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035 ワガハイ
しおりを挟むポポの里から大人の足で西へ一日半のところにあるのが、タカツキの街。
周辺の中核を担い、年貢の集積地となっている場所。
花の品評会や作物の売買などで、わたしも二度ほどお父さんにくっついて来訪したことがある。
街というからには、里より人も物も規模もずっと大きい。千人ぐらいはいるのかな? お店もいっぱいある。なによりちゃんとした堀と高い外壁に守られている。門番の衛士が居眠りすることなく、きちんと仕事をしている。
とはいえ、それはあくまで辺境の里出身者視点から見ればのお話。
聖都周辺の中央育ちからすれば、これでも文化圏ぎりぎりのきわきわ。
百を超える使節団の行列を迎えたら、いっぱいいっぱいのはず。
なのに迷惑がられるどころか、街をあげての熱烈歓迎を受けた。
「剣の母さまー!」「チヨコさまー!」「生まれてくれてありがとう!」「皇(スメラギ)さまバンザーイ!」「伝説の幕開けぜよ!」「辺境の夜明けじゃき!」「神聖ユモ国に栄光あれ!」
ワーキャアと沿道に集った人々からの声援がやかましい。
「どうしてこんなに大人気?」
わたしが首をひねると、カルタさんがこっそり教えてくれた。
「そりゃあ、チヨコちゃんが剣の母になった恩恵がドバドバですもの」
ポポの里が潤うということは、聖都との中継地点となるこの地をも潤すということ。
とどのつまりは、金である。
景気よくバラまいてくれる相手ならば、そりゃあモロ手をあげて歓迎もするよね。
◇
街のえらい人から歓待を受け、なんやかやがあって、わたしが床につけたのはかなり夜もふけてから。
大きな部屋に高い天井。素人目にもわかる高そうな調度品の数々。天蓋つきの立派な寝台は広く、しかもフカフカ。
与えられた部屋が上等すぎて、ちっとも落ち着けやしないよ。
「まいったね。こんな生活を続けていたら、頭がおかしくなっちゃう」
大の字に寝そべりながら、わたしはぜいたくな悩みを吐き出す。
以前にカルタさんが「怠惰は甘い毒」と言っていた意味を、早くも思い知りつつある。
よほど気を引き締めておかないと、これは確かにバカになるね。
「でもチヨコ母さま。聖都に近づくほどに、もっと豪奢になっていくのでは?」
白銀のスコップ状態のミヤビに言われて、わたしはゾッとした。
いつしか感覚がマヒして、それが自分の中で当たり前になることが怖い。知らず知らずのうちに自分が自分で無くなるようで、たまらなく気持ち悪い。
「もしもヘンになりかけたら、容赦なくビシっとお願い」
わたしの懇願を受けてミヤビが「おまかせあれ、ですわ」といい返事。
ミヤビはわたしと二人きりのとき以外は、極力言葉を発しない。
旅が始まってからも、日中はダンマリを決め込んでいることが多い。
影矛のホランはとっくに見下しているらしく態度があけすけ。なのに影盾のカルタさんにはまだ用心している節がある。使節団の代表であるガラムトは言わずもがな。
どうやら勇者のつるぎは、剣の母を守るために警戒を続けてくれているみたい。
おかげで、わたしはとっても心強い。
いい子をもってお母さんは幸せです。
◇
ふかふかの寝台から抜け出し、わたしは窓辺に置いてある鉢植えのもとへ。
これはポポの里から持ってきた数少ない私物のうちのひとつ。
手ぶらでいいとは言われたけれども、生まれてこのかた、ほぼほぼ毎日土をイジってきた身としては、それができないのはとってもイライラする。
だから花壇の片隅で見つけた単子葉の芽を植えたコレを旅の慰みにと決めた。
発見されたときには、ひょろひょろの貧弱坊やだった芽も、わたしの水の才芽と土の才芽の恩恵にて、いまでは見ちがえるほどに逞しく……は、さすがにムリがあるけれども、それなりにスクスク育っている。
はてさて、どんな花が咲くのやら。
なんてことを考えつつ水をやっていたら、いきなり茎がにょろにょろ。まるで両手を広げんばかりに枝葉もにょきっと。
ついにはポンっとまん丸黄色い花まで咲いた。
「ワガハイ、ついに開花! 刮目せよ! 不浄なる大地に希望を与えんがため、ここに顕現せん」
咲いた花がべらべらムズカシイ言葉を発している。
フム。どうやら与えた恩恵が多すぎて、禍獣化してしまったらしい。
よもやこのような落とし穴があろうとは。
やはり才芽に頼りすぎるのはよくないね。今後は気をつけるとしよう。
独りごちているわたしに、黄色い花がゆらゆら。
「そこの小娘、くるしゅうない、近うよれ。そして存分にワガハイをいたわり、世話を焼くがよい」
横柄な物言いに即座に反応したのはミヤビ。
帯革よりしゅるりと抜け出した白銀のスコップ。ピカッと光って、たちまち本来の姿である白銀の大剣となる。
鉢植えに切っ先を突きつけ、「失礼? いま何て言いましたの。よく聞こえませんでしたわ」
第一の天剣(アマノツルギ)にして、伝説級のチカラを保有する武の権化。その気になったら、たぶん山ぐらいイケちゃうかもしれない。
そんなミヤビに詰問された黄色い花。
「すまん、ウソです。ワガハイ、ちょっと調子にのった。後生ですから、お水下さい。あと鉢に虫が入り込んでもぞもぞするから、とって欲しいです」
どうやら、この花の禍獣はこういう性格らしい。
できることは、おしゃべりと、身をくねくねさせることぐらい。
害はなさそうなので、わたしは「ワガハイ」という名前をつけて育てることにする。
せっかくだから観察日記でもつけようかな。
旅のお供にいい暇つぶしができた。
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