剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!

月芝

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062 神泉

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 水争いの種となっている井戸。
 この問題を解決するためにと、近くに新たに掘られた竪穴。
 案内されてここまでお忍びでやってきたわたしは、アズキを上に残して周囲の見張りを頼み、さっそく穴に潜った。
 三十トト(約三十メートルぐらい)ほども掘り進められたところで、カチンコチンの岩盤が行く手をはばんでいる。
 手で触れてみるとひんやりじっとり。
 岩盤の下に水脈があるのはまちがいないみたい。

「どう、ミヤビ? イケそうかな」
「この程度、どうということもありませんわ」

 力強いお返事をもらったところで、わたしはさっそく作業にとりかかる。
 とはいっても実際にがんばるのはミヤビなんだけどね。
 白銀の大剣が地面に向かって垂直にブスリ。
 あっさり岩盤へと突き刺さる切っ先。
 じょじょにその剣身が地中へと呑み込まれてゆく。この調子だと問題なさそう。
 が、そうは問屋が卸さない。三分の二ほども入ったところで、動きがピタリと止まってしまった。
 どうやら剣の切れ味と自重のみに頼った掘削だと、これ以上は進めそうにない。
 ならば「えいや!」と気合を込めてグサリといきたいところだが、そうもいかない。
 なにせ勇者のつるぎは超強力な武器。
 実力未知数につき、下手なことをしてシモロ地区に巨大な奈落を出現させるわけにはいかないから。
 フム、しようがない。ミヤビにはスコップの形になってもらって、ここから先は自力でがんばるとしようか。
 なんぞとわたしが考えていたら「すみません、チヨコ母さま。ちょっと押してもらえますか」とミヤビが言った。
 愛娘がもう少しがんばると言うので、わたしは白銀の大剣の金ぴかの柄部分に手を伸ばす。両手で掴かむ格好にてぶら下がり助力。
 にもかかわらずウンともスンとも。
 そこでぶら下りながらぷらんぷらん、小刻みな振動を加えてみた。
 するとふたたび動き出した大剣。ズブズブと沈んでいく。
 しばし順調。けれどもあと少しで根元まで完全に埋まるというところで、ふたたび動きが止まってしまう。
 グイグイと上から押してみるも反応はなし。

「うーん。そろそろ水が出てきそうな気配なのですけど……。チヨコ母さま、ちょっとわたくしに乗ってみてもらえますか」

 言われるままに、今度は柄の部分を踏むようにしてまたがり、ついでにそこでぴょんぴょん跳ねてみる。
 二度、三度とくり返すうちに、急に足場がガクンと落ちた。
 ついに最後まで剣身が岩盤にめり込む。
 瞬間、ミヤビを中心にして四方八方に大小の亀裂がピシピシ。
 足下から伝わるかすかな震動。
 ぐんと濃くなったのは水のニオイ。

「おっ! やったか?」

 と、よろこんだのも束の間、勢いよく噴き出したのは大量の水。
 直下からまともにこれを喰らったわたしとミヤビは、そのまま竪穴の外まで運ばれ放出されてしまう。
 ドドドと轟音にて盛大にあがる水柱。
 打ち上げられて人間手裏剣と化し、宙をくるくる舞う小娘。
 危うく民家の屋根に頭から突っ込みそうになったところを、ミヤビに救われてことなきをえた。

  ◇

 住宅密集地にていきなり水柱があがれば、当然ながら近隣住人たちが「なんだなんだ」とこぞって集まる。
 そして彼らは目撃する。
 きらめく陽光の下、虹を背景に、白銀の大剣に乗って宙を飛ぶ少女の姿を。
 ウワサの紅風旅団首領の登場と水問題の解決に沸く一同。
 騒ぎをききつけて、どんどん増える野次馬たち。
 どうにか抑えようとアズキががんばっているところに、キナコとマロンが駆けつけてくれるも、ほとんどが焼石に水状態。
 で、極めつけが……。

「な、なんだこの水。ものすごくウマいぞ!」「妙に染みる。心が洗われるようだ……」「うそ、お肌のシミが消えたわ!」「目元の小ジワが!」「膝が、壊れていたオレの膝が治った!」「腰の痛みが消えたぞ!」「すっかり盲いておった年寄りの目に光が!」「立った、すっかり諦めていたオレのムスコが立ったぞ!」「死にかけてたうちのバアちゃんが元気になった!」「腐りかけの肉がいい感じに!」「うちの子の乳歯がとれた!」「着物の汚れがきれいさっぱり!」「くっ、さすがに髪の毛まではムリなのか……」

 こっそり井戸を掘って、こっそり事態を収めるつもりだったのに、身元がモロばれ。
 しかも水の才芽の効能が井戸そのものに宿ってしまったようで、どえらいことになっている。

「やっちまったねえ」とわたし。
「やってしまいましたわね」とはミヤビ。

 興奮する群衆を眼下に、剣の母と勇者のつるぎは困惑。
 井戸がひとつしかないから奪い合ってケンカをする。ならばふたつにすればいいじゃない。
 との軽い気持ちから行った結果が、より過激な紛争へと発展しかねない危険物を産み出す。
 良かれと思った行動。それがかならずしも良い結果を結ぶわけじゃない。
 そのことを実体験で学んだわたしは、またひとつステキな大人の女へと近づいた。

「じゃあ、そういうことで。あとはまかせた」

 すちゃと片手をあげ、集った群衆にもみくちゃにされているアズキたちに告げたわたしは、ミヤビを駆ってビューンとすたこら退散。
 アズキたちの悲鳴にも似た叫び声が聞こえたような気がするも、きっと気のせい。
 だってしょうがないじゃない。
 チヨコはまだ若干十一歳の乙女なんだもの。責任とかはさすがに少し早すぎる。それはもう少し胸が大きくなってからでもいいと思うの。

 かくしてシモロ地区にあらたな名所が誕生した。
 ひと口すすればスッキリシャッキリ。ご利益満点の甘露の水が湧く神泉の井戸。
 たいそう評判にて参拝する者があとを絶たず、連日大にぎわいなんだとか。


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