役に選ばれてしまった不運な中間管理職。この人に謝られると「もう、しょうがないなぁ」という気持ちになるからふしぎ。
交渉の達人、里長のモゾさんをして「謝罪の神」と言わしめた逸材。もしかしたらその身に宿る才芽の影響なのか。
少々気になったのでわたしはたずねてみた。
「わたくしめの才芽ですか? 『計算』ですが、それが何か」
四桁五桁も瞬時にスラスラ暗算。役所仕事にて帳簿をつけるのに重宝している。
ガラムトは官吏になるべくしてなったというか、その才芽ゆえに官吏の道を選んだそうな。
とすれば、あの芸術的な土下座は後天的に身につけたものということになる。
いや、もしかしたらアレにも計算の才芽が関与しているのかもしれない。
だってその場その場の機微を見極めるのもまた、計算のうちなのだから。
あれ? そう考えるとこのおっちゃん、じつはけっこうできる人なのかも。
なお、ついでにホランとカルタさんにも才芽についてたずねたが、こちらは「秘密」とはぐらかされた。
カルタさんが意味深な笑みを浮かべたことからして、もしかしたら影に身を置く者として、相応の能力を持っているのかもしれない。
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