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其の四百五十九 天魔王
しおりを挟む稲生物怪録に登場し、数多の妖怪たちを従える山本五郎左衛門(さんもとごろうざえもん)。
吉備国は由加山にて妖鬼たちを束ねていたといわれる阿久良王(あくらおう)。
飛騨国に降臨した、八本の手足に前後両面に顔を持つという異形の両面宿儺(りょうめんすくな)。
鎌倉の頃に陸奥国にて猛威を振るった悪路王(あくろおう)。
備前国の比熊山付近にときおりあらわれるという神野悪五郎日影(しんのあくごろうにちえい)。
伊勢国と近江国の国境にある鈴鹿山に居座っていた大嶽丸(おおたけまる)という鬼神。
冤罪にて都を追われ、遠い九州は大宰府の地にて死してのち、ついに大怨霊と化した菅原道真(すがはらのみちざね)。
朝廷に弓ひき乱を起こし、「新皇」を名乗るも討伐され、その首は晒されるも、首だけとなってもなお暴れて祟ったという平将門(たいらのまさかど)。
保元の乱を経て讃岐へと配流されたのち、みずからの血にて五部大乗経の写本を行い、最後に舌を噛み切っては写本に「日本国の大魔縁となり、皇を取って民とし民を皇となさん」「この経を魔道に回向(えこう)す」と血で書き込み冥府魔道に堕ちた崇徳天皇(すとくてんのう)。
戦国の世にいくつもの寺社仏閣を焼き払い、仏敵と認定され、第六天魔王と呼ばれた戦国の雄・織田信長。
大怨霊、魔王、鬼神、第六天魔王……。
呼び方はいろいろあれども、総じて邪悪な存在にて、争乱を招き地上に地獄を顕現せし者。
それが天魔王である。
平和や安穏、天下泰平を何より嫌い、人々の嘆きにうっとり陶酔し、血と死臭に溢れた戦乱の中に吹く殺伐とした風を好物とする、荒ぶる怪獣「橈骨(とうこつ)」なんぞも、これに近しい存在ではあるのだが、天魔王の恐ろしいところは、その影響力が大波となっては世界を席捲し、ありとあらゆるところに波及することである。
激しい野分がいくつも連続で押し寄せるようなもの。
誰も彼もが渦中へと呑み込まれては翻弄されるばかり――。
このままでは藤士郎が天魔王になりかねない。
地獄にて官吏を務める平蔵よりもたらされた驚愕の報せに、銅鑼たちは絶句する。
「そんな……。で、でも……だからって、どうして浅間山なんですか? あそこにいったい何が……」
おみつの疑問には銅鑼が答えた。
「あぁ、あの山は昔からふんづまりのせいか、やたらと怒りん坊なんだよ」
慶長、正保、慶安、承応、明暦、万治、寛文、宝永、正徳、享保、宝暦……。
徳川家が治める世になってから、将軍さまも代を重ね、年号も変わったが、その間にも猛り吠え続けていたのが浅間山である。
規模の大小はあるものの、じつに三十三回にも渡って暴れている。
これは同じく落ちつきがない九州の阿蘇や桜島なんぞよりも、遥かに多い。
記録に残されていない分も合わせたら、いったいいくつになることやら。
だが怒るのにも、元となる力がいる。
それこそが大地の力にて、信濃国の浅間山の地中にはそれがとりわけ多く溜まっている箇所があるのだ。
いまの藤士郎には、おそらく人としての理性はほとんど残っていまい。
そんな状態にあって、いっとう強く純然たる大地の力の気配を察知したがゆえに、彼の地へと向かったのであろう。
飢えからの渇望だ。
本能が力を求め、衝動のままに行動している。
その先に待つ破滅の奈落にはまるで気がついていない。
「落っこちる前に止めねえとな……。ったく、世話の焼ける男だ」
こうなれば手遅れになる前に、一刻もはやく浅間山へと向かうしかない。
そして例の地獄の仙桃とやらを、口にねじ込んでやるのだ。
だから銅鑼はさっそく桃を受け取り向かおうとするも、そこでおみつが「わ、わたしも行きます。いっしょに連れて行ってください」と言い出した。
気丈なことだ。藤士郎の身を案じてのことだろうが、さりとて危険ゆえに連れて行くことは出来ない。
だから銅鑼は「だめだ」とにべもなく。
しかし、ここで平蔵が鏡越しに「あー、それなんだが、じつは」と言い出したのが、仙桃の扱いについての大事なこと。
「その桃なのだが、じつは穢れに触れるとたちまち傷んで腐ってしまうのだ。そうなればせっかくの効能も失われてしまう」
ゆえに持ち運べるのは、心身ともに健全かつ穢れを知らぬ乙女のみ。
藤士郎の周辺にいる女性たちは、良し悪しにつけ癖の強い曲者ばかり。
条件に合致するのは、それこそひとりしかおらず、銅鑼は「はぁ、しゃーねえな」と嘆息した。
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