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063 ヘビとカエルと小娘
しおりを挟む選定の儀がついに始まった。
血沸き肉躍る熱戦続き。飛び散る汗と躍動する筋肉。華麗な技の応酬にときおり衣装がはだけてポロリなんかもあって、巷はすっかり興奮の坩堝と化している。
が、わたしの出番はまだまだ先。
なにせ「我こそは」と参戦した者が多数につき、ある程度ふるいにかけないことには、まともに武闘会も開けやしない。
そこで聖都各地にて予選が開かれて、最終的に残った十名が本選に出場することになった。
わたしや皇族たちが観覧するのは本選からとなっている。
このことは迎賓館を訪問した八武仙筆頭クムガンが教えてくれた。
そのときに「おっちゃんは出ないの?」とたずねたら「八武仙は国と皇(スメラギ)さまに忠誠を誓っており、職務があるのでそろって不参加」とのこと。
今回の大会には帝国の工作員らを炙り出す目的もあって、そっち方面でなにかと忙しいんだそうな。
着々と準備を整えつつ、同時に連中の探索も進めているけれども、そちらはあまり芳しくない。
以前にアズキたちに接触してきたというナゾの中年男。
おそらくは帝国の手の者をまとめている人物なのだろうが、その行方はようとして知れない。
わたしが描いたそっくりな似顔絵をタモロ地区やシモロ地区にバラまき、膨大な団員数を誇る紅風旅団による人海戦術も実行したが、そういう人物が確かにウゴウゴしていたという情報はいくつか拾えたものの、途中から足取りがプツリと切れてしまっている。
「おそらくは商人か貴族の中に手引きをしている者がいるのだろう。現地で協力者を調達するのは諜報活動の常套手段だからな。そっちの線も洗っているが、その手の売国奴どもに限って誤魔化すのだけは一級だからなぁ」
言いながら顔をしかめるクムガン。しかめっ面をいっそうゴツゴツさせた。
そんな武人と向かい合っていると、自然とわたしまで眉間にシワが寄り、口もへの字に。
肌にへんなクセがついたらイヤなので、わたしはこっそり指先で自分の眉間をぐりぐりもみほぐす。
◇
三すくみ。
ヘビはナメクジを、ナメクジはカエルを、カエルはヘビを恐れて、微動だにできなくなってしまうこと。
ことの真偽は知らない。
少なくともわたしはそんな場面に出くわしたことがないし、そもそもヘビがなぜナメクジを恐れるのかがわからない。
だからポポの里の学び舎にて、神父さまから教わった際には「いやいやいや、それはさすがにないわぁ」とあきれたものである。
が、三すくみは実在した!
しかもいま、わたしの目の前に!
昔の人はえらかった! バカにしてごめんなさい。
予選も無事にすんで十名が選出される。
選定の儀本選を翌日に控えた夜。
出場者らを激励する宴の席がもうけられ、そこにわたしもチラっと顔を出すようにと皇(スメラギ)さまからの御下命。
女官たちの手によっておめかしをされて、それっぽく仕上げられてから、カルタさんホランに会場へと強制連行される。
問題が発生したのは、会場へと通じる扉の前。
扉の前の廊下は丁字路になっており、わたしたちは正面から向かっていたのだけれども……。
左の通路奥からずらずらと大勢率いてやってきたのは、第一妃シンシャ。
明るい紫の色味をした、折り目正しい豪奢な衣装を身にまとった女の人。痩身の美人だけれども、どこか神経質っぽい感じがするおばちゃん。しゅっとした首がやや長く、雰囲気がどことなくヘビっぽい。
彼女の隣を並んで歩くのは、これまた煌びやかな格好をした青年。
御年十五歳になる第一皇子キミフサ。
目鼻立ちが母親そっくり。美形は美形だけれども、ヘビが化けた美形っぽい。
二人の背後に続くダボっとした祭服を着たヒゲおやじたちは、二柱聖教のえらい人たち。
第一妃派閥の主だった面々がずらっと勢ぞろい。
右の通路奥からずらずらと大勢率いてやってきたのは、第二妃メノウ。
淡い桃色を主体とした色味の、ひらひら飾りが多めの豪奢な衣装を身にまとった女の人。ちょっとふくよかで、かわいい系のキレイなおばちゃん。左右の目が若干離れており、雰囲気がどことなくカエルっぽい。
彼女の隣を並んで歩くのは、やや丸びをおびた体型の軍服姿のカエルっぽい青年。
御年十四歳になる第二皇子サキョウ。
これまた目鼻立ちが母親そっくり。いまはまだ小さなかわいげのあるカエルだけれども、じきに大きくなったらかわいげのないカエルになりそう。それなりに整った顔。美形というよりも愛嬌があるというべきか。
二人の背後に続くキリっとした軍服を着たヒゲおやじたちは、軍部のえらい人たち。
第二妃派閥の主だった面々がずらっと勢ぞろい。
次期皇位をめぐって激しく対立する両陣営。
なんの因果か、はかったかのようにそろい踏み。
立ち止まってのにらみ合いがしばし続く。
お互いに身分のある者同士ゆえに、さすがに声を荒げるようなことはないが、それでも無言の敵意の応酬がキンコンカンと激しい。見えない何かがバチバチと飛び交って、空気までもが心なしかヒリヒリ焼けていくかのよう。
でもって、そんな緊迫した場面に遭遇してしまったのが、わたしたち。
あわててカルタさんとホランが膝をついて礼をとったので、わたしもそれに倣う。
たとえ内心ではいろいろと思うところがあろうとも、公式の立場では向こうは皇族。雲上人にて、こちらが圧倒的に格下。だから頭を下げるのが当たり前のこと。
◇
三すくみのナメクジよろしく、脇汗をじんわりかきつつ、相手からお言葉がかかるのをじっと待つ。
それが上流階級に対する下々の礼儀作法ゆえに。
最初に動いたのは第一妃シンシャ。
手にした黒の扇子をパチン、小気味よい音を響かせ閉じた。
「ごきげんよう、メノウさま。あいかわらず息災そうでなによりです」
表面上は当たりさわりのない挨拶。けれども文言通りではない。意訳をすると「あんま調子のってんじゃねえぞ、デブ!」である。
するとこれにおっとりした調子にて応対する第二妃メノウ。
「はい、おかげさまで。シンシャさまもますますお肌に磨きがかかっているご様子。うらやましいかぎりですわ」
顔はニコニコ愛想がいい。手にした薄桃色の扇子を広げ、口元を隠す仕草こそはたおやか。だが、その向こうに見え隠れしている瞳はちっとも笑っていない。
そして意訳すると「上から目線でえらそうに。うっとうしいんじゃ、ガリガリ!」である。
二人そろって「慇懃無礼とはこういうことだ」を体現しており、部外者であるわたしですらもが容易に察することができるほどに、おとなげなく透けて見えている本心。
というか、隠す気がさらさらないよね!
ときに女の争いは、男のそれを軽く凌駕するというけれども、わたしのよく知る里の女たちのケンカとは、質が根本的にちがう。
相手を負かす、叩き潰すのみでは飽き足らず、踏みつけて高笑いし、散々にいちびる気まんまんなのがおそろしい。
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