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055 質疑応答
しおりを挟むわたしが白銀のスコップをとり出したとたん、謁見の間がざわざわ。
「なんだアレは?」「ずいぶんと小さい」「勇者のつるぎとは短剣なのか」「おいおい、あれが天剣(アマノツルギ)だとでもいうのか?」「うん、よく見ろ。あれは園芸用のスコップじゃないか」「はぁ、武器ですらないというのか」「あの娘、ふざげおって!」「いや、かつては槍や盾の形で顕現した天剣もあったと聞くぞ」「いや、しかし、さすがにアレは……」「おのれ戯言を」「わざわざ足を運んだというのに」「これはとんだ無駄足であったわ」
さざ波のような声が、次第に遠慮が失せて大きくなっていく。
そんな不平不満を黙らせたのは皇(スメラギ)の御前に立つ銀髪の麗人。
手にした杖にて床をカツン。
たったそれだけの動作でみんながピタリと口をつぐんでしまった。
「ご覧のとおりだ。お嬢さん、すまないが天剣を本来の姿に戻してはくれないだろうか」
落ちついた声音と話し方。小娘相手に居丈高に命じるのではなく、やわらかい物腰による要請。けれども抗えない圧みたいなものがある。もっともそれはとても優しいもの。まるでお母さんからお願いをされているような感覚。とにかくふしぎな男性である。
「ミヤビ、いいかな?」
わたしは自分の胸元でおとなしくしている我が子に声をかけた。
「チヨコ母さまがお望みとあらば、よろこんで」
わたしの手を離れた白銀のスコップが宙へ。
ペカーッ! まばゆい光が謁見の間に満ち、姿をあらわす大剣。
黄金色の鍔には中央と両端に三つの珠。大人の男性の背丈ほどもある刀身が、神々しい白銀の輝きを放つ。
剣身の表面に刻まれた精緻で流麗かつ優美な模様。
足下の敷物の刺繍も見事ではあったが、並べたらその差は歴然。それどころかあれほど感心させられた宮殿の風景や雰囲気すらもが、色あせて見えてしまうほど。
あらためて知る我が子のスゴさ。
剣の母であるわたしは「へー」
そしてついさっきまで小バカにしていた連中は一転して「すばらしい!」を連呼。
思いつく限りの賛辞でもって、威風堂々たる勇者のつるぎミヤビを褒めそやす。
御簾の向こうからも「おぉ」という小さな驚きの声がもれ伝わる。
皇の御座を守る不動の武人すらもがカッと目を見開き、浮かんでいる白銀の大剣を凝視。
興奮を隠せない謁見の間に集った人々。
けれども銀髪の麗人だけが、ただ静かにミヤビではなくわたしの方を見つめていた。
◇
御簾の向こうにてチリンと鈴が鳴った。
とたんに、場の興奮が鎮まり水を打ったような静けさとなる。
この国で一番えらい人間の発言を遮ることは、何人たりとも許されない。それがこの国の法であり理。いかに外からきた身分の高い客人だとしても。
自らあまり言葉を発することがない皇。
第四十九代目・皇・ワシュウが天剣を前にして何と口にするのか。
みなが緊張した面持ちにて固唾を飲んで見守る。
「なにゆえスコップ」
タメにタメてもったいぶったあとの、この台詞。
わたしは「いまさらソコかよ!」とツッコミそうになるのを、ギリギリのところで耐えた。
事前にカルタさんから注意されていなかったら、ちょっと危なかったね。
で、あらためて思い返してみれば……。
この手の質問を、じつは誰からも面と向かってされたことがない。
使節団の代表としてやってきたガラムトをはじめとして、身近なカルタさんやホランすらもが触れようとしなかったのも、いまとなっては不自然な気がする。
はっ! もしかしてわたし……、みんなに気をつかわれていたの?
いや、それどころかとても残念な子とか思われていたのかもしれない。
とはいえ、スコップの姿に深い意味はない。
元はといえば、ミヤビが引き起こした「赤いスコップ惨殺遺棄事件。貴女を誰にも渡したくない。歪んだ愛の凶行。嫉妬が殺意に変わる時!」がことの発端。
けれども、さすがにそんな話をこんな場で披露するわけにはいかないだろう。
うちの子にも天剣としての立場がある。
ならば、ここは剣の母であるこのチヨコさまが、あえて汚名をかぶり愛娘の名誉を守るしかあるまい。
意を決してわたしは答えた。
「たんに趣味です。園芸大好き。土イジリ最高」
年頃の娘らしく、そして辺境の田舎者っぽく、世間知らずを演じつつ、あえて物怖じせずに天真爛漫さをまじえた愛らしい回答。
我ながら完璧だと自画自賛する。
けれども期待したような反応は返ってこない。
静まり返る謁見の間。
はずした感がありありにて、なんとも気マズイ雰囲気。
いたたまれない空気の中。
ぼそりと御簾の向こうから聞こえてきたのは「であるか」という、ただひと言であった。
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